メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第334号「猪苓丸」(内景篇・精)

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆

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  第334号

    ○ 「猪苓丸」(内景篇・精)

         ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「夢泄屬心」に挙げられた具体的な処方のうち「猪苓丸」
 です。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「猪苓丸」p83 下段・内景篇・精)

  猪苓丸

                  治年壯氣盛情慾動中所願不得意淫於外
                  以致夢遺半夏一兩破如豆大猪苓末二兩
           先將一半炒半夏令色黄不令焦出火毒只取半
   夏爲末糊丸梧子大候乾更用前猪苓末一半同
   炒微裂入砂甁内養之空心温酒或鹽湯下三五
   十丸盖半夏有利性而猪苓導水即腎閉導氣使
   通之意〇一名
   半苓丸也本事

 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)

 猪苓丸

  治年壯氣盛、情慾動中、所願不得、意淫於外、以致夢遺。

  半夏一兩破如豆大、猪苓末二兩。先將一半炒、半夏令色黄、

  不令焦、出火毒。只取半夏爲末、糊丸梧子大、候乾、

  更用前猪苓末一半同炒、微裂、入砂甁内養之、空心、

  温酒或鹽湯下三五十丸。盖半夏有利性、而猪苓導水、

  即腎閉導氣使通之意一名半苓丸也。本事。

 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)

 ▲訓読▲(読み下し)

 猪苓丸(ちょれいがん)

  年壯(ねんそう)に氣盛(きさかん)にして、

  情慾(じょうよく)中(なか)に動(うご)き、

  願(ねが)ふ所(ところ)を得(え)ず、

  意(い)外(そと)に淫(いん)し、

  以(もっ)て夢遺(むい)を致(いた)すを治(ち)す。

  半夏(はんげ)一兩(いちりょう)破(やぶり)て

  豆(まめ)の大(おほひ)さの如(ごと)くし、

  猪苓末(ちょれいまつ)二兩(にりょう)。

  先(ま)づ一半(いっぱん)を將(もっ)て炒(い)り、

  半夏(はんげ)色(いろ)をして黄(き)なら令(し)め、

  焦(こが)さ令(し)めず、火毒(かどく)を出(いだ)す。

  只(た)だ半夏(はんげ)を取(と)り末(まつ)と爲(し)、

  糊(こ)にて梧子(ごし)の大(おほひ)さに丸(まる)め、

  乾(かは)くを候(うかが)ふて、

  更(さら)に前(さき)の猪苓末(ちょれいまつ)

  一半(いっぱん)を用(もっ)て同(おなじ)く炒(いり)て、

  微裂(びれつ)せしめ、砂甁(さへい)の内(うち)に

  入(いれ)てこれを養(やしな)ひ、空心(くうしん)に、

  温酒(おんしゅ)或(あるひ)は鹽湯(しおゆ)にて

  三五十丸(さんごじゅうがん)を下(くだ)す。

  盖(けだ)し半夏(はんげ)は利性(りせい)有(あり)て、

  猪苓(ちょれい)は水(みず)を導(みちび)く、

  即(すなは)ち腎(じん)閉(とじ)るときは

  氣(き)を導(みちびき)て通(つう)ぜ

  使(しむ)るの意(い)なり。

  一(いち)に半苓丸(はんちょがん)と名(なづ)く。

  本事(ほんじ)。

 ■現代語訳■
  

 猪苓丸

  壮年となり気が壮んで、

  情慾が内動しながらも所願を遂げられず、

  想いばかり先立ち、夢精する者を治する。

  半夏一両を大豆の大きさに刻む。猪苓末二両。

  初めに猪苓末の半分を、半夏と共に、

  半夏が黄色になるまで、焦げないように炒り、火毒を消す。

  後に半夏のみを取り出し粉末にし、

  水を入れこねて青桐の種の大きさに丸め、

  乾くのを待ち、更に残りの猪苓末半分と共に炒り、

  微かに亀裂が入ったら、砂甁に入れて熟成させる。

  空腹時に温酒または塩湯にて30から50丸を服用する。

  およそ半夏には利性があり、猪苓は導水の作用がある。

  ゆえに腎が閉じた時には気を導き、通じさせる効果を有する。

  別名半苓丸と呼ぶ。『本事』

 ★ 解説 ★

 「夢泄屬心」に説かれた処方のいつつめ「猪苓丸」です。

 効用から生薬とその修治の仕方、服用法、さらに処方の意味までが詳細に説かれています。

  
 久しぶりに江戸期の『訂正 東医宝鑑』について、原文の初めの
 「所願不得意淫於外」の部分を、『訂正』ではこう読み下しています。
 (本文は原文の語順に返り点と句読点)

  願ふ所意を得ず、外に淫して

 おそらくこの読み下しは誤りであろうと考えられます。ではどこが、何が誤りと考えられるでしょうか?

 訓読で読むと違和感なく読めてしまいそうですが、前後も併せて見てみると、原文では句読点なく、

  情慾動中所願不得意淫於外以致夢遺

 となっています。これは上の断句の欄に書いたように、

  情慾動中、所願不得、意淫於外、以致夢遺。

 このように文が切れると判断できます。漢字だけ見ると、なぜかが明白ですよね。これが『訂正』の読み方ですと、区切りが

  情慾動中、所願不得意、淫於外、以致夢遺。

 となります。どちらが文の構成として整合性を持ちそうでしょうか?

 以前にも何度か書きましたが、文の切れ目を判断するのに、このように漢字の数がひとつの大きな判断材料になります。

 内側の意味と、外側の漢字の数、両方を見ながら考察することで、間違った断句、また解釈をする可能性を減らすことができるわけです。

 この場合はどちらでもさほど意味が違わないように見えますが、よく読むとだいぶ違いますし、また以前に見たように切れ目の違いで意味が全く違ってしまうこともあり、原文からの読解には欠かせない要素と思います。

 先行訳は、訳にも問題が少しあり、また最後の処方の意味の部分を全て省略しています。『訂正』について書きましたので、先行訳は詳しく取り上げませんが、お持ちの方はメルマガの原文、訓読や翻訳をご参考に、どこが変なのか、また誤りであろう部分などをご考察いただけたらと思います。

 ◆ 編集後記

 「夢泄屬心」の処方の「猪苓丸」です。

 文章が長めでしたのでこのひとつを取り上げましたが、次のふたつは共に文が短めですので、一号でふたつ読んでしまいたいと考えています。

                      (2019.09.22.第334号)
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