見出し画像

カラーとモノクロ 9

アート作品は身の内に溢れるものを具現化するために、作者が努力を振り絞る。
音楽も絵画も、文章もなんでもそうだと思う。

カタチのないものを具現化するのはとても難しい。

その努力をないがしろにしないために、著作権という作家の権利が存在する。

特許庁に依れば、作品が生み出されたとき、すでに著作権は発生し、商標登録や意匠登録をするまでもなく、その著作権は何人も侵してはならないとされている。

他人の絵や音楽、映像作品を自分のもののように人に知らしめたり、そこから利益を得てはいけないという法律である。

昨今は二次創作と言って、著名なアニメ作品や漫画、小説などから題材を得て、自分なりの解釈で作品を作って発表することも許されているが、もとの作品の著作権は、オリジナルの作者のものであるので、売買行為は禁止である。

よく公募展などで「応募作品の著作権は、入賞した場合、当社に帰属します」とあるが、本来の著作権は作者にあるので、作品に勝手に手を加えたりしてはいけないはずだ。
ただ、公募展を催した企業などが公にその作品を発表するときや、経済活動の取り組み方で、作品の一部だけを使用することはある。
また、作者本人がその応募作品を更に他の賞に応募したり、売ったりすることはできない。

前置きが長くなりましたが、今回は著作権について私が失敗した出来事をお話しします。

昨年から新型コロナウイルスがまん延し、皆様もご存じのようにたくさんの自営業者が打撃を受けました。
私が通っている画廊喫茶も厳しい状況に追い込まれました。画廊喫茶という業態から、コロナでもらえる補助金にはなにひとつ引っかからなかったのです。

昨年の春、東京からやって来るはずだったグループ展が緊急事態宣言のためにキャンセルになり、壁が開くことになりました。

そこで、画廊喫茶のオーナーから、集客のために絵を貸して欲しいとの依頼がありました。急なことですから個展は大変なので、たくさんの作家から絵や写真などを集めての集合作品展です。

普段から個展などでお世話になっている場所ですから、異論はありませんでした。オーナーからは「急なことですので過去作でも構いません。売らなくても構いません」というお話でした。

コロナ不況で元気がなくなっている人たちが少しでも明るい気持ちになれたら、という軽い気持ちで参加しました。
だから絵の選出もあまり考えませんでした。自分が持っている絵の中でも特に明るく人好きのする絵を選んで持って行きました。

さて、搬入後、オーナーから絵に値段をつけて欲しいと言われ、参加条件は売らなくても良い、ということだったのでは、と確認しました。
オーナーからは「できれば売って欲しい。買えるかもしれないと思う楽しみがある方が客が喜ぶ」「売りたくなければ、買えないような値段をつけてくれればいい」などの言葉がありました。
私はあまり深く考えずに、オーナーを応援したい気持ちから値段をつけました。

これが私の全くのオリジナルだったなら問題ありませんでしたが、実はそれは私の絵の先生の作品を模写したものでした。自分がうっかり者であったことは否めません。

私の絵の先生はご自分の絵を生徒が模写することで、色や形を学び、画力をつけて行くという指導をする方でした。
なので、私の手元には先生の模写が山ほどあります。

その集合作品展は、2週間ほどの予定でしたが、地元の作家から個展をしたいと申し込みがあり、1週間ほどで終了しました。
緊急事態宣言下でしたが、やった意味はあったとオーナーからは聞きました。このあたりでは高額と見られる値段をつけた、私の絵は売れず、それはそれでほっとして引き取りに行きました。

今年のことです。
ある展覧会を見に、美術館へ行きました。絵を見ていると、展覧会の主催者に呼び止められました。いつの間にか周囲に作家が集まっていました。
その人たちから、私が先生の作品に値段をつけて売ったと叱責されました。実際は売れてはいなかったのですが、その行為自体が許されないのだ、ということです。

それは私もわかっていたはずなのに、あのときはうっかりして画廊喫茶のオーナーを応援することしか考えていなかったのだ、と説明しました。それでも著作権的には許されることではありません。私は失敗してしまったことを理解しました。私の信用は地に堕ち、人からの見る目が変わってしまいました。
一般のお客様が鑑賞中だったのですが、その騒動に驚いて帰っていきました。

先生が指導のためにご自分の絵の模写を生徒に描かせる場合、著作権が先生にあるとして、その指導を受けて完成した絵が先生のものではないという証拠は、作品の出来とサインでしか証明できません。
また、大勢が同時に同じ絵を勉強するので、先生の作品のコピーがたくさん生まれてしまいます。出来はそれぞれの腕前によって、先生とは差があります。

そうして制作したものを指導を受けた教室の作品展に出すだけでなく、それ以外の場所、たとえば市民展などの身近な場所に出品するのは罪でしょうか。
販売さえしなければ許されるのでしょうか。

しかし、最初に書いたように、アート作品は身の内に溢れるものを具現化するために、作者が努力を振り絞って作品化するのだから、自分の作品のように扱ってはいけないのかもしれない。自分が作っていてもです。それは勉強させていただいている、ということになるのだから。

今回、この出来事で非常に考えさせられました。

私や他の生徒は先生の模写をたくさんしてきましたので、作品展に参加するための「自分の作品」はそうたくさん持っていません。

また、教室ではパンフレットや絵はがきなどから題材を得て絵を描いています。それは誰かが写した写真、イラストレーターや画家の絵です。

それでは作品展には出せないと思い、私はそういうことをやめました。

ただ、自分の家に飾る趣味のものとして扱うには、問題はないのでしょう。

絵を習うということは、勉強なので、模写をして学ぶというやり方は理解できます。絵も書も勉強するには手本が必要ですから。しかしそれは自分の作品とは言えないのです。難しいことだけれど。(自分が作っているのにね)

これからは自分の作品として見られるような絵を描いていかなければ、と気持ちを新たにしました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?