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病ませる水蜜さん 第十話余談二【R18】

猫の日なので、ネコ科の逸物で責められるメスお兄さんのBLを書きました。

はじめに(各種説明)


第十話の三『襲撃! 陰陽師』後のおまけシーンです。読まなくても本編には支障のない場面なので番外編的に分けました。R18を避けたい方は飛ばして頂いて大丈夫なお話です。

【特記事項】
・月極紫津香と炎天の出会いの過去話があります。
・R18シーンは炎天×紫津香のみですが、過去に礼寛×紫津香があってそれを忘れられていない紫津香がいます。
・第十話を読んでいること前提で書いています。
・今後もこの一次創作BLシリーズはCPも受け攻めも固定しません。好きな組み合わせの小説を選んでね!
・このオリジナルシリーズは私の性癖のみに配慮して書かれています。自分の好みに合うお話をお楽しみください。

ご了承いただけましたら先にお進みください。

陰陽師と式神


余談二『炎天と紫津香』


 昔々、ある山奥の村に、一匹の虎が閉じ込められていた。彼は長く生きた虎型の妖獣で、たまたま弱っていたところを霊感の強い人間に捕らえられてしまった。彼を神霊だと勘違いした人間達は、自分たちの村の神になってもらい恵みを得ようとした。土地に縛りつける呪縛を施し、彼専用のお社を建てて閉じ込めたのだった。
 酷い話のようだが、ここまでの話は妖獣にとってそんなに悪い話ではなかった。嘘から出た真、人間からの信仰が集まれば本当に神霊になれるかもしれないからである。そうなれば人間の呪縛ごとき跳ね除けて、信仰だけ吸い上げながらある程度自由になれる……そのはずだった。
 しかし村人から得られる信仰は薄かった。というのも、その村にはすでに別の氏神がいたのだ。その神に隠れてこっそり妖獣を捕らえ、もうひとつの信仰を勝手に生み出してしまっていた。その神が支配する地域は広範囲にわたっており、与えられるお恵みが足りないと思っていた村人は妖獣を飼い殺し自分たちだけ余分に恩恵を受けようとしていたのである。
 実態を知った妖獣は怒り狂った。腹いせに、定期的に人間を生贄に捧げる決まりを作らせて村人を喰い殺しはじめた。いつしか生贄の因習だけが残り、村人たちは長年苦しむことになる。その惨状はやがて外にも知れ渡ることとなり、その日はやってきた……

