メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第61号 「攝養要訣 せつようようけつ」その1 太乙真人の七つの戒め


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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第61号

    ○ 「攝養要訣 せつようようけつ」 その1
    
       太乙真人の七つの戒め

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 こんにちは。新年が早くも20日過ぎになってしまいましたが、今年も
 できるだけ間をおかずに配信したいと考えています。
 
 どの部分を配信しようか考えましたが、前号までの「按摩導引」の続き、
 「攝養要訣」にすることにしました。
 
 「按摩導引」では解説を多くしすぎましたので、今回はより直接原文に
 接していただくべく、解説を少なくする罪滅ぼしに(?)、久しぶりに
 訓読を復活させてみます。素読百遍、意自ずから通ず!?

 ◆原文◆


(攝養要訣 p76 上段・内景篇 身形)


    太乙真人七禁文曰一者少言語養内氣二
    者戒色慾養精氣三者薄滋味養血氣四者
  嚥精液養蔵氣五者莫嗔怒養肝氣六者美飲食
  養胃氣七者少思慮養心氣人由氣生氣由神旺
  養氣全神可得真道凡在萬形之中所保者莫先
  於元氣

 ▼断句▼


  太乙真人七禁文曰、
  一者少言語養内氣、
  二者戒色慾養精氣、
  三者薄滋味養血氣、
  四者嚥精液養蔵氣、
  五者莫嗔怒養肝氣、
  六者美飲食養胃氣、
  七者少思慮養心氣。
  人由氣生、氣由神旺。
  養氣全神、可得真道。
  凡在萬形之中、
  所保者莫先於元氣。

  
 ▲訓読▲

  太乙真人七禁文(たいいつ-しんじん-しちきんぶん)に曰く、

  一には言語を少ふして内氣(ないき)を養ふ、

  二には色慾(しきよく)を戒て精氣(せいき)を養ふ、

  三には滋味(じみ)を薄ふして血氣(けっき)を養ふ、

  四には精液を嚥(のみ)て蔵氣(ぞうき)を養ふ、

  五には嗔怒(しんど)すること莫(な)ふして肝氣(かんき)を養ふ、

  六には飲食を美(うま)しふして胃氣(いき)を養ふ、

  七には思慮を少ふして心氣(しんき)を養ふ。

  人は氣に由(より)て生じ、氣は神(しん)に由て旺す。

  氣を養ひ、神を全(まった)ふして、

  真道(しんどう)を得べし。

  凡そ萬形(ばんけい)の中に在て、

  保つ所の者は、元氣より先なること莫きなり。


 ●句法・語釈●

・句法 

  可 べし 当然、可能

  於 より、よりも 比較の用法
 

・語釈 

  滋味 じみ 味

  精液 せいえき、ここでは唾液のこと。津液

  旺 おう、さかん 物事が興隆するさま

  先 さきなり 第一にする


 ■現代語訳■


  太乙真人七禁文に言うには、

  一には、会話を少なくし、内気を養う。

  二には、色欲を戒め、精気を養う。

  三には、食物の味を薄くし、血気を養う。

  四には、唾液を飲み、臓気を養う。

  五には、怒ることをなくし、肝気を養う。

  六には、飲食の味を良くし、胃気を養う。

  七には、思慮を少なくし、心気を養う。

  人は気によって生じ、気は神によって盛んになる。

  気を養い、神を万全にすることで、

  真道を得ることができる。

  凡そ、全ての形態の内において、

  養うべきものは、元気より大切なものはない、と。


 ★解説★
 
 「按摩導引」の次に配置された「攝養要訣」です。

 「摂」は「摂生」の「摂」、「養」は「養生」の「養」ですね。
 その「要訣」、「要」は「かなめ」「訣」は「秘訣」の「訣」、
 つまり「摂生・養生の重要・大切な秘訣」という意味です。

 まずはその初めの一段落を取り上げてみました。

 原本の文字配置ではわかりにくいですが、断句の欄でご覧いただけるように、
 整理してみると七つの要素が全て綺麗に文字数を揃えていることがわかりま
 すね。これは口に出して読んで調子がよいように作ってあり、唱えるのにも、
 また覚えるのにも、想起するのにも便利なように工夫してあるのです。
 漢字をご覧いただくと、同じ漢字を繰り返したり、音韻を工夫したりして、
 音にまで注意を払ってあることがわかります。


 音を知るのには元の音で読むのがよいですが、日本人には中国語音より、
 また、朝鮮半島で読まれていた音より、訓読の素読の方が馴染み深いですの
 で、訓読を復活させてみました。読み下してみると「ああ、読んだなー。」
 という気持ちになるのは、やはり日本人に伝わる漢文訓読の遺伝子のため
 でしょうか?

