メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第135号「陽虚用藥」の処方「四神丹」他 ─「虚労」章の通し読み ─

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第135号

    ○ 「陽虚用藥」の処方「四神丹」他
      ─「虚労」章の通し読み ─

      ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「陽虚用藥」の項、具体的な処方解説の続き、これで最後の
 部分です。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「陽虚用藥」 p446 下・雜病篇 虚勞)


四神丹

    補真元虚損陽氣衰少精髓耗傷水火不交
    雄黄雌黄硫黄朱砂各一兩右研細入磁盒
  内塩泥固濟慢火燒〓一伏時取出研細以糯(〓左が火、右が假の右)
  米粽和丸如豆大毎一粒空心新汲水呑下入門


 參〓健中湯(〓くさかんむり氏)

      治虚損少氣四肢倦怠飮食少進當歸
      身一錢半人參黄〓白朮陳皮白茯苓
  白芍藥生乾地黄酒炒各一錢甘草五分五味
  子三分右〓作一貼入薑三棗二水煎服集略(〓坐りっとう)


 鹿茸大補湯

      治虚勞少氣一切虚損肉〓蓉杜仲各(〓くさかんむり從)
      一錢白芍藥白朮附子炮人參肉桂半
  夏石斛五味子各七分鹿茸黄〓當歸白茯苓熟(〓くさかんむり氏)
  地黄各五分甘草二分半右〓作一貼薑三棗二(〓坐りっとう)
  煎服
  入門


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


四神丹

補真元虚損、陽氣衰少、精髓耗傷、水火不交。

  雄黄、雌黄、硫黄、朱砂各一兩。

  右研細、入磁盒内、塩泥固濟、慢火燒〓(左が火、右が假の右)、

  一伏時取出研細、以糯米粽和丸如豆大、

  毎一粒、空心、新汲水呑下。『入門』


 參〓健中湯(〓くさかんむり氏)

  治虚損少氣、四肢倦怠、飮食少進。

  當歸身一錢半。人參、黄〓、白朮、陳皮、白茯苓、

  白芍藥、生乾地黄酒炒各一錢。甘草五分。

  五味子三分。右〓(坐りっとう)作一貼、

  入薑三棗二、水煎服。『集略』


 鹿茸大補湯

  治虚勞少氣、一切虚損。

  肉〓(くさかんむり從)蓉、杜仲各一錢。

  白芍藥、白朮、附子炮、人參、肉桂、半夏、石斛、

  五味子各七分。鹿茸、黄〓(くさかんむり氏)、當歸、

  白茯苓、熟地黄各五分。甘草二分半。右〓(坐りっとう)作一貼、

  薑三棗二、煎服。『入門』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  盒(ゴウ)蓋と本体とをぴたりと合せて用をなす容器


 ▲訓読▲(読み下し)


四神丹

真元虚損し、陽氣衰少して、精髓耗傷し、水火交はらざるを補ふ。

  雄黄、雌黄、硫黄、朱砂各一兩。

  右研(す)り細にして、磁盒の内に入れ、塩泥にて固濟し、

  慢火にて燒き〓(左が火、右が假の右)(や)くこと、

  一伏時にて取り出し研り細にして、

  糯米粽を以て和して丸めること豆の大の如くし、

  毎(つね)に一粒、空心、新汲水にて呑み下す。『入門』


 參〓(くさかんむり氏)健中湯

  虚損少氣、四肢倦怠、飮食進むこと少なきを治す。

  當歸身一錢半。人參、黄〓、白朮、陳皮、白茯苓、

  白芍藥、生乾地黄酒炒し各一錢。甘草五分。

  五味子三分。右〓(坐りっとう)(きざ)みて一貼と作し、

  薑三棗二を入れ、水煎し服す。『集略』


 鹿茸大補湯

  虚勞少氣、一切の虚損を治す。

  肉〓(くさかんむり從)蓉、杜仲各一錢。

  白芍藥、白朮、附子炮し、人參、肉桂、半夏、石斛、

  五味子各七分。鹿茸、黄〓(くさかんむり氏)、當歸、

  白茯苓、熟地黄各五分。甘草二分半。

  右〓(坐りっとう)(きざ)みて一貼と作し、

  薑三棗二、煎服す。『入門』


 ■現代語訳■


四神丹(ししんたん)

真元が虚損し、陽気が衰少して、精髓が耗傷し、

  水火が交わらなくなった者を補する。

  雄黄、雌黄、硫黄、朱砂各一両。

  以上を研って細かくし、磁器の容器に入れ、塩泥で口を塗り固め、

  とろ火にて一昼夜焼き、その後取り出して再度細かく研り、

  糯米の餅に混ぜて豆の大きさに丸め、空腹時に一粒ずつ、

  新汲水で服用する。『入門』


 參〓(くさかんむり氏)健中湯(じんぎけんちゅうとう)

  虚損により気が少なく、四肢が倦怠し、食欲不振の者を治す。

  当帰身一銭半。人参、黄〓、白朮、陳皮、白茯苓、

  白芍薬、酒炒した生地黄・乾地黄各一銭。甘草五分。

  五味子三分。以上を刻んで一貼とし、

  生姜三片、大棗二枚を入れ、水煎し服する。『集略』


 鹿茸大補湯(ろくじょうだいほとう)

