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フィールドレコーディングについて③

立ち木や岩になりきる

かつて僕は、いい音を撮るために、なるべく野鳥や獣を刺激しないように心がけていました。フィールドでは微動だにせず、長い時は12時間同じ場所で録音し続ける。そうすれば彼らは警戒心がなくなり、近くに来てくれるだろうと。

もうひとつ岩になりきる理由があるんですが、僕はレコーダーやマイクの近くで、ヘッドホンをつけながら録音します。自分の体とマイクが近いので、体を動かすと衣擦れの音が入るし、咳はダメ、なんなら呼吸しない、ぐらいの覚悟で長時間。目だけは動かせます。これ、非常につらいです。

どうしてそんなことするの?レコーダー放置すればいいじゃん?というご意見もあるでしょう。でもこれは不測の事態に備えるために必要ですし、長時間録音のどのタイミングでいい声が入った!などのモニタリングの意味も。どの時間帯にどの生き物が鳴くか、などの自分自身の経験値を上げるためにも必要です。要は、自然観察眼を鍛える、ということ。

不測の事態①入力ゲイン

じゃあ、どんな不測の事態があるんだよ、ということですね。前回はオフマイクとオンマイクのお話を少ししました。まずは、ほぼオフマイクの状態で高原の音を録音していた時のおはなし。

その日美しい高原では、遠くでカッコウが鳴いていました。やまびこも。そう、カッコウが一声鳴くと、カッコー・・・カッコー・・・とやまびこも響く。これは素晴らしい!ということで、身を隠せる木の下で録音開始。オフマイク状態ですので、やまびこも録れるように入力ゲイン(録音入力音量)を最大にして。これが間違いだったのです。

最初のうちはよかったんです。でもほら、僕は岩になりきっているから、カッコウも僕を認識できなかったようで。

なんか羽音がした!と思ったら、頭上の木の枝がワサワサと音を立てて。そうです。カッコウが来たんです。

まずいまずい、この状態で間近で鳴かれたらクリップする、レベルオーバーだ、頼むから鳴かないでくれ!

・・・祈ったんですが、無駄でした。カッコーカッコーと思い切り鳴かれました。ヘッドホンしてるから耳も痛い。これは残念だったなあ。

そのカッコウの鳴き声ですが、間近で聞くと美しいよりもうるさい、という印象。もっと言うと、酒場で酔っ払ったおじさんが大声でくだらないことを言って周囲を困らせているような状況に似ているな、と思いました。

カッコウの鳴き声は、「カッコー」だけではありません。「ワン!ワン!」とか、「ウシャシャシャシャ」など、結構いろいろなことを叫びます。

これを「酒場のおじさん語」にしますと、

「ウシャシャシャ!カッコー!カッコー! あたしゃね、犬の鳴きまね得意なんだよね! ワン!ワン! ウシャシャシャ! ほらね! ゲホッゲホッ! カッコー! ウシャシャシャシャ!」

という感じでうるさいことこの上ない。おまけに全部大声。あまりに耳が痛いし、録音もNG作品決定なので、岩であることをやめて上を見ました。

・・・・頭上30㎝の位置で鳴いてやがった・・・

カッコウは、見上げた僕の姿を確認したのか、「ウシャシャシャ」と嘲笑うように鳴きながら飛んでいきました。

・・・なんか敗北感すごかった。よくばって入力ゲインMAXにするんじゃなかった。


次回は不測の事態②です!

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