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TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体

■この文章は何なのか

 本稿(連続もの・全5回予定)は、TYPE-MOON世界観における、5つないし6つの「魔法」について、網羅的に説明してみよう(説明できる説を立ててみよう)という試みです。

 今回は第一回、第一魔法を取り上げます。

 内容は先日からブログにアップしているもののコピーです。ご興味ある方はブログのほうでご覧になったほうが早そうです。

 こちらです。
さいごのかぎ / The quest for grandmaster key

TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体
 筆者-Townmemory 初稿-2022年2月14日

●6つの魔法の内訳を考える会

 皆さん、お久しぶりです。
 今回はTYPE-MOON作品の「魔法」に関する説を持ってまいりました。

 TYPE-MOONさんというのは(説明不要とも思うが)、『月姫』『空の境界』『Fateシリーズ』『魔法使いの夜』等の作品を発表している、ゲームディベロッパー……というより「創作集団」といったほうが合いそうな方たち。

 TYPE-MOON作品は、各作品においておおむね同一の世界観を採用しており、「魔術」「魔法」というものが存在している世界を扱っています。

 TYPE-MOON世界観においては、「魔術」とは、「超自然的な力だが、テクノロジー等の代替手段によって同等のことが実現できるもの」。
 一方「魔法」とは、「超自然的な力で、なおかつ、他の代替手段では実現不能なもの」」
 というふうに、区分けがされています。

 TYPE-MOON世界観では、現在のところ、

「魔法は第一魔法から第五魔法までの5つが存在している」
「まだ実現していないが、第六魔法の存在が予見されている」


 という感じになっていて、その内訳について、断片的な情報がいろんなところでちりばめられています。

 かなり多くの情報が公開されている魔法もあるし、その一方で、ほとんど何も情報がない魔法もあります。
「なんか、考えればわかりそうな感じなんだけれど、ギリギリはっきりしない」
 くらいの寸止め状況になっている。

 なので、TYPE-MOONファンの人々は、

「6つの魔法って、具体的には、どんな内容なんだろう」

 ということを知りたがっており、各人がいろんな想像をめぐらしているのです。

 さて、こないだの正月あたりに、私ふと「そういえばTYPE-MOONの魔法関連ってどんな感じだったっけ」と気になりだして、情報をまとめたファンサイトなどをめぐったり、作品を読んだときの印象を思い返したりしておりました。

 そしたら、
「あ、だいたいこういうことかな」

 という大づかみな仮説が立ちました。
「全部を説明できるわけじゃないけど、方向性としてはおおむねこういう感じじゃないかなあ」くらいです。

 その仮説が、自分でいうのもあれですが、なかなか興味深かったので、みなさんにちょっとおすそわけしたいと思います。長いですし、個人的なドリームですが、まあ、どうぞ……。

●根源中心世界観

 まずは本論に入る前のセッティングから。
(新しいことはもうちょっと後で言い始めます)

 TYPE-MOON世界観では、世界の外側に「根源」というミステリアスな何かが存在することになっています。

「根源」というのは、どうやら、「この世のすべての事象や現象が発生する大もと」みたいなものであるらしく、いってみれば、「この世の究極の秘密」です。

 TYPE-MOON世界の魔術師たちは、だいたい全員、「根源に手で触れる」ことを最終目的としています。
 根源に触れると、莫大なエネルギーをわがものにできるらしいふしがあります。また、触れると「魔法」(魔術ではなく)が手に入ったりするらしい。

 各作品にちりばめられた情報によれば、第一魔法と第五魔法は「根源に到達したことによって手に入った魔法」。
 第二・第三・第四魔法は「根源に到達するための手段として開発された魔法」らしいです。

 どっちみち「根源に触れた人物は魔法が手に入っている」状態になるので、「根源に到達する」ことと「魔法使いになる」ことはほぼ同じ意味のこととして語られています。

 また、「根源に触れたら魔力を引き出せたり魔法が手に入ったりする」とされる一方で、「根源に触れた人間は即座に消滅する」みたいなことが言われることもあり、そのへんはっきりしていません。

●ほぼフルオープンされている第二・第三魔法

 もうちょっとセッティングが続きます。

 第二魔法と第三魔法については、各作品(主に『Fate/stay night』)において、おおむね内容がフルオープンになっています。
 そして、オープンになっている通りの内容で良いと思っています。

 第二魔法の魔法使いはゼルレッチで、その内容は「平行世界の運営」。ようするに、パラレルワールドをのぞき見したり、パラレルワールドからエネルギーをかっぱらってきたりできる。

