『冬冬(トントン)の夏休み』

何気なく選んだこの作品は梅雨空を吹き飛ばすような素晴らしい作品だった。名作だ。

母が病気で入院中のため、田舎に預けられる兄妹。設定がトトロみたいなんだけど、こちらは夏の間のみ兄妹だけが母の実家へ一時滞在という設定。トトロは出てこない。代わりに個性豊かな大人たちが出てくる。

まず台北から田舎へ彼らを連れてくる叔父とその恋人がちょっと狂っているので、トントンとティンティンが電車に乗った瞬間から面白い。

全編にユーモアのある作りになっているのだが、トントンとティンティンの夏はしかし、大人たちの現在進行形の難題と共に流れていく。
それは母の入院だけではない。叔父の恋愛、村内で起きる強盗・傷害事件、知的障害を持つ寒子の望まない2度目の妊娠。
そして、はかなとなく漂う死の匂い。
電車に轢かれそうになるティンティン、頭を石で殴られて医院へ運ばれてくる男、寒子の赤ん坊、そして母の病状。子供たちのやんちゃな「生」と対極にありそうなそれが、この作品全体に一種の緊張感をもたらしている。

寒子の妊娠については、周囲は彼女の出産に反対したけれど、彼女の父は出産を望む。理由は「親はいつまでも一緒にいてやれない」から。子がいれば、彼女はまともになるかもしれない、という彼の意見は、彼女を遠巻きに眺めている村人たちを暗に批判しているようにも聞こえたし、「普通」を手に入れられない彼女への父の祈りのようにも聞こえた。老年を迎えた父の娘への思いに、胸を突かれた。

色々なことが起こるが、トントンは多分まだ正確にそれらを理解できない。ティンティンについては、母の病状も理解しているのか微妙なところ。でもそれでいいし、それがよい。
彼らの濃密な夏を、私たちも追体験する。

この作品では、田舎の風景、そこで営まれる暮らしがふんだんに描かれている。川遊びをする裸の子供たち。水牛。夕方の花火(爆竹?)。子供たちの捕まえた亀。村を走る電車。広がる水田。役所での結婚式。外で遊び続ける子供たち。家で団扇を仰ぐ大人たち。畳。扇風機。
35年以上前の風景だが、懐かしい。私も知っているような世界が広がっていて、自分の子供時代も思い出す。
ラストに流れる「赤とんぼ」も良い。

この作品は子供が見ても良いし、大人が見ても良い。
U-NEXT、アマプラで見られる。


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