「お前が今年の花嫁か」
 毎年捧げなければならない生贄は、若い娘に豪奢な婚姻衣装を着せたものだった。はじめは『若い娘』という指定だけだったのが『大切に育てられたものほど良い』『美しく仕上がっているほど、恵みを与えよう』と要求は年々エスカレートしていた。
 顔を上げるよう命じられ、伏せていたかんばせを見せた花嫁は類い稀なる美しさだった。そして身に宿した霊気も極上だった。妖獣は満足気に彼女のもとへ歩み寄る。何人も人を喰らって力を蓄えてきた獣は人のかたちをとることを覚え、褐色肌の立派な青年の姿となって端正な顔を近づけた。
「ここのところ質が落ちる一方だったが、今までで一番上等なのが来たな。こんな上玉を隠していたとは、俺も舐められたものだ……まあ良い。いよいよ出せる娘がいなくなり、泣く泣く箱入りを差し出したというところか」
 花嫁は黙ったまま、静かに妖獣を見つめていた。怯える気配のないところが気に障ったので、手首を掴んで乱暴に引き寄せた。露わになる白い腕、そこにざらりと舌を這わせる。人の形をしていても彼は妖獣。虎のようなネコ科の身体的特徴を備えており、舌には無数の棘が生えていた。柔肌は傷つき、花嫁はわずかに身を震わせた。
「今までの花嫁は皆、初夜で朝を迎えることなく死んだ。何故かわかるか? 魔羅もこれと同じだからだ」
 口を大きく開け、ざらついた舌を見せる。
「胎の中からずたずたに裂かれ、泣き叫びながら息絶える。恐ろしくなってきたか?」
「……」
 花嫁は怯えた様子はなく、無表情のまま妖獣を見つめていた。ならば痛みでわからせてやろうと、妖獣は彼女を押し倒して着物を剥ぎ取っていく。分厚い打掛が床に広がって……そのとき、無数の細長い布が着物の内側に挟まっていたことに気づいたのだった。
「なんだ、これは……っ⁈」
 布には何やら文字や記号がびっしり書き込まれていた。それらがひとりでに浮き上がると、蜘蛛の巣のように広がって妖獣に絡みついた。
 それは、怪異対策用の呪布。平素は紙のお札で作るものを、特別丈夫な布で作り上げた妖獣捕獲専用のまじない道具だった。
「すっかり騙されてくれたなあ」
「お前……男か……!」
 上半身を露わにされた花嫁には胸の膨らみがなく、細身ではあるものの肩はしっかりとした成人男性のものであった。
「私は替え玉。村の人に泣きつかれ、娘と入れ替わって忍び込んだ。あんたの境遇、多少は可哀想かもしれへんけど、それ以上に罪もないおなごたちを殺しすぎや。人に害なす獣として、この陰陽師が退治させていただきます」
「は、はは……! 若造の陰陽師一人になにができる! 安心せよ、俺は人間の雄雌などさして気にしない。犯して、鳴かして、その霊力に満ちた旨そうな肉を喰らい尽くしてくれる」
 こんなもの、と嘲笑えば。妖獣を戒めていた呪布があちこち黒く焦げ始め、燃えて千切れていく。もう数秒も拘束していられない……絶体絶命の危機でも、若き陰陽師は涼やかな表情を保っていた。
「おお怖い……せやけど、これで十分。ほんの少しだけ動きを固定できれば。ほら」
 突然の雷霆。天から降ってきた一撃に丸焦げにされ、妖獣は白目を剥いて倒れた。

「もう少し昔の話であれば、獣の一匹や二匹どうということは無かったが……今はな、人間の社会というものも随分と変わったのだ。人を生贄になど大事になる。吾の氏子の中にそんな時代遅れが残っていれば、動かざるを得なくてな」
「雷轟様。御足労感謝致します」
 着物を整えた陰陽師が、淑やかに平伏し神霊を迎えた。
「何、元はといえば吾が依頼したことだ。助けがなくとも何とかなったが……今時、神霊が動くとなると色々とな。お前のおかげで人間たちへの影響を最低限に抑えて片付いた」
「勿体無いお言葉でございます」
「働いた分の見返りはやらねば。吾か、宮司で手配できるもので欲しいものを申すと良い」
「いえ、そのような……」
「遠慮するふりはよせ。欲しいものは決まっているという声をしているぞ」
 雷轟はにやりと笑った。
「私としたことが、はしたない……」
「そのくらい野望がある方が好ましい。さあ、言ってみろ」
「……では……」
 そっと顔を上げる。鋭い視線は、龍神に踏みつけられている哀れな妖獣に向けられていた。
「そこの妖獣を殺さず、私に引き取らせていただきとうございます」
 龍神の力で殺せばそれで済んだのに。一体何のために瀕死の獣を欲するのか……雷轟にはおおかたの予想がついていたが、黙って若き陰陽師の願いを聞き入れ獣を引き渡した。
 陰陽師の狙いは、妖獣を自分の式神にすることだった。服従させた後に神霊になるまで強化し、神を自分専用の下僕にするのが目的だった。しかし、それは容易いことではない。前例が無いわけではないらしいが、今生きている現代陰陽師の中で妖獣を従える者は多くいても、神霊を式神にしている者はいなかった。それでも、若き陰陽師にはやり遂げねばならない理由があった。