 第三魔法の魔法使いは「アインツベルンの師匠筋の人物」。内容は「魂の物質化」

 TYPE-MOON世界観では、魂は無限に等しいエネルギーを持っていて、ほぼ永久機関なのですが、「むき身のままで現実世界に存在できない」というルールがあります。
 人間は魂をもってるのですが、魂そのものは幽冥界という場所にあって、遠くから肉体をあやつることで現実に干渉しています(だったかな?)。
 なので、肉体が壊れると、魂は現実への干渉能力を喪失して無力になる。

 この「魂はむき身のままで現実世界に存在できない」というルールをガン無視するという技法が第三魔法「魂の物質化」。
 魂を魂のまんまでこの世に置いておけるので、そこから無限のエネルギーをくみ出すことができる。TYPE-MOON世界観では、「無限に近いエネルギーを持っていたらだいたい何でも願いがかなう」とされているので、シェンロンが常に自分の隣にいるような状態になる(たぶん)。

 また、魂が物質化された人間は、不老不死、不滅の存在になるようです。

●「無の否定」とは何か

 ここからが本論。

 魔法の内訳を解明するにあたっての最重要情報といえるのは、『Fate/hollow ataraxia』における、女魔術師バゼットのこのセリフ。

 死者の蘇生には時間旅行、平行世界の運営、無の否定、いずれかの魔法が絡む。

『Fate/hollow ataraxia』

 魔法についての情報が3つのキーワードとして露出しています。

 このセリフは何をいってるかというと、

「死んだ人間を生き返らせるためには魔法が必要である。第一から第五までの5つの魔法のうち、いくつかの魔法がそれに該当する」

 その「いくつかの魔法」を特定するヒントが、このセリフにキーワードとして出てきている。

 このうち「平行世界の運営」はゼルレッチの第二魔法で確定しています。
 また「時間旅行」は第二魔法で実現可能だということになったらしいので(ひっそりとTYPE-MOON内部で設定変更が行われたのかもしれない)、3つのキーワードのうち、前の二つはゼルレッチの第二魔法のことをいってることになります。

 最後のひとつ。「無の否定」。この謎めいた文言はいったい何なんだということを、TYPE-MOONの謎ハンターたちがいろいろ考えているわけです。

 第二と第三は魔法名も内容もほぼ確定していますから、第一か第四か第五の魔法名が「無の否定」である、ということになる。

 で、多くの人が、「第一魔法が無の否定である」と考えています。私も賛成です。

 でも「無の否定」っていったい何のこと? 謎かけすぎてさっぱりだ。

 さっぱりですが、このあとじわじわと解明していきます。


●第一魔法とジーザス・クライスト

 第一魔法については、重要な周辺情報がいくつも発表されています。まとめると以下のようになります。

・第三魔法は、第一魔法よりも先に存在した。
・第三魔法の使い手(アインツベルンの師匠筋)は、AD(西暦)前夜にこの世から去った。
・第一魔法の使い手はAD前夜に誕生した。


 ようするに、紀元前1年ないし西暦1年(または0年)に、第三魔法の使い手が消滅し、入れ替わるように第一魔法の使い手が誕生しているのです。
 西暦ゼロ年ないしは元年に生まれた有名人といえば……。

 これらの情報をひとくくりにして、素直に解釈すると、自然と以下のようなストーリーになると思うのです。

(1)第一魔法の使い手とは、ジーザス・クライストその人である。
(2)ジーザス・クライストは、第三魔法「魂の物質化」によって誕生した、「物質化された魂をもつ超人」である。
(3)ジーザスを産んだ聖母マリアの正体は、第三魔法の使い手である。
(4)聖母マリア=第三魔法の使い手は、何かの事情で消滅(別の回で取り上げます)。


 TYPE-MOON世界には、第三魔法を血まなこになって再現しようとしている「アインツベルン」という一族がいます。
 この一族は、女性型ホムンクルスをやたらめったら大量生産しています。『Fate/stay night』のイリヤや、『Fate/Zero』のアイリスフィールが、アインツベルン製ホムンクルスです。

 アインツベルンの魔術師は、たまたま、まったくの偶然に、第三魔法の実現が可能な奇跡のホムンクルス(ユスティーツァ)の製造に成功しました。

「なんとかして、ユスティーツァの2号機以降を製造できれば、第三魔法を会得したことになる」

 ということで、必死で研究を続けたのですが、どうしても再生産が不可能だった。
 その研究の過程でむやみやたらに女性型ホムンクルスを作ることになった。
(で、これはだめだ、とあきらめて、代わりに冬木市の聖杯戦争の聖杯を作ることにしたわけですね)

