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プロの居飛車 現在地 ー2020年3月ー

この記事では、居飛車においてプロで頻出の戦法を一つずつ取り上げ、2020年3月時点での状況を書いていきます。

今回は5つの戦法に分類しました。
具体的にはこの後の目次をご覧ください。
お好きな戦法を読んだり、中継を楽しむ手引きとしてご利用ください。

なお、振り飛車編はこちらから。

はじめに

相居飛車は将棋AIの影響で様々な定跡が掘り返され、どの戦法も数年前とは基本からして変わりました。
そして2020年現在、どの戦法においても新しい基本が定まりつつあります。

2手目に後手が飛車先を突くか角道を開けるかによって、作戦の主導権が変わります。

後手が2手目に△8四歩と突くと先手が主導権を握って、

▲7六歩に△8四歩

▲2六歩に△8四歩

・角換わり(初手は▲7六歩でも▲2六歩でもOK)
・矢倉(▲7六歩△8四歩に▲6八銀)
・相掛かり(▲2六歩△8四歩に▲2五歩)
先手はこの3つから選べます

2手目に△3四歩と突くと後手が主導権を握って、

2手目△3四歩

ここから、
・△8四歩なら横歩取り
・△4四歩なら雁木
・△8八角成なら一手損角換わり
3つの選択肢があります。

このうち、横歩取りは後手が苦戦しています。
雁木と一手損角換わりは変化球として用いられることが多く、基本的に後手は先手に主導権を委ねるケースが増えています。

そして先手が選べる3つの戦法は、後手がしっかり指せば簡単にはリードされないとみられています。

よって、後手が2手目に△8四歩と突いて先手に選択肢を委ね、先手が角換わり・矢倉・相掛かりの3つのどれかを選ぶ、というのが最近の相居飛車の主流です。

ここから5つの戦法について一つずつみていきます。
全てを理解しなくても、急所をおさえれば十分に盤上の物語を追うことができます。
この記事がその手助けとなれば幸いです。

角換わり

相居飛車の中心はこの数年ずっと角換わりです。
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠といった頂点に立つ棋士が愛用している影響は大きいでしょう。

角換わりは、急戦(棒銀&早繰り銀)と持久戦(腰掛銀)に別れます。
プロでのメインは腰掛銀です。
その角換わり腰掛銀には一大テーマ図があります。


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一段飛車と一つ上がった金、そして入城しない玉が特徴的です。
このテーマ図では後手に多くの選択肢があり、無限の変化が秘められています。もちろん形勢は互角です。

ここ最近、後手の急戦策が減っています。

これは、
・急戦策に対する先手の対策が整った
・後手が腰掛銀で困っていない
この2つが要因です。

むしろ、先手が早繰り銀を採用する将棋が増えています。


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そして先手が早繰り銀を採用することで増えたのが相早繰り銀です。
これもまた深淵な世界が広がっており、結論が出そうにありません。
後手は腰掛銀や右玉で受けるのも有力です。

一手損角換わりでは先手が急戦策を採用するケースが目立ちます。
一手早い分、急戦がうまくいきやすいと考える棋士が多いのでしょう。
しかし先手が急戦に出ても簡単に後手が悪くなることはありません。

先手の急戦策に対抗できるとわかり、一手損角換わりの採用が増加中です。一手損していても、それがかえって都合よく働くケースもあります。


角換わり急戦は定跡化が進んでおらず、そこに魅力を感じて普通の角換わりで先手が急戦策を採ったり、後手が一手損角換わりを採用して先手の急戦を誘う、といったケースもみられます。

角換わりの参考図書をご紹介します。
深い研究を求めるなら、

網羅性を求めるなら、

この2冊がオススメです。


矢倉

矢倉はこの1年ほどで完全に復活しました。
これは後手の急戦策への対策が整ったからでしょう。
そして、矢倉党のプロ棋士が多いこともあり、採用数が増えています。


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これが後手急戦への対抗策で、すぐに飛車先を伸ばすのがポイントです。

先手としては2筋が交換できたら、3九銀型を生かして(△2八歩がない)横歩を狙って後手の急戦の出鼻をくじきます。
それを嫌って後手が△3三銀と上がれば角道が止まるので急戦が怖くありません。

ただし、先手も▲2五歩を決めてガッチリ組み合うと、攻撃態勢の構築が悩ましくなります。

ならば2五歩型を生かして先手が急戦でいけないのか、という考えが出てきています。
後手は急戦を仕掛ける側から、急戦をおさえる側にまわっています。

また2五歩型を生かす作戦として、先手が藤井(猛九段)流の早囲いを志向したり、

藤井流早囲い


脇システムも復活傾向です。


脇システム



いまの矢倉は定跡の移り変わりが早いため、新たな進化が始まりそうな予感もあります。
先手にも後手にも工夫の余地が大きく、矢倉党は新しい世界に心踊らせているかもしれません。

