メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第143号「陰陽倶虚用藥」(「加味虎潛丸」他)─「虚労」章の通し読み ─

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第143号

    ○ 「陰陽倶虚用藥」(「加味虎潛丸」他)
      ─「虚労」章の通し読み ─

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。今号も処方二つを
 お届けします。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「陰陽倶虚用藥」 p448 上段・雜病篇 虚勞)


 加味虎潛丸

      治同上熟地黄四兩牛膝二兩人参黄
      〓白芍藥炒黄栢酒浸炒當歸山藥各(〓くさかんむり氏)
  一兩破故紙炒杜仲炒五味子各七錢半兎絲子
  龜板虎脛骨並酒浸一宿酥灸黄枸杞子瑣陽酥
  灸各五錢右爲末煉蜜和猪脊髓爲
  丸梧子大毎百丸温酒鹽湯任下丹心


 滋血百補丸

      治虚勞補血氣滋陰熟地黄兎絲子各
      四兩當歸杜仲酒炒各二兩知母黄栢
  並鹽酒炒各一兩沈香五錢右爲末
  酒糊和丸梧子大鹽湯下七十丸丹心


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 加味虎潛丸

  治同上。熟地黄四兩。牛膝二兩。人参、黄〓(くさかんむり氏)、

  白芍藥炒、黄栢酒浸炒、當歸、山藥各一兩。

  破故紙炒、杜仲炒、五味子各七錢半。

  兎絲子、龜板、虎脛骨並酒浸一宿酥灸黄、

  枸杞子、瑣陽酥灸各五錢。右爲末、

  煉蜜和猪脊髓爲丸梧子大、毎百丸、温酒鹽湯任下。『丹心』


 滋血百補丸

  治虚勞、補血氣滋陰。熟地黄、兎絲子各四兩。

  當歸、杜仲酒炒各二兩。知母、黄栢並鹽酒炒各一兩。

  沈香五錢。右爲末、酒糊和丸梧子大、鹽湯下七十丸。『丹心』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  特になし


 ▲訓読▲(読み下し)


 加味虎潛丸

  治上に同じ。熟地黄四兩。牛膝二兩。人参、黄〓(くさかんむり氏)、

  白芍藥炒り、黄栢酒浸して炒り、當歸、山藥各一兩。

  破故紙炒り、杜仲炒り、五味子各七錢半。

  兎絲子、龜板、虎脛骨並びに酒に浸すこと一宿にして酥炙して黄にし、

  枸杞子、瑣陽酥炙し各五錢。右末と爲し、

  煉蜜を猪脊髓に和し丸と爲すこと梧子の大いさ、

  毎(つね)に百丸、温酒鹽湯にて任せ下す。『丹心』


 滋血百補丸

  虚勞を治し、血氣を補ひ陰を滋す。熟地黄、兎絲子各四兩。

  當歸、杜仲酒炒り各二兩。知母、黄栢並びに鹽酒にて炒り各一兩。

  沈香五錢。右末と爲し、酒糊に和し梧子の大に丸め、

  鹽湯にて下すこと七十丸。『丹心』


 ■現代語訳■


 加味虎潜丸(かみこせんがん)

  主治は同上。熟地黄四両。牛膝二両。人参、黄〓(くさかんむり氏)、

  白芍薬を炒り、黄栢を酒に浸した後炒り、当帰、山薬各一両。

  破故紙炒り、杜仲炒り、五味子各七銭半。

  兎絲子と亀板と虎脛骨とを一晩酒に浸した後、

  黄色になるまで酥炙し、

  枸杞子、瑣陽を酥灸し各五銭。以上を粉末にし、

  煉蜜に猪の脊髓に混ぜたものを入れ梧桐の種の大きさに丸め、

  毎回百丸を温酒或いは塩湯にて服用する。『丹心』


 滋血百補丸(じけつひゃくほがん)