 個々の要素はそのままでは意味が難しいものもありますが、何度も素読する
 ことで、なんとなく意味が通じてくるような気がするもので、昔はこのよう
 な素読を非常に重視したのですね。

 ただ、短い記述ですが内に込めている意味は東洋医学の基本を踏まえている
 部分が多く、例えばなぜ怒らないことが肝の気を養うことに繋がるのか、
 など、奥に流れている思想を知らないと、本当に理解したことにはならない
 記述となっています。

 
 また読解のための句法にも、最後の行の「於」はよく「於(お)いて」
 という、場所などを表す意味で今でも使われることがありますが、この
 文では比較を表す「~よりも」という用法で、「於いて」では意味が通じ
 ません。これは既に書いたように、文脈で判断して読んでいく必要があり
 ます。


 少し細かい余談ですが、面白い事に江戸期に発行された、訓点の入った
 日本版の東医宝鑑では、「可得真道。凡在萬形之中」の部分を上のように

  真道を得べし。凡そ萬形の中に在て、

 ではなく、

  真を得べし。道は凡そ萬形の中に在り、

 と読んでいます。つまり、文の切れ目を上のように

  可得真道。凡在萬形之中、

 ではなく、

  可得真、道凡在萬形之中、

 と切って読んでいることになります。
 そして当然意味も違ってき、上では

  真道を得ることができる。凡そ、全ての形態の内において、

 と読みましたが、江戸期和本の切り方だと、

  真を得ることができる、道は全て形態の内にあり、

 という、全く違った意味になります。これはどちらが正しいでしょうか?

 この部分は前の流れから見ると


  人由氣生、氣由神旺。
  養氣全神、可得真道。
  凡在萬形之中、


 と、4文字の流れが続いているので、


  人由氣生、氣由神旺。
  養氣全神、可得真。
  道凡在萬形之中、


 と「可得真」だけ3文字で切れるのは変で、「可得真道」も4文字になるのでは
 と見ます。

 意味としても、ここは身体の元気のことを言っており、道のことがメイン
 テーマではないので、「道が全て形態の中に・・・」では前後の意味が通じず、
 やはりここは上の方が正しいのではと思いますが、いかがでしょうか。

 切れ目の文字数や意味なども含めて、ご自身でどちらがより正しいのか、
 ご判断くださればと思います。

 医書を含めて昔のいわゆる漢文の原本は句読点などが無いのが普通ですので、
 まず文がどこで切れるのかを判断するのがひと苦労なのですね。
 切れ目によってはこのように意味が全く変わってしまったりするのです。
 その誤読を避けるために、例えば前後の文字数や音律で判断したり、また前後
 の意味の流れで判断したりなど、様々な方面に鑑みながら文を区切っていくの
 です。


 また、文の切れ目を正しく切れたとしても、以前「胎息法」の項で、「天台」が
 韓国で読まれている「鼻」ではなく、「天台大師」の天台では、と疑問を呈した
 ことがありましたが、文を区切ることができた後の、個々の語彙の解釈において
 も、いくらでも誤読の落とし穴が待っており、読解・翻訳の完成までには、
 クリアすべき点がたくさんたくさんあるのですね。

 今回の江戸期の切り方にしても、また「天台」を「鼻」とする解釈にしても、
 なんとなくそれなりに意味が通じるような読み方ができてしまうのがまたタチが
 良くないところで、本来の意味を正しく汲み取る読解がいかに難しいかを実感
 します。

 このメルマガでご紹介している文の切れ目、解釈・現代語訳はあくまで一例で、
 絶対に正しいとも限りませんので、本格的にお読みになりたい方は、メルマガの
 文章の区切りや解釈から疑っていただき、ご自身で読んでくださればと思います。


 文章の解説で長くなってしまいましたので、内容については触れませんが、
 養生の秘訣を書いた興味深い内容です。個人的に身につまされる部分が多い
 です(笑)。
 ぜひとも、読み下し文でも素読してくださり、内容を味わっていただけたら
 幸いです。

 ◆ 編集後記

 あっという間に新年も二十日過ぎになってしまいました。

 前号までの「按摩導引」は私の解説が長かったので、今回はできるだけ
 お読みになる方に原文に接していただきたく、解説もその方向性にして
 みました。

 どこか各論を読もうと思いましたが、お読みの方のご志向・ご嗜好が
 どの辺りにあるのかがわかりにくいですので、まだ総論部分、または
 薬剤など具体的なものが無くても、読むだけで役に立つような部分を
 続けてお届けすることにしました。


 前に書きましたように、今年は東医宝鑑刊行400周年です。
 翻訳の完成はまだまだですが、この機に何か東医宝鑑に関わる事績を
 残したく、ちょっとした企画を立てているのですが、今年中に完成するで
 しょうか? まだ詳しくは書けませんが実現したらメルマガでご紹介したい
 と思います。

 今回は少し配信の間が空いてしまいましたが、今年もできるだけ間を開けず
 に、コンスタントな配信を目指したいと思います。本年もよろしくお願い
 いたします。
                      (2013.01.22.第61号)
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  ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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