「……名前くらい聞いてやる、俺の花嫁」
「まだ立場がわかってへんなあ」
 妖獣の青年は拘束され、新陰陽寮の中の怪異用牢獄に幽閉されていた。陰陽寮には捕らえた悪霊や妖獣を式神に改造する道具が揃っており、この牢獄も必要な施設のひとつというわけだ。
 神霊によって打ちのめされた妖獣は弱りきっており、陰陽師による拘束を破れなくなっていた。さらに神霊である雷轟からは「礼に野良猫一匹は少ないから、おまけにこれもつけてやろう。もしものときの護身用にもなる」と妖獣を打ちのめした力を札に込めてもらっていた。全力で使い切れば、妖獣を殺すこともできる雷なのだが、陰陽師はそれを小出しに使い妖獣への拷問に用いていた。
 妖獣は、度重なる雷撃により四肢が焼け焦げ炭のようになっていた。厳つい首輪には呪いが込められていて、そのせいで手足を回復させることができない。そんな絶望的な状況でも、若い男の姿をした妖獣は不敵に笑った。目の前の陰陽師と初めて出会ったときの姿を揶揄して花嫁と呼べば、頭を蹴飛ばされ冷たい石の床にうつ伏せに倒れた。華奢に伸びたピンヒールで容赦なく頭を踏まれれば、それをスイッチにして雷撃が全身を襲う。
「まだ懲りへんの? 思ったより頭の悪い獣やね」
 ぐりぐりと地面に擦りつけてから、ゆっくりと足を退けた。それでも獣は嗤っている。
「は、はは……わかったからな。お前は俺を殺すつもりがないと」
「それはまあ、できたら死んでほしくはないけど。ただの人間である私に殺されるくらいの獣なら仕方ないなあ、くらいしか思っとらんよ」
「ただの人間、ねえ……」
「何か言いたそうやね」
 人形のような顔が微かに歪む。
「俺がもう一息で神霊になれるのはわかっている。その手助けをして信仰の保証もしてやる。だから式神の契約をして服従しろ……などと。本物の神霊すら利用して妖獣を手に入れ、首輪をつけてから神霊にするなど普通の人間は思いつかんよ。俺を縛りつけた村の霊能者でもそこまでイカレてはいなかった」
「それで? 契約する心の準備はできた?」
「お前のことが知りたくなった」
 妖獣の金色の目に、艶やかな黒髪の美青年が映っている。
「名前は」
「式神になるなら教えたげる」
「ではとりあえず、俺の花嫁さん。お前はすでにかなり力のある陰陽師と見える。一時的にでも一人で俺を拘束した術、あれだけ古めかしく尊大な龍神の協力をとりつけた手腕。いずれも、娘みたいな若いなりで大したものだ。流れる血もなかなか高貴なものと見える。それでさらに、神霊の式神が欲しいというのか。その欲深さ、気に入った。神霊を手に入れたら次は何を欲しがるのだ。言ったら契約も考えてやる」
「私など、大したものではあらしまへん」
「そういう上っ面はいい。契約するのだろう。したら何もかも見られてしまうぞ」
 彼の言う通り、契約をすれば魂が繋がる。相手が神霊なら尚更干渉は強く、心の内側はいずれ暴かれてしまうだろう。
「……力が欲しい」
「何のために」
「私はこのまま何もしなくても、現代陰陽師の頂点に据えられる。せやけどそれに胡座をかいていればただのお飾り、血統だけもてはやされるお人形にされてしまうだけ」
「名実ともに、その猿山の頂点で力を誇示したいと」
「まあ、そんなもんや」
「足りんな。権力やらを手に入れて、やりたいことがあるはずだ。次はまつりごとにも手を出すか? そこらじゅうの怪異を従えて、どんな人間も平伏させ踏みつける神の化身にでもなるか? いっそ不老不死でも目指すか?」
「あんた随分自分を過大評価しとるんやね。龍神の雷で黙るくせに」
「言ってくれる……あのような古臭いトカゲ一匹、神霊にさえなれば、噛みちぎって角も粉々に砕いてやる」
「はいはい、強い強い。せやけどそこまでやらせるつもりは無い。神霊と戦うなど……それが悪霊に堕ちかけて人に害なすものならあるかもしれんけど」
 一息おいて、次の言葉は真剣に言う。
「人に害なす怪異すべてを排除したい。そのためにはあの龍神に並ぶような、神霊の力が要る。私を決して裏切らない、私の身体の一部のように動く神霊のしもべが」
「神を信仰して、助けを求めるのではいけないのか。多くの人間はそうしているだろう」
