メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ』第292号 單方「人乳汁」と「胡麻」「蔓菁子」(内景篇・身形)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


  第292号

    ○ 單方「人乳汁」と「胡麻」「蔓菁子」(内景篇・身形)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説
      ◆ 編集後記


           

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 

 こんにちは。単方の続きにして最後の部分「人乳汁」と「白粥」です。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (單方「人乳汁」「白粥」 p80 下段・内景篇・身形)


 人乳汁

              補五藏益年令人肥白悅澤取甘香乳汁入
              銀器内頓滾五更時熱服毎一吸即以指塞
  鼻孔按脣貼齒而漱乳與口津相和然後以鼻引
  上吸使氣由明堂入腦方可徐徐嚥下凡五七次
  爲一度久服甚佳〇漢張蒼常服人
  乳故年過百餘歳肥白如瓠本草心法


白粥

   凡晨起食粥利膈養胃生津液令一日清
   爽所補不小晩粳米濃煮令爛食之入門


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 人乳汁

       補五藏、益年、令人肥白悅澤。取甘香乳汁、入銀器内、

  頓滾、五更時熱服、毎一吸即以指塞鼻孔、按脣貼齒而漱、

  乳與口津相和、然後以鼻引上吸、使氣由明堂入腦、

  方可徐徐嚥下。凡五七次爲一度。久服甚佳。

  漢張蒼、常服人乳。故年過百餘歳、肥白如瓠。本草。心法。


白粥

  凡晨起食粥、利膈養胃、生津液、令一日淸爽、所補不小。

  晩粳米、濃煮令爛食之。入門。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)


  頓(トン)とろ火で煮る。

  滾(コン)湯が沸く。

五更時(ごこうじ)五更の第五。現在の午前3時から午前5時、
    または午前4時から午前6時ころ。

  膈(カク)腹部と胸部の間。


 ■現代語訳■


 人乳汁(じんにゅうじゅう)

  五臓を補い、寿命を延ばし、人を肥えさせ色白で色艶を良くする。

  甘い香りの乳汁を銀器に入れ、とろ火で煮、夜明け熱して服用する。

  一口含む毎に指で鼻孔を塞ぎ、唇を按じて歯を押しながら嗽をすることで、

  乳と唾液とをよく混ぜ、その後鼻で息を吸いながら気と共に明堂から

  脳内に引き入れ、徐々に飲み下す。5~7回を1組とする。

  長期間服用すれば甚だ良い。

  漢の張蒼は常に人乳を服用し、100歳を過ぎても瓢のように肥え、

  色白であった。『本草』『心法』


白粥(はくしゅく)

  明け方に起床し粥を食すれば胸を寛げ胃を保養し、唾液を生じ、

  一日を清爽に過ごすことができ、利するところ大である。

  晩生の粳米をゆっくり濃く煮て、これを食す。『入門』
  

 ★ 解説 ★

 単方の「人乳汁」「白粥」です。これでこの章の単方は読み終わります。

 ここしばらく効用の似た解説が続きましたが、このふたつはまた違った雰囲気で説かれています。


 「人乳汁」はいわゆる母乳ですね。「人」とありますが男性は乳を出すことが難しい(?)ですのでここでは女性限定で「母乳」と捉えてよいのではと思います。

 現代視点で見ても母乳には人を成長させる特別な作用があるようで、赤ん坊を母乳で育てることが健全な子供の発育に欠かせない、という考え方もあるようです。

 面白いのがその服用の仕方で、口に含んだ後に、鼻を塞いで唇を押さえ、さらに口中で唾液と混ぜてから飲み下すとしています。

 さらにその飲み方が面白く、鼻から息を吸い込んで脳内に届くようにして飲む、と言っています。

 いくつかポイントがあるのですが、大きなポイントのひとつが
 「使氣由明堂入腦(氣をして明堂より腦に入らしめて)」でしょう。

 ここにもポイントが二つあり、ひとつは「氣」ですね。

 実際を考えると口に含んだ液体を、鼻からの息と共に脳内に導くことはできないわけで、この「氣」は「イメージ」と捉えて考えることもできるでしょう。

 つまり、「イメージで明堂から脳内に導きいれる」という風に読めます。

 またはもっと実際的に、また字義そのままで「氣」を中国医学的、気功的な実際の「氣」と捉え、実際に鼻から気を取り入れながら飲み下す、という考え方です。


 もう一つのポイントは「明堂」です。ここはどの部位を指すでしょうか?

 ツボの観点から見ると「明堂」は「明堂一穴、在鼻直上入發際一寸是穴」といわれるように、髪の生え際から少し下がった部位、つまりおでこの一部分となります。

 ところが、顔の部位での名称の観点から見ると、霊樞に「明堂者、鼻也」とあるように鼻を指すのですね。

 両者の違いは鼻から息を吸って、おでこの一点を通ってから脳内に入れるか、または鼻から吸って鼻から直接脳内に入れるか、の違いになります。

 本文でどちらを言っているのかわかりにくく、これは考察テーマとして残しておきたいと思います。

 ただ、後者の鼻とする考えには、その直前に「然後以鼻引上吸」とあって鼻という語が直接出てきており、「鼻から吸って、明堂(鼻)から脳に」と言い直すかな、という疑問がありますが、可能性が無くはなく、これも含めてテーマとしたいと思います。
 
 他にも読みどころはいろいろあるのですが既に長くなりましたのでどこが読みどころなのかの探求から読者さまにお任せしたいと思います。


 これでこの章の単方を全て読み終わりました。メルマガでは一号に2、3の生薬しかお届けできませんが、全体で読むとまた違った発見があると思い、これら単方をまとめて目を通してみるのも個々に読むのとは違った読み方ができると思います。ぜひ縦横にご活用いただけたら幸いです。


 ◆ 編集後記

 ようやくこの章の単方を全部読み終わることができました。

 既にこの欄で書いたように次は既読の「神枕法」ですが、読んだのはもう
 5年も前で、当時ご登録でない方も多いかと思い、原文と訳だけでもお届けしようと考えています。
                     (2018.11.17.第292号)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?