飽きるほど夏を

ここ最近、暑い日々がつづく。暑いくらいなら寒い方がまだいいのになんて思いながら部屋にこもっている。

もうすぐ夏が来るんだと思う。今現在夏の匂いがしている訳ではないけれど、雨が時々降るから、あぁ、もう夏が迫ってくるんだって少し残念に思っている。

誰、とはあえて書かないけれど、あの人はどんな季節でもお構いなしに夏を書く。彼は遠いところにいる人で、あんまり世の中に興味がない。彼はミュージシャンだけれど、作品を聴けば映画監督って感じかもしれない。いや、小説家でもある。うまく説明できないけれど、恐らく言葉で表すのはよくないんじゃないかと思う。自分の中で彼を言葉で縛りたくない。

私は彼に会ったこともなければ、言葉を交わしたこともない。私という人間を一切知らない。彼にとって「どうでもいいこと」なのだから。

それでも、私にとって彼との出会いは人生における初めての「変化」だった。考え方があまりにも変わりすぎてしまって、別人になったような、生まれたような気がした。ちょっぴり小説みたいな書き方だけれど、それは私が小説の中のありきたりな登場人物になりたかったからだろう。設定とかはどうでもいい。「報われる」人間になりたいと、からっぽな私は思った。からっぽな人間に彼の反抗期のような言葉は最高に響いてしまう。響きすぎてしまう、まるで「正解」かのように。今まで見てきた世界が笑えるくらいに安っぽく見えてしまった。過去の自分が嫌いになった。

心のどこかではもういい加減目を覚まして、なんかの資格でも取る勉強すればいいのにと思いつつも、今日も彼の作品を一心不乱に聴く。馬鹿みたい。何も変わりゃしないのに。

私が勝手に書いた、彼と私の話。

今年も夏が来る。もうあの頃の自分はいないから。

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