  虚労を治し、血気を補い陰を滋する。熟地黄、兎絲子各四両。

  当帰、杜仲酒炒りし各二両。知母と黄柏とを塩酒にて炒り各一両。

  沈香五銭。以上を粉末にし、酒に混ぜて糊状にし(酒糊にし)、

  梧桐の種の大きさに丸め、

  塩湯にて七十丸を服用する。『丹心』

 
 ★解説★
 
 陰陽倶虚用藥の処方解説が続きます。これもこれまでの定型文的な文章ばかりで読解そのものはさほど困難ではないでしょう。

 前号の「滋陰大補丸」で、この「加味虎潛丸」と交互に服用するという方法が紹介され、そしてその理由と効用も説かれていました。なぜそうなのかの理由はそれぞれの処方の構成生薬を詳しく見ることでわかります。それぞれの構成生薬を生薬と分量を列挙してみます。


 滋陰大補丸
 
  熟地黄(二両)
 
  牛膝、山薬(一両半)

  杜仲、巴戟、山茱萸、肉〓(くさかんむり從)蓉、
  五味子、白茯苓、茴香、遠志(一両)

  石菖蒲、枸杞子(五銭)

  大棗肉を蒸して蜜に混ぜる


 加味虎潜丸

  熟地黄(四両)

  牛膝(二両)

  人参、黄〓(くさかんむり氏)、
  白芍薬、黄柏、当帰、山薬(一両)

  破故紙、杜仲、五味子(七銭半)

  兎絲子、亀板、虎脛骨、枸杞子、瑣陽(五銭)

  煉蜜に猪脊髓と混ぜる


 両者に共通するもの、共通しながら分量が違うもの、また共通しないもの、とがありますね。

 それぞれの生薬の効用は湯液篇を見ればわかるようになっており、構成生薬の理由も検討できるようになっています。
 また、これより前の処方と比較検討することでもある程度類推ができますね。

 例えば、両者は熟地黄が一番分量が多く、これが主体となっていることがわかります。

 これは前号を思い出していただきたいですが、この「滋陰大補丸」の前に
 「是齋雙補丸(ぜさいそうほがん)」という処方が紹介されており、これが熟地黄と兎絲子とのたった二つの生薬で構成されていて、かつ「熟地黄(血を補う)、兎絲子(気を補う)」という補注があってなぜこの二つなのかがわかるようになっていましたね。

 つまり今号の滋陰大補丸と加味虎潜丸とはこの熟地黄をベースにすることで、血を補うことを主体とした処方だということが流れで表明されていると読めます。「滋陰大補丸」の名前の「滋陰」はそれをよく表しています。

 そして、加味虎潜丸には後者の兎絲子が入っています。つまりこちらには血を補するとともに気も補する作用がより期待されている、さらに言えばこの加味虎潜丸には分量は違いながらも是齋雙補丸が含まれているとも考えられますね。

 この二つを交互に飲むことで血と気を補うことをベースに、さらに他の生薬を複雑に絡み合わせることでより複雑な作用と治療効果を生むことを期待されており、その複雑さゆえに「精微な原理をわきまえた者でなければ、共に語ることもできない」と説かれていたと読めます。逆に言えばこの精微な原理を検討して共に語れるように研究せよ、という先達の叱咤激励とも読めます。


 このように、「是齋雙補丸(ぜさいそうほがん)」の「熟地黄(血を補う)、兎絲子(気を補う)」という表示から始まって、それがここまで内容が掛かっていることがわかります。編者さんは個々の処方に語らせるだけでなく、配列順序にも配慮し前後全体の構成でも一定の内容を語っているというわけです。

 前号で書いたように先行訳はこの附帯情報を全て削ってしまっており、単なる処方の列挙になってしまい、配列構成の妙がわからないという残念なものになっています。編者さんの配列の苦心も全て無視してしまっているわけです。先行訳をお持ちの方は、内容吟味には必ず原文を参照して省略と誤訳を確認した上で臨んでくださればと思います。 


 ◆ 編集後記

 「陰陽倶虚用藥」の処方解説、今号もふたつでお届けしました。あと二つでこの項を読み終わります。

 少し前に書いたように、しばらく処方の列挙が続きましたので、次号で項を読み終わった後は、ひととき別の項目を読みたいと考えています。
 どこを読むかはまだ未定ですが、処方解説が続きましたのでまとまった文章で、かつ読んでおもしろいような部分を取り上げたいと考えています。

                     (2015.10.17.第143号)
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  ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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