物語の続き~「詰まった雨どいの猫」~花束郵便
たなかともこさんの、こちらの企画に参加します。
もうすでに推しの感想文は猫野サラさんの企画で書いたのですが(コチラ)、書いている途中で、こんな話はどうだろうと思いついたので書いてみました。
つたない文章ですが、お楽しみいただければと思います。
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あれは高校3年の10月だったと思う。
学校からの帰り道、僕は商店街を歩いていた。肉屋の店先から漂ってくるコロッケの匂いが僕の鼻先を刺激して、お腹がグルグルと鳴った。ふと見上げると、肉屋の軒先の雨どいに猫が何匹詰まっている。
「なんで、あんなところに」
猫は狭いところが好きだというが、なにもあんなところに詰まらなくても。そおっと近づくと、先頭のキジトラと目が合った。
「やあ」
「なんだよー」
そんな会話があったかもしれない。その時、僕は、小さいころ父さんが話してくれた「詰まった雨どいの猫」の話を思い出した。
さて、猫をこのままほうっておいていいものか。
空を見上げると雨雲もないし、無理やりにでも雨どいから取り除くのはしたくない。記念に写真をとって父さんに見せようとスマーフォンを出していると、肉屋から同級生の柄本がコロッケを食べながら出てきた。
「おう、食べるか」
差し出されたコロッケの誘惑に、遠慮なくいただく。
「ちょうどよかった、縁起がいいらしいものが見られるよ。ほら、あそこ」と指をさすと、もう猫の姿はななかった。
柄本は僕の話を聞いて、そんな縁起がいいものなら大学の合格祈願にぜひ見たかったと、ひどく残念がった。
それから話題は進路の話になり、柄本も僕と同じ京都の大学を希望していることがわかり、進学したら蹴上インクラインでお花見をするという、不確定で気の早い約束をして別れた。
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「おにいちゃん」
あと、数メートルで家に着くというところで、僕は後ろから声をかけられた。振り返ると、5歳くらいの女の子が困ったような顔で立っている。
「あのね、猫をとってほしいの」
女の子はそういうと、僕の家の隣家のトタン屋根を指さした。
そこには、雨どいにぎゅうぎゅうに詰まった猫たちがいた。先頭はあのキジトラだった。キジトラは、またお前かという顔で僕を見ている。
「もうすぐ雨が降りそうだから。猫が詰まってたら、困るの」
女の子は、そういって僕のシャツの裾を何度もひっぱってくる。僕はおかしいな、雨雲はなかったはずなのにと空を見上げた。
その後のことは、記憶がない。
手を伸ばすとキジトラが面倒くさそうに取り除かれてくれたことや、猫がどいてしまった後の雨どいに見事な穴があいていたことも、あったかもしれないし、なかったかもしれない。ただ、手のひらに残る金属の感触が、脚立に触れたんだろうとだけ、妙な確信となって残っていた。
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自分の家が、山あいのぽつんと一軒家だったことを思い出したのは、1年後、柄本とインクラインの線路上を歩いている途中だった。
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こどもの頃、寝る前にお話を聞くのが大好きでした。
大人になって、趣味程度ですが児童文学と呼ばれるジャンルの話を書くようになってから、話してもらったお話が、忘れたころに体験となってよみがえってくる、そんな昔こどもだった大人も一緒に楽しめるような、幸せな話を書きたいと思いました。
ふみぐらさんのこの「詰まった雨どいの猫」を読んだとき、この話を聞いて大きくなった大人が同じこと体験するのってどうかなとずっと考えていて、今回書かせていただきました。
去年、「書けないときどうしますか」という問いをふみぐらさんに投げかけてから、かけないまま1年が過ぎようとしていました。今回こんな形ですが、ひさしぶりに書くことに没頭するという時間を与えていただきました。
やっぱり書くのって楽しいです。
花束の一輪に加えていただけたら、幸いです。
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