メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第163号 腎虚薬処方「無比山藥元」─「虚労」章の通し読み

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  第163号

    ○ 腎虚薬処方「無比山藥元」
      ─「虚労」章の通し読み ─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。腎虚薬処方解説の続き「無比山藥元」です。長さの都合で
 ひとつのみお届けします。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「無比山藥元」 p450 上段・雜病篇 虚勞)


無比山藥元

                      治虚勞補腎益精血五味子六兩肉〓(〓くさかんむり從)
      蓉四兩兔絲子杜仲各三兩山藥二兩
  赤石脂茯神山茱萸巴戟牛膝澤瀉熟地黄各一
  兩右爲末蜜丸梧子大温酒或米飮下七九十丸
  ○服此藥七日後身輕體潤面光手足煖音聲清
  亮是其驗也十日後長肌肉通中入腦鼻必酸疼
  勿怪
  局方


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


無比山藥元

        治虚勞、補腎益精血。

  五味子六兩。肉〓(くさかんむり從)蓉四兩。

  兔絲子、杜仲各三兩。山藥二兩。

  赤石脂、茯神、山茱萸、巴戟、牛膝、澤瀉、熟地黄各一兩。

  右爲末、蜜丸梧子大、温酒或米飮下七九十丸。

  服此藥七日後、身輕體潤、面光、手足煖、音聲清亮、

  是其驗也。十日後、長肌肉、通中入腦、鼻必酸疼、勿怪。『局方』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  特になし


 ▲訓読▲(読み下し)


無比山藥元(むひさんやくげん)

        虚勞(きょろうを治(ち)し、腎(じん)を補(おぎな)ひ

  精血(せいけつ)を益(えき)す。

  五味子六兩(ごみしろくりょう)。

  肉〓(くさかんむり從)蓉四兩(にくじゅうようよんりょう)。

  兔絲子(としし)、杜仲(とちゅう)各三兩(かくさんりょう)。

  山藥二兩(さんやくにりょう)。

  赤石脂(しゃくせきし)、茯神(ぶくしん)、山茱萸(さんしゅゆ)、

  巴戟(はげき)、牛膝(ごしつ)、澤瀉(たくしゃ)、

  熟地黄(じゅくぢおう)各一兩(かくいちりょう)。

  右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、

  蜜(みつ)にて梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、

  温酒(おんしゅ)或(ある)ひは米飮(べいいん)にて

  下(くだ)すこと七九十丸(しちくじゅうがん)。

  此(こ)の藥(くすり)を服(ふく)して七日後(なのかご)、

  身輕體潤(しんけいたいじゅん)して、面光(めんひか)り、

  手足煖(てあしあたたか)く、音聲清亮(おんせいせいりょう)、

  是(こ)れ其(そ)の驗(けん)なり。

  十日(とおか)の後(のち)、肌肉(きにく)を長(ちょう)じ、

  中(なか)に通(とお)じ腦(のう)に入(いり)て、

  鼻(はな)必(かなら)ず酸疼(さんとう)す、

  怪(あやし)むことなかれ。『局方(きょくほう)』


 ■現代語訳■


無比山藥元(むひさんやくがん)

        虚労を治し、腎を補い精血を益す。

  五味子六両。肉〓(くさかんむり從)蓉四両。

  兔絲子、杜仲各三両。山薬二両。

  赤石脂、茯神、山茱萸、巴戟、牛膝、沢瀉、

  熟地黄各一両。

  以上を粉末にし、蜜で梧桐の種の大きさに丸め、

  温酒または米湯にて70から90丸を服用する。

  この薬を服用して七日後には、身体は軽くまた潤い、

  顔面は艶が出て、手足が暖かく、音声は清亮となる、

  これがその効験である。

  十日後には筋肉を長じ、内部に浸透して脳に入りるため、

  必ず鼻に酸疼が生じるが、これをいぶかしみ恐れる必要はない。

  『局方』

 
 ★解説★
 
 腎虚薬の具体的な処方解説の続きです。処方の頭に「無比」とついており、その薬効の高さが尊ばれたことを伺わせます。

 読みはこれまで読んだ部分でほとんど全て読めるところで特に問題ないと思います。

 これまた先行訳は後半の解説部分を全て省略して、この処方が他に特化する情報を全てなくしています。

 また冒頭の「腎を補い精血を益す」の部分を「腎を補う」だけ記して「精血を益する」の方だけ削っています。

 前号で先行訳が補のほうだけ記して瀉のほうを削っていることをみましたが、ここでも片方だけ記しているというわけで、なぜこのような半端な削り方をするのか訳者さんの発想が理解しにくいです。前号でも書いたように、半端な省略は正確に伝えないだけでなく誤り伝える元ともなり誤訳と同等にたちがよくないものです。いつもながら先行訳をお持ちの方は補足していただきたいと思います。


 ◆ 編集後記

 前号の三一腎氣丸に比べたら半分以下の文章ですが、次の文の長さとの兼ね合いもあり今号は処方ひとつでお届けしました。

 これまで読んだ実績がだいぶ貯まってきて、さほど解説をせずにも過去号が語ってくれるくらいの蓄積がでてきたのは解説者としてはありがたい限りです。

 とはいえ同じような言い回しが続くとマンネリとも考えられ、そろそろまた別の部分をスポットで読もうかと考えています。

                    (2016.04.09.第163号)
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