「それは、あかん……誰かに頼って、助けを求めて安心しているのは確かに楽で、そうすることは決して悪しきことではない、けれど」
 陰陽師の目は、妖獣を見ているようで見ていない。背後に誰かを見ているような……これまで助けを求めてきた誰かの影を見て、必死で振り払おうとしているような。その揺らぎに美しさを感じて、獣はうっそりと微笑んだ。
「私は、自分の足で立ちたい。むしろ誰かに助けを求められる側の人間にならねばならないのだから」
「そうか。大体わかった。あとは契約した後にじっくり見せてもらうとしよう」
「漸く観念した?」
「ただし」
 やはり、タダでは降伏しないか……何しろ、一度承諾すれば陰陽師の下僕になってしまう。少なくとも寿命で死ぬまではこき使われるし、その後もどんな扱いをされるかわからない。どんな代償を求められるか……陰陽師が身構えると「やはりまだ幼いな」と獣が甘く笑った。
「生きてる間。お前が人間としての生をまっとうする間、確かに俺はお前の式神になろう。いかなる時も横に侍り、従僕のように尽くしても構わない。だが、俺をどこかに封印して遠ざけたり、他の人間に譲り渡すことは許さん。あくまで仕えるのはお前にだけだ。そして」
 一番大切な条件を告げる。
「その生が終わっても離れることは許さん。その肉体が死んだとき、骨のひとつも残さず俺が喰い尽くす。お前の魂も輪廻から引き剥がし、我が神域に永劫幽閉する。それを受け入れるなら、契約しよう」
「死んだら……魂を……」
「怖気付いたか」
「人ひとりぽっちの肉と、魂だけで……そこまで従うんか。妖獣にとっては、長くて百年弱ならほんの一瞬みたいなもんか」
「だけって……お前やはりただの人間などと名乗るなよ。死んで解放されることも許されなくなるんだぞ。それを随分軽く言ってのけるな」
「あんたこそ。死んだら精々して別れられるのに、しつこく私を閉じ込めようとはどういうつもり? 死んだ後、逃げられんようにして延々仕返しでもするんか」
「そんな艶っぽいなりしてそこは鈍いのか。口説いたつもりだったんだがな」
「は?」
 式神のうちも、死んでも一緒にいたいだけで契約するってこと……? ほのかに頬を染めて一歩下がる、初心な恥じらいにはおかしくなって獣は呵呵と笑った。
「本当に白無垢の花嫁だったのか、お前は」
「煩い、こんなことで怯むような子どもやない。やっぱりケダモノやな……わかりました、私一人の体と魂でそこまで服従するんなら、契約しましょ」
「成立、だな」
 妖獣が心の警戒を解いて無防備になったことで、陰陽師の術が効く。式神となる呪縛が確実にかかり、裏切って襲ってこない状態になったのを確認すると首輪を外した。少し霊力を分けてやった瞬間たちまち四肢を取り戻す、その力は確かに神霊に届くものだと改めて実感した。
「そういえばあんた、真名は」
「獣にそんなものは無い。村のやつらからは、俺が祟りを起こすとき田畑を焼き水源を枯らしたので『炎天さま』なんて呼ばれていたが」
「ならそれでええ。神霊になるのは楽やない。今までの信仰も利用させてもらうわ」
「おい、お前もいい加減名乗れ。一生花嫁扱いでいいのか」
「……月極、紫津香」
「しづか、か。似合いの名だ、確かに佳い香りがする」
「あ……っ」
 不意に抱き寄せられて。拘束の術式も間に合わないまま、唇を奪われる。獣はその鋭い歯で舌を軽く噛み、自身の舌も傷つける。深くまぐわうような口付けで、ふたりの血が混じりあった。
「……っ、は……なに、を」
「俺の契約もこれで成された。もう逃げられんぞ」
「血が欲しければ、わざわざこんなことせんでも……」
「この程度でそんな陵辱され尽くしたような顔をするのか。そそるな……もっと酷いことをしたらどんな声で泣いてくれる?」
「放さんか……まだ龍の雷霆は残っとるけど、物足りんかったら……!」
「他の男の話とは野暮だな」
 身体を強張らせて抵抗する紫津香をがっしり抱き寄せたまま、炎天が低く囁いた。
「舌を噛まれた傷、無くなっているだろう」
「え……」
「その脆弱な人間の身体、美しく強いまま保ちたくはないか」
 長い黒髪を指に絡め、紅く染まった耳元へ何やら囁けば。紫津香の抵抗が徐々に弱くなっていく。二度めの口付けは暴れることなく痛みもなく、さながら婚礼のように静かに行われた。

