メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第348号「精滑脱屬虚」(内景篇・精)7

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

  第348号

    ○ 「精滑脱屬虚」(内景篇・精)

         ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 編集後記

           

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 

 こんにちは。「精滑脱屬虚」の続きです。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「精滑脱屬虚」p84 下段・内景篇・精)

                                         一人虚而泄精脈弦大
               服諸藥不效後用五倍子一兩白茯苓二兩爲丸
    服之良愈五倍澁脱之功敏於龍骨蛤粉也綱目〇
    童男陽盛情動於中志有所慕而不得遂成夜夢
    而遺精愼不可補清心乃安朝服清心蓮子飮方見
    消渇暮服定志丸方見神部醫鑑

 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)

  一人虚而泄精、脈弦大、服諸藥不效、

  後用五倍子一兩、白茯苓二兩爲丸、服之良愈。

  五倍澁脱之功、敏於龍骨蛤粉也。綱目。

  童男陽盛、情動於中、志有所慕而不得、

  遂成夜夢而遺精、愼不可補、清心乃安、

  朝服清心蓮子飮、方見消渇、暮服定志丸、

  方見神部。醫鑑。

 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)

 
  愼 つつし-んで 絶対に。ゆめゆめ。 

  童男 どうなん 男児、童貞

 ▲訓読▲(読み下し)

  一人(いちにん)虚(きょ)して泄精(せつせい)し、

  脈(みゃく)弦大(だんだい)、

  諸藥(しょやく)を服(ふく)して效(こう)あらず、

  後(のち)五倍子(ごばいし)一兩(いちりょう)、

  白茯苓(びゃくぶくりょう)二兩(にりょう)を用(もっ)て
  
  丸(がん)と爲(な)し、これを服(ふく)して良(よ)く

  愈(い)ゆ。五倍(ごばい)澁脱(じゅうだつ)の功(こう)、

  龍骨(りゅうこうつ)蛤粉(こうこ)より敏(と)し。

  綱目(こうもく)。

  童男(どうなん)陽盛(ようせい)にして、情(じょう)

  中(なか)に動(うご)き、志(し)慕(した)ふ

  所(ところ)有(あ)れども得(え)ず、

  遂(つひ)夜(よ)夢(ゆめ)みて遺精(いせい)することを

  成(な)す、愼(つつし)んで補(おぎな)ふべからず、

  心(しん)を清(せい)して乃(すなは)ち安(やす)し、

  朝(あした)に清心蓮子飮(せいしんれんしいん)を

  服(ふく)し、方(ほう)は消渇(しょうかつ)に見(み)ゆ、

  暮(くれ)に定志丸(ていしがん)を服(ふく)す、

  方(ほう)は神部(しんぶ)に見(み)ゆ。醫鑑(いかん)。

 ■現代語訳■

  
  ある者が虚して精が漏れ、脈は弦大、

  諸薬を服するも効果が無かった。

  後に五倍子一両、白茯苓二両を用いて丸薬とし、

  これを服用したところ良く治癒した。

  五倍子の渋脱における効果は龍骨、蛤粉よりも早い。

  『綱目』

  童男が陽盛にして情動があり、願えども遂げることが

  できない者は、ついに睡眠時に夢精することになる。

  決して補してはならない。心を清すれば安んじる。

  朝に清心蓮子飲(処方消渇参照)を、

  晩には定志丸(処方は神の章参照)を服用する。

  『医鑑』

 ★ 解説 ★

 「精滑脱屬虚」の次の段、さらに二段まとめて読みます。 ひとつめが症例の治験、そして次が別の話題になっています。

 ふたつめの「童男」は語釈欄に書いたように「男児」と「童貞」という意味がありますが、この場合はどちらでも通じますが、性的な欲求が起こっても所願を得ることができないという文の意味からしたら、後者「童貞」の方が意味としてしっくり来そうです。

 もう一点読み方の細かい点で、やはり二段目の

  志有所慕而不得遂成夜夢而遺精

 この部分、江戸期の『訂正 東医宝鑑』では以下のように訓読しています。
 例によって原文は上の文を読み下さずに訓点が入っているのみですが、メルマガの表記の都合上、読み下して記載します。

  志慕フ所有レドモ遂ルコトヲ得ズ、

  夜夢ミテ遺精スルコトヲ成ス、

 です。今一度上の訓読を、読み仮名を省いて記してみます。

  志慕ふ所有れども得ず、

  遂に夜夢みて遺精することを成す、

 『訂正』とどこが違うかと言うと、中間にある「遂」の扱いですね。
 『訂正』では前に、私の訓みでは後ろに属していると読んでいます。

 ではどちらが妥当と考えられるでしょうか?改めて、この部分の前後を含めて原文で記します。

  童男陽盛情動於中志有所慕而不得遂成夜夢而遺精愼不可補清心乃安

 これはどのように断句できるでしょうか?私の上の切り方はこうです。

  童男陽盛、情動於中、志有所慕而不得、

  遂成夜夢而遺精、愼不可補、清心乃安、

 これに対して、『訂正』の切り方を訓点を省いて記すとこうなります。

  童男陽盛、情動於中、志有所慕而不得遂、

  成夜夢而遺精、愼不可補、清心乃安、

 つい先日も同じ問題がありましたよね?ここでは文の漢字の区切れが

  4、4、7、7、4、4

 と揃えてあると考えられます。ところが『訂正』の読み方だと、

  4、4、8、6、4、4

 となります。どちらが妥当と考えられそうでしょうか?

 意味としてはさほど違いありませんが、読み方では全く違います。またいつも書きますように、切れ目の違いで意味が全く違ってしまう場合もあり、やはり慎重に読むべきものではと思います。

 ◆ 編集後記

 「精滑脱屬虚」の続きです。次号が年内最終配信ですが、次も二段落読むことで、この項目の文章は全て読み終われ、ひとまずきりの良いところで年越しを迎えられそうです。
                      (2019.12.22.第348号)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?