地平線を超える:一般相対論/ブラックホール
前回はブラックホールを作った.ブラックホールとは,Einstein方程式の解であり,事象の地平線を持った時空の構造であった.
ブラックホールの一つ,Schwarzschild(シュワルツシュルト)計量は
このような線素で表されるのだった.Schwarzschild計量の事象の地平線はr=r_s で決まる部分にあるのだった.r_s は中にある質量で決まる空間的な半径で,これより内側の情報を外部に持ち出すことができないものだった.
地平線を実感する
情報を持ち出すと言うのはどう言うイメージか,ものすごく簡単に言えば光を打ち出すのだ.光のパターンや周波数に情報を乗せればこの世でもっとも速く情報を送れるのだ.
ブラックホールの近くから光を打ち出すことを考えよう.光を打ち出す時,そこには重力ポテンシャルがある.重力の井戸から抜け出す時に光は重力に引っ張られて(時間の遅れを受けて)周波数が小さく(色が赤く)なる.これを赤方偏移(せきほうへんい)と言う.
赤方偏移の典型的な起こり方は,
となる.ここにもSchwarzschild半径がある.打ち出す場所が地平線に近ければ近いほど,周波数がより小さくなる.
黄,緑,赤の光源があったとしよう.黄色は地平線の外側,緑は直上,赤は内側にある.
黄色の位置から光を打ち出すことを見てみようこの時は光は打ち出せる.ただし黄色から随分光の色は赤くなってしまう.
緑は事象の地平線直上である.だから無限遠の周波数が0になってしまう.0になってしまうと言うことは光が消えてしまうことだ.つまり地平線直上にある光源からは光を無限遠に打ち出せない.
では赤の光源はどうだろう.赤の光源は地平線の内側にある.内側にある光源は赤方偏移の式を見ればルートの中がマイナスになる.これは(数学的には虚数と言うもので許されるが)物理的には許されない.だから外側に光が出ることはない.
これは計量を見てもわかる.r->∞ とr<r_s では計量が切れている.と言うかこの計量はそもそもr<r_s でこれを使ってはいけない.
地平線を超える
地平線が外側に出られないのはわかった.では地平線の内側に入ることはできるのだろうか.結論を言えば入れる.ただし出られない.
ちなみに回転しているブラックホールの地平線の周りには止まることの出来ない領域が存在している.
地平線とは無限遠まで使える計量を作った時に発生する形式的な存在だった.だから"地平線"の近くで"地平線"見ることはない.地平線の近くではまた別の計量(座標)を作ることで,地平線をあらわに出さないようにできる.
物理的な計測で"あぁ〜ここが地平線に当たるなぁ〜"と感じることはできるが膜のようなものが存在しているわけではない.素通りできるが,超えてしまったが最後二度と出ることがない.
では超えてしまえばどうなるか,それは誰にもわからない.とてつもない重力(潮汐力)で身が引き裂かれるかもしれない.それに耐える強靭な体を手に入れればどうなるだろうか.光は外には出られないが,地平線の近くまでは届く.何が見えるだろうか.それはブラックホールに入った人しかわからない.仮に入れた人がいても何が起こったか,ブラックホールの外に伝えることは出来ない.
また,真の特異点がSchwarzschild時空の中心にはある.これは事象の地平線のように適当な座標変換で消せない真の特異点である.真の特異点は座標が定義できない,故に真の特異点に達するとどうなるか,見て見たいものである.見れば最後,どうしようもないが.
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