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決まらないなりに決められること:量子力学:角運動量

前回の話は,古典的にベクトル(矢印)で書かれた角運動量は古典的に回転の方向と強さを表すものだったが,量子力学での角運動量は,ベクトルの各成分が交換しないことから,同時に"j_x,y,z"を決められないのだった.つまり量子力学の角運動量は回ってすらいないのだ.

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なら,量子力学で角運動量の議論はもうおしまいか,というとそうではない.角運動量は量子力学においても重要な物理量だ.決められないなりに,決められることとその性質を見ていかなければならない.


角運動量の交換関係が0でないから三成分を同時に決められないのだった.裏を返せば,どれか一つは決められる.慣例的にz軸方向を決める.

もちろん,物理屋は斜に構えた変人もいて良くて"いや俺はy軸方向を決めるね"という人がいてもいいのだが,それはそれでいい,読み替えて進めてくれ.


ではこの角運動量のz方向"J_z"と交換する演算子を角運動量演算子の組み合わせで作れないだろうか.交換するもの同士は,同時に決められるのだから,"J_z"と交換する演算子を集めてくれば,角運動量の量子力学的な性質を決められるはずだ.

あれこれ試してもいいのだが,まぁ答えを言ってしまうと角運動量の大きさ(~ベクトルの長さ)の二乗"J^2"が意味のある演算子だ.他の演算子は"J_z"と交換しないか,”[J^2,J_z]”に帰着する.

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なんかうまいこと交換関係が"0"になっている.おぉ〜


ということは量子力学の状態に関して,同時に決められる(意味のある)量は角運動量のz成分と角運動量の大きさなのだ.

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古典的な角運動量は,"J_x","J_y","J_z"の三成分をきっちり決められて,その結果角運動量の大きさ"J^2"もどんな量も決められたのだった.しかし量子力学の角運動量は,"J_z"と”J^2”しか決められないのだ.なぜか三成分を同時には決められないのに,三成分を使って書かれる,角運動量の大きさ"J^2"は決められる.

もう少し直感的にいうと,古典的には角運動量は矢印としてかけていたが,量子力学的には長さと一つの成分しか決められない.

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なんども言うが,量子力学での角運動量はベクトルの形で値を決められない.だから矢印の形でかけないのだ.


各成分が決まらないのに長さだけ決まるのは直感と反するが,量子力学を記述する為に数学の力を借りた結果こうなったのだから仕方ない.もしこれがおかしいと思うなら,この角運動量の議論から導き出される結論と,実験を比較して間違っていることを示さねばならない.そうすれば,角運動量の出発点,回転のちょびっと変化が間違っていたことになる.

残念だが,実験はこの決められない角運動量が正しいと言っている.

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