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変身装置と脚がいっぱい

前回はベクトルとは矢印で,向きと大きさを持ったモノだという話をした.また,大きさを決めるために内積と,それに使う物差しη(イータ)を用意した.

行列と言う変身装置

今日はベクトルを変身させよう.謎の変身装置"A"を使ってベクトルaがベクトルbになったとしよう.

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"変身"には長さが変わったり,回ったり,裏返ったりするものがある.上の絵はわざわざ根元を揃えてあるが,ベクトルは向きと長さだけあるから矢印の根元はどこでもいい.

謎の変身装置"A"はどんなものだろうか.これが行列である.店の前に並ぶあの行列と同じ字だが,数学の行列は変身装置なのである.

例えば平面のベクトルを反時計回りに回転させる行列を持ってきて,適当なベクトルを回してみよう.

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行列の計算方法は,"i,j"で書いたように,足し算をする.ちなみに一個めの添字"i"は横(行)を"j"が縦(列)を表している."A^12=-√2/2"だ.右の絵はaとbの成分をそれぞれ書いたものだ.確かに回っているように見える.

変身する多脚のテンソル

前回導入した物差し"η"は脚が二本あった.あれも行列なのだろうか.あれは行列では(多分)ないのだ.紛らわしい.行列は変身装置であって脚が二本あるが,脚が二本あっても行列とは限らない(猫は脚が4本あるが,脚が4本あるからといって猫とは限らない,犬もいる).

では物差しはなんなのだろうか.これは実は変身装置で変身するベクトルの超すごいやつなのだ.一般に変身装置で変身するものを"テンソル"と言う.テンソルを脚の本数で一階,二階,...n階のテンソルと言う.これに習えば,ベクトルは一階のテンソルだし,物差し"η"は二階のテンソルなのだ.

例えばテンソルηの変身は脚それぞれに行列がかかる.

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ここで注意しなければならないのは,脚がいっぱいあるテンソルの変身には,全て同じ行列がかかることだ.仮面ライダーが,右足と左足,別々に変身はしないだろう.

ちなみに回転で前回のηは形を変えない.紙とペンを出して,ちょっとやってみてほしい.

ベクトルは矢印で,イメージしやすかったけど,テンソルってなんやねんと言う人のために(二階の)テンソルの一例を挙げておく.それは磁石同士の力の及ぼし方がテンソルなのだ.二階のテンソルは矢印が同時に二本必要になるときに出てくる.

磁石にはNとSの極があるからSからN極への矢印がかける.二個の磁石を置いたとき片方の磁石を基準にもう片方の磁石は場所と磁石の向きの二本の矢印でかけるから,この時の力の及ぼし方を表すのにテンソルが必要になる.

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この場合は,確かに緑と黄色の矢印が状況を説明するのに必要になってくる.緑だけではもう一個の磁石がどこを向いているかわからないし,黄色だけではそもそもどこにいるかわからない.

三階のテンソルは?四階は?...縦横奥行きの三次元+時間の認識を持ってしまう我々人間にはちょっとイメージしにくい.まぁベクトルがいっぱい必要なものなのだと思っておいてほしい.

まとめ

・ベクトルを変身(回転,拡大縮小,反転)させるものを行列と言う
・行列には行と列のある
・行列で変身するものを一般にテンソルと言う
・n階のテンソルはn本のベクトルを同時に必要とするものを表す(ガバガバ)
・テンソルの変身には同じ行列を使う

今日は名前の紹介がほとんどになってしまった.物理の話はまた今度になる.


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