  虚労により気が少ない者、一切の虚損を治す。

  肉〓(くさかんむり從)蓉、杜仲各一銭。

  白芍薬、白朮、炮附子、人参、肉桂、半夏、石斛、

  五味子各七分。鹿茸、黄〓(くさかんむり氏)、当帰、

  白茯苓、熟地黄各五分。甘草二分半。

  以上を刻んで一貼とし、生姜三片、大棗二枚、煎服する。『入門』

 
 ★解説★
 
 「陽虚用藥」の具体的な処方、前号部分に続く三つにして最後の部分です。
 これも既出の表現の使い回しや生薬の列挙が多く読解そのものは難しくない
 ようですが、例によって細かい問題点はいくつかあります。

 例えば四神丹の「入磁盒内、塩泥固濟(磁盒の内に入れ、塩泥固濟し)」
 の部分、「固濟」とは?

 前の部分はさほど難しくなく、「磁器の容器に入れて、塩泥で」ですね。
 つまり「固濟」は薬剤を容器に入れて、塩泥で「固濟する」という動詞的に
 用いられていることがわかります。

 イメージとしてはわかりやすいですね。容器をぴっちり蓋をして、その周り
 に塩泥を塗って封をする、ということです。ということは訳に書いたように
 「塗り固める」イメージですよね。

 そして「濟」がさらに難しいですが、ここはいくつかある「濟」の意味のう
 ち、「完成する、仕上げる」が近いでしょうか?

 おもしろいことに各種文献を調べてみると、この「固濟」はこのように口を
 塗り固める時に使う用法と、内丹の修法の用語としても用いられており、イ
 メージとしては更に幅が広がり、器や体内の内側に薬や気を密閉し、火にか
 けて(実際の火、または修法としての「火」)、薬や気を練り上げる、とい
 う、錬金術的な用語であることがわかります。

 医学と道教文献、どちらで先に使われたのかなどの調査も面白いと思います。


 もう一例、同じ四神丹の少し後の部分、「一伏時」とあります。さらりと書
 いてありますが、これはどんな時間でしょうか?時間の単位でしょうか?
 だとすると具体的に何時間でしょうか?

 私が調べた限りで、日本で最大の漢和辞典、大修館書店の「大漢和辞典」に
 もこの「一伏時」の「伏」の用法の解説がありませんでした。

 先行の日本語訳は「一~二時間ぐらい」としてあるのですが、その根拠が定
 かではありません。やはりこの「伏」がわからず適当に時間を決めてしまっ
 たものと思われます。

 これは訳に書いたように簡単に言ってしまえば一昼夜だと考えられます。
 つまり丸一日です。

 先行訳の「一~二時間ぐらい」はどうしてこの時間と決めたのかでしょうか?
 この訳では1時間なのか、はたまた2時間なのかが定かではありませんし、さ
 らに「ぐらい」と付け加えてあるところなど、全く適当な訳と言え、訳者さ
 んが理解できずに曖昧に訳してしまったことがよくわかります。

 現在はありがたいことにネットの発達で調査が楽で、ここにその根拠となる
 情報を引用したいですが、簡体字の中国語のため文字化けしますので、サイ
 トのリンクを張ります。ご興味がおありの方はご覧いただけましたらと思い
 ます。

 (「一伏時」の解説ページ

    http://baike.baidu.com/view/3309673.htm )

 なお、これはあくまで一説で、これが100%正しいとは限らないでしょう。
 別の考え方があってもよいと思い、ご自分でもこの「一伏時」がどんな時間
 なのか、何時間なのか、ご考察くださればと思います。


 上ではふたつ例を挙げましたが他にも問題点はいくつかあり、例えば「真元
 虚損」など訳でもそのままにしてありますが、もしこれを噛み砕いて訳すと
 したら、一体どう訳せばよいでしょうか?背景の違う体系の用語を移し替え
 る作業がいかに大変かがよくわかる例と思います。


 なお、これまで大棗の単位を「個」としてきましたが、慣用に従って今号か
 ら「枚」と記しました。この数詞の問題も難しく、薬剤によって用いられる
 数詞が慣用的にあります。これを現代語訳では「個」などに統一したらよい
 のか、それとも元のままがよいのか、難しいところですが、私の訳では他の
 数詞や度量衡の単位なども置き変えずに元のまま記していますので、これも
 慣用的な用法を踏襲することにいたしました。


 ◆ 編集後記

 先週は都合により、またお盆に当たり1週間お休みをいただきました。
 これで陽虚用藥の項目が終わり、次は陰陽倶虚用藥の項に移ります。これも
 概説があり、その中に処方が列挙され、続けてそれら処方の具体的な解説、
 という流れはこれまでと同じです。処方の列挙はしばらく続きます。


 暦ですが、1週間の間が空いたうちに早くも8月23日から次の節気、
 「処暑(しょしょ)」です。これは暑さが止むという意味です。今年は記録
 的な暑さでしたが、いよいよこの暑さも和らぐ時が来たでしょうか?次号の
 発行は処暑中の配信で、涼しくなりました、という文をお届けしたいもので
 すね。
              (2015.08.21.第135号)(2021.9.21.改変)
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  ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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