***

「誰のおかげでそない元気で若作りできとる思てんねん、なあ、紫津香」
「……っ、」
「言うてみ……いや、でも今口開いたら無様な鳴き声しか出えへんもんなあ、俺はそれでもええけど」
 真新しい畳、見るからに高級そうな厚い布団の上に、濡鴉の髪が艶やかに散らばっている。快楽が紅い色となってじわりと染みる白磁の肌は瑞々しく、ほとんど全盛期の美貌を半世紀近く保っている。そんなことが、ただの人間にできるはずもなく。炎天との契約は紫津香の肉体をも強化したが、その見返りとして夜伽を求められるようになった。
 炎天と契約したばかりの紫津香はちょうど家督を継いだ頃だった。同時に名家の令嬢を娶り、男女数名の子を成し、家長として数十年。男性としての甲斐性が無かったわけでもなく妻とも平和な関係を築いていたものの、年齢もあり性欲は薄くなっていった。
 その一方で、炎天に抱かれる胎の中は年々熟れて女のような悦びを感じるようになってしまっていた。はじめこそ『契約のため』という建前で事務的に行われていた行為であったが、妻に先立たれると炎天はまったく遠慮をしなくなった。恥ずかしげもなく愛を囁く。聞くだけで恥辱に苦しむような淫猥な言葉で責めたてて愉しむ。
「忘れとらんやろな。お前は死んだら俺のものやて」
「こんなことせんでも、契約は必ず、守る……なんでっ、もう、いい加減に……嫌、あっ」
「お前がいつまでも綺麗なのは俺も嬉しいけど、なんでそんな必死なんか、美意識みたいなもんかと思て協力しとったのに……あの男に若い頃のことを忘れんで欲しくてこだわってたんやろ」
「……!……そんな、こと」
「あるやろ」
「くっ……う、あ」
「処女がええとかキショいこと言わんけどな、昔っからお前俺とヤってるとき他の男のこと考えとったやろ。なんかしらんけど気に食わんなあと思ってたら……やっと繋がったわ。あいつやったんやな」
 逃げようとする細い腰を鷲掴んで引き寄せ、ぐりぐりと奥まで押し込んでから。完全に抜けないようにゆっくりと、いたぶるように引き抜いていく。
「ああ、あ……!」
「もう人間のチンポじゃ満足せぇへん淫乱のくせに。初恋を忘れられへんとか、清純ぶっても痛々しいだけやで」
 炎天も神霊となって人間への擬態が上手くなったが、紫津香を抱くときは敢えて半端に擬態を解いていた。陰茎にあった無数の棘は甘くなったものの、しっかりと突起が残っていた。肉を裂くことはなくとも強い刺激は暴力的で、それに慣らされてしまった肉体はやけに疼くようになってしまった。貪るようなまぐわいでなければ、鎮められない淫らな感覚が理性を犯す。
「勘違い、せんといて……あの人とはもう何も無い、何とも思ってない。今更どうにかなるとでも思ってるんか? ありえへんやろ」
「流石にどうにかなるとは思っとらんわボケ。せやけど何も思ってない言うのは嘘やな。誤魔化されへんで」
