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状態と真空:お話物理:場の量子論

前回は,場の量子論の粒子の作り方の話をした.

時空の無限個の互いに繋がったバネの集まりである場の理論はフーリエ変換の意味の運動量空間で見ると,無限種類の独立なバネの集まりなのだった.

そのバネの量子力学を考えると,エネルギー"量子"が一個,二個...と数えられるようになる.その量子が粒子そのものなのだった.

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今回は場の理論の"状態"と言うものを考えて行こうと思う.状態とは量子力学に出てくるベクトル(矢印)で系の状態そのものを表すのだった.

例えばただの量子力学の調和振動子(バネ)なら,エネルギー量子が一個の状態,二個の状態...と書ける.

場の量子論は,時空の各点に量子力学があるようなものなので,無限次元のベクトルが無限個集まってできたベクトルで状態を指定する.

前回までの議論で,自由場の理論ならば運動量の種類だけの調和振動子系の集まりなのだから,場の理論の状態は調和振動子系の状態の集まりでできるはずだ.

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右辺の"n_k_i"はある運動量"k_i"に対応した調和振動子の状態を表していて,この"n"が0なら粒子が0個,1なら1個...と続いて行くのだ.

複数の"n_k_i"が値を持った場の理論の状態は,それぞれの運動量を持った粒子が存在している状態に対応する.

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こうすることである運動量の粒子が時空の中に存在する状態を作れるのだ.


では粒子が一個もない状態はどうなのだろうか.確かにある.そしてそれはエネルギー的に最低の状態だ.場の理論では,最低エネルギー状態のことを"真空"と呼ぶ.

普段,真空と言うと掃除機で布団を圧縮するあれや,真空パックを思い浮かべるだろう.しかし場の理論の真空はそんな生易しいものではない.圧縮された布団は"布団"がある時点でエネルギーを持っている.真空パックだってそうだ.この世の全ての状態の中でもっともエネルギーが低い状態を真空というのだ.

その真空は先も言った通り,全時空でどの運動量を持った粒子もない状態のことを指す.

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じゃぁこの真空は何も動いていない,完全に凍結された状態なのか.実はそうではない.真空は最低エネルギー状態なのに,揺らいでいるのだ.

なぜか.それは調和振動子の最低エネルギー状態はそもそも量子力学的な状態なのだ.量子力学は変数が確率的な分布しかできない.この場合は場の値"φ"が最低エネルギー状態のそれでも確率的な分布をしているのだ.

この量子力学に基づいて議論を進める限り,このゆらぎからは逃れられない.

場の理論の真空は,何もないのに,揺らいでいるのだ.



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