 ……という下地のイメージをみていくと、こういうふうにしか思えない。

「第三魔法は、《物質化された魂人間》を、女性の胎内から生み出す技法である」

 そして、第三魔法の使い手の消失といれかわりに、第一魔法の使い手がこの世に誕生しているのですから、

「聖母マリアは、第三魔法の使い手である」
「彼女が第三魔法で産んだ《物質化された魂人間》こそが、第一魔法の使い手=ジーザス・クライストである」

「アインツベルンの目指していたものとは、聖母マリアを再生産することである」


 さて、そうだとすると。

 第一魔法の使い手ジーザス・クライストは、物質化された魂そのものなので、「永久機関クラスの無限エネルギーを内包し、不老不死にして不滅の存在」であったことになります。
(おおなんと、キリスト教の伝説で語られていることとおおむねイメージ一致だ)


●無限のエネルギーの使いみち

『Fate/stay night』で登場した、冬木の聖杯システムは、

「莫大なエネルギーを蓄積して、放出し、世界の外殻に風穴をあける」

 ということを目的としたものでした。
(厳密にいうとちょっと違うんだけど、だいたいこういうイメージのもの)

 なぜ風穴をあけたいかといえば、「根源」が世界の外側にあるからです。「とてもすごいエネルギービーム」で世界に穴をあけて、その向こうにいる根源にタッチしちゃおう、というのが大目的だったわけです。

「とてもすごいエネルギー」があれば、世界の天井にボコッと穴をあけて、その向こう側をひょいとのぞき見ることができる。

 さて、いまここに、「めちゃんこつおいとてもすごいエネルギー」を持ったジーザスさんという超人がいます。

 ジーザスさんは、この「とてもすごいエネルギー」を使って第一魔法「無の否定」を実現したことになる。

 ジーザス・クライストが実現した「無の否定」とは何なのか


●無の否定=「根源の発見」

 私の解はこうです。

 第一魔法「無の否定」とは、
「根源を発見したこと」
「根源を(人類史上初めて)観測したこと」だ。


 ジーザス・クライストは、自己の内部に蓄積されていたありあまるエネルギーをビームに変え(多分)、世界の外殻にガツンと穴をあけ、世界の外側をのぞき見たのです。
 そして、そこになんと「根源の渦」が存在することを世界で初めて発見・観測したのです。え?

 根源を発見(観測)することが、なぜ「無の否定」といえるの?


●夢の中の人の夢の中の人の

(……ここから、ひじょうにフワッとした観念的な話になるので覚悟していただきたいのですが)

 根源が発見されるまで、「この世界(宇宙)が本当に存在するのかどうか」、誰にも証明できなかったのです。

「この世界は、誰かが見ている夢にすぎず、実際には存在しないかもしれない」

 このテーゼを、なんと、誰も否定できない。

 こんな例え話はどうでしょう。

・人物Aは、人物Bが見ている夢の中の登場人物である。
・人物Bは、人物Cが見ている夢の中の登場人物である。
・人物Cは、人物Aが見ている夢の中の登場人物である。

・すべての人物は、誰かの見ている夢の中の登場人物である。
・その夢を見ている誰かも、別の誰かが見ている夢の登場人物である。
・この世界は、誰かが見ている夢である。
・世界の夢を見ている誰かも、別の誰かの夢の登場人物である。


「そうではない」ということを、いったい誰が証明できます?

 私たちが、循環する夢の中の登場人物AやBやCではないとなぜわかる?

 このことを、ひとくくりに言い換えるとこうなるのです。

「私たち自身や、私たちの宇宙が、じつは《無》であり、存在しないかもしれないことを、どうして《否定》できる?」

 それまで誰にも否定できなかった。

「この世界が存在することをこの世界の中からは証明不可能である」
 これはTYPE-MOON世界だけの話ではなく、われわれが生きている現実の世界においてもそうだと思います。

 余談ですがこの話は「ゲーデルの不完全性定理」に発想が近い。数学が正しいことを数学では証明できない。ひとつの同じ系のなかでは「無矛盾である」とまでしかいえない。

 奈須きのこさんは本格推理小説や新本格推理小説に造詣が深いし、笠井潔さんを読んでいる。だから当然、きのこさんは「後期クイーン問題」を知っているし、「後期クイーン問題」がゲーデルの不完全性定理を援用して論じられた経緯を知っている。

 なので、「この世界が存在することをこの世界の中からは証明不可能である」という発想にたどりつく下地を彼は完璧にそなえている。

●無を否定する方法

 さて、ここに、無限エネルギー超人ジーザス・クライストがいます。
 かれは、「この世界が無ではないことを証明するにはどうしたらよいか」と考えた。

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TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体

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