「煩い……」
「は?」
「あんたには関係ないやろ! 私が胸の内でどう思っとるかなんて私の勝手や。炎天、あんたにやる言うたんはこの肉体と死後の魂。契約は必ず守る。せやけど、心は私のもの。あんたにやると言った覚えは無い」
「……ほお」
 細めた瞼の奥で、金色の瞳がぎらりと光る。
「弱ってしなだれかかってきたのも、ヒス起こして八つ当たりしたのも、今まで数えきれんくらい受け止めてきたけど。それでも俺に心を向けたことは無いと」
「それ、は……」
「もうええわ。黙っとき」
 まだ口を開こうとした紫津香の唇に噛み付く。うっすら切れたところから滲んだ血は甘美で、痛めつけながら犯すとよく締まる肉の感触は極上だった。
「お待ちかねの餌やで。しっかり咥えとき」
「……お、奥、あかん、とこ入れんといてって、もう」
「だらしない下の口やさかい奥の奥までぶちこんどかんと溢すやろ。……っ、いつもよりええやん、好き者が……!」
 人間離れした長さの怒張は、直腸奥の窄まりまで押し広げて。先端に吸い付き媚びる肉の味に生唾を呑みながら、濃密な気の溜まった精を注ぎ込んだ。
「はあ、ぁ……っ」
 終わった、と思っても安心できない。引き抜かれるときが一番きつくて、返し棘の向きに生えた無数の突起がごりごりと肉壁を抉るのでたまらず悲鳴を上げたが、枯れ果てた喉ではほとんど声にならなかった。こんなに辛いのに、自身の性器は反応し薄い体液で腹を濡らしている。
「よう飽きもせんと……私としては神気貰えるんは助かるけど」
「なんや、まだ余裕あるな。俺は足りんから続きするで」
「は⁈ もう今日は仕舞いやて……足腰立たんくなる……!」
「股関節痛むお年頃か? どうせすぐ治るしええやろ。しゃあないな紫津香は動かんでええわ。寝ててもええで」
 逃げる紫津香の身体を裏返してうつ伏せにすると、抵抗の声も聞かずに覆い被さった。先程まで繋がっていたそこは十分潤って、柔い双丘を掴んで拡げれば情事の跡がこぷりと溢れる。それだけで十二分に煽られた炎天は嫉妬も忘れて上機嫌に、再びいきり立った怒張をあてがうと体重をかけて一気に押し込んだ。床と炎天に挟まれればもう逃がれようもなく、深い抽送をまともに受け入れ続けるしかなくなった。
「ひっ……もう、堪忍して……死ぬ、しぬから……」
「それもええな、腹上死したらそのまま犯しながら喰ろうたるわ。気持ちええやろなあ」
「おまえが、しね……! この、けだものが……!」
「そうだな、お前と二人きりだと未だに獣の性が抜けん」
 白い背中に流れる黒髪を一房掬って口付ける。炎天はふと、昔のことを思い返していた。
「死ぬまでには、その口から『惚れた』と言わせなくては気が済まぬ。自ら望んで輿入れせよ、紫津香」

次 第十一話

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