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「角換わり△6三銀待機型」における新手~自戦記 北島七段戦~

ABEMAで生中継された対局でした。

振り駒で後手になり、角換わりの一大テーマ図に進みました。

2020.7.21北島 朝日杯37手

△6三銀待機策

本局は「銀矢倉も視野にいれた△6三銀待機策」を選択しました。
この作戦の詳細は、上記のリンク先より。

2020.7.21北島 朝日杯42手

ここで先手には2つの選択肢があります。
▲6七銀と銀矢倉に組むのも有力です。
北島七段は▲4五桂と攻めてきました。

後手からすると、入城されて万全の態勢で▲4五桂と仕掛けられるのは、成否は別として嫌なもの。
そういった理由で、減少傾向の対策です。

記事の執筆時は減少傾向だったのですが、先日、渡辺明二冠が藤井聡太棋聖にこの対策で勝利しています。
それを受けて私も研究を進め、採用しました。

ちなみに藤井棋聖は先手番をもつと▲4五桂を選択しており、1勝2敗。
タイトル戦での初黒星と順位戦で唯一の黒星を喫しています。
▲4五桂から攻め込むのは気分がいいものの、その後の攻め方が難しい証拠と言えそうです。

△6三銀待機型の定跡手順

▲4五桂から、△2二銀▲3五歩△同歩▲6五歩△同歩▲5五銀△3三桂と進みます。

2020.7.21北島 朝日杯50手

細かい変化の解説は省きますが、これが定跡です。
公式戦での実戦例は10局にも満たないのですが、水面下で研究が進められています。

ここで▲1八角と打つのが攻めを継続する一着。

2020.7.21北島 朝日杯51手

普通の発想では到底浮かばない手で、将棋AIが無い時代であれば発掘されなかったのではないかと思わせる手です。

狙いは▲3三桂成△同銀▲6三角成△同金▲7二銀。そうなれば攻めがつながります。
ただ単純な狙いなので、△8二飛と浮いて▲7二銀の筋を消したり、△3六角と合わせたり、受けは簡単です。

しかしそれによって後手陣の形を変えて攻めの継続をはかるのが先手の真の狙いなのです。
実戦は△3六角と合わせて▲同角△同歩と進みました。

2020.7.21北島 朝日杯54手

まだ「△6三銀待機型」の定跡の範囲内です。
以下▲2四歩△同歩▲5三桂成△同金▲6二角と進みます。

2020.7.21北島 朝日杯59手

▲5三桂成に△同玉だと▲3五角で攻めが続きます。それが▲1八角△3六角▲同角△同歩で3五の歩を一つ動かした意味です。

新手

ここで△3七歩成と新手をはなちました。意味合いは企業秘密なので詳細は省きます。
(なお実際は▲2四歩で全ての前例を離れていますが、新着想という意味で△3七歩成を新手と表現しました)

実戦は▲7三角成△4八と▲3四桂とさらに猛攻を受ける展開に。
攻められっぱなしですが、△3一玉▲2二桂成△同玉と進み、

2020.7.21北島 朝日杯66手


「先手:銀、後手:金+桂」の交換なので駒得です。
なので攻めを受け止めてしまえば、自然と形勢をリードできます。
そういう意味で目的がハッキリしており、方向性は定めやすいと思いました。

△3七歩成からの展開も事前に色々想定していましたが、さすがに全て網羅するのは難しく、途中からは地力勝負に。
「受け」という方向性が定まっていて、研究範囲で進んだことで時間も残しており、悪い手は指さずに進められたようです。

早い投了

さらなる攻勢に堪える中で、

2020.7.21北島 朝日杯80手

▲7九飛と逃げた手が敗着になったようです。
飛車の働きが弱まり、攻めの継続が難しくなりました。

▲2七飛と逃げて、△3八角成に▲2五飛△同歩▲3五桂と攻めれば先手有利です。
後手も△3八角成では△4一桂などと守りを固めることになりますが、角を手持ちにされるので受け切るのも容易ではない形勢でした。

△3七歩成の新手周辺で時間を使わせて、上図のあたりでは先手は秒読みに追い込まれており、その辺の影響もあったでしょう。

最後は早い投了で少し驚きました。
ただ、帰宅後に解析したところ評価値に大きな差がついており、ABEMAの放送で表示される勝率にもだいぶ差がついていたでしょう。

なので視聴者の方も投了は致し方ないと感じられたと思います。
盤面だけだと訳がわかりませんが、こういう時に形勢が表示されるのは便利だと改めて実感しました。

結果的には新手が功を奏して、快勝となりました。
朝日杯は3年連続で初戦敗退していたので、今期はその借りを返したいものです。

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