後手の急戦策への対策が充実している一冊を参考図書として。



相掛かり

相掛かりが戦法として確定するのはまだ10手にも満たない下図です。
この局面をもって相掛かりとするため、相掛かりは戦法として幅がありすぎます。


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しかし、ここ2年くらいで相掛かりの定跡が少しずつ整ってきた印象です。
一つのテーマは玉の位置関係です。


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これは6八と5二の対抗形です。
ここで後手が飛車を8四に引くか8五に引くかによって、進行が違ってきます。

こうした細かい違いが仕掛け周辺で影響し、その影響を把握しているとリードを奪いやすいのが相掛かりの現状です。


先手のほうがリードを奪いやすいのですが、無理にリードを奪いにいくと後手にカウンターを決められます
どちらかが有利というのはまったくなく、互角です。

定跡の整備は始まったばかりで、いったいどの程度の年月で定跡が整ってくるのか、想像を絶するほどです。

定跡が整っていないからか、相掛かりは参考図書が少ないです。
上図の▲6八玉型を中心に取り上げている本をご紹介します。



横歩取り

ここ数年、横歩取りはプロでの採用率がガクンと落ちています。
先手の作戦として青野流が優秀なのが要因です。


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後手がどう対応しても、将棋AIは先手有利と判断し、しかも後手が失敗すると大きな差になりがちです。
振り飛車編でも書いたように、玉形が薄くても将棋AIの評価値を後ろ盾に研究しておけば安心感があります。


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例えばこれは青野流の一変化で、公式戦でも登場している局面です。
この局面でパッと正解を見つけるのは大変ですが、将棋AIで研究しておけば正解を指して形勢をリードできます。
(ちなみに、▲6六歩が好手で先手良し)


ここ最近、横歩取りを得意としていた棋士の苦戦が目立っており、そのことが横歩取りの苦戦をより一層際立たせているように思います。

青野流のみを取り上げた参考図書をご紹介。
藤森五段の著書は、どれもわかりやすいのでオススメです。


雁木

雁木囲いの優秀さに疑いの余地はなく、振り飛車まで含めて各戦法に組み込まれるようになりました。
戦法の幅を広げるという意味で、近年の大きな発見でした。

ただ、いきなり雁木囲いを目指す格好は勝率的に優れません
決定的にまずい形があるわけではありませんが、先手に有力な対策が多く、その全ての対策に準備しないといけないのが要因でしょう。


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ここから先手の急戦策として、2つのルートがあります。
・▲3六歩~▲3七銀~▲4六銀(▲2六銀)
・▲4六歩~▲4七銀~▲5六銀

囲いも2パターン考えられます。
・左美濃(▲7八銀~▲7九玉)
・金無双(▲7八玉~▲8八銀)

先手は矢倉囲いや相雁木囲いでジックリ指すのも有力です。


これらすべてに対応しないといけないのが雁木を目指すときの弱点です。

そのため、雁木をメインで使う棋士が少ないのが現状です。
ただ、雁木は実戦的なアヤが生じやすいため、変化球として採用するプロは多くいます。
今後も指され続けることでしょう。

雁木はようやく棋書が増えてきつつあります。
この参考図書は、最近になって発売開始されたものです。


おわりに

2020年3月現在のプロの居飛車をまとめると、

角換わり互角。相腰掛銀も急戦も定跡化が進んでいる。後手の一手損角換わりも増加傾向


矢倉互角。復活傾向で、新しいテーマが次々と生まれている

相掛かり互角。少しずつ定跡が整備されているが、いまだ手探り

横歩取り先手有利。青野流に後手が苦しみ、減少傾向

雁木やや先手有利。先手の対応策が豊富

このような感じになっています。

昔は、
・先手番なら相掛かり
・後手なら横歩取り

こうして自分で誘導できる戦法を一つずつ持っていれば十分でした。

ところが後手番では自分で誘導する戦法を使いづらくなり、プロが公式戦で居飛車を指す場合、角換わり・矢倉・相掛かりを全て理解する必要があります。

先手番ではこの3つのうち、相手の苦手な戦法を採用するのか、自分の得意戦法を貫くのか
例えば、渡辺三冠は相手のスキを見て角換わりと矢倉を使い分けています。
豊島竜王・名人は、角換わりというエースを使い続けています。

それが個性であり、棋風と呼ばれるものになっています。
こうしたことを理解して将棋を観ると、芳醇さがより増してくるでしょう。


それぞれの戦法の深い掘り下げは、また記事と時期を改めてご紹介していきます。

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