ジョグジャカルタ思い出し日記⑩|西田有里
なんでも屋さん
ジョグジャカルタではどの町内にもちょっとした家屋の修繕やリフォームなど何でも器用にやってくれる人が一人はいるんじゃないかと思う。私がジョグジャで最初に下宿した家でも、雨漏りした時や屋根にネズミが挟まって死んでしまった時など、大家さんに助けを求めに行ったら、すぐに近所の手先の器用なお兄さんが呼ばれて、あっという間に屋根に上って直してくれた。もちろんそのお兄さんに修理にかかった費用や日当はお支払いするけど、彼は工務店や内装業の会社を営んでいるというわけではなく、時々日雇いの仕事をしたりしながらご近所さんからのちょっとした依頼を引き受けてると言う感じで、それでもしょっちゅうどこかの家が雨漏りやら何やら問題が起こるので、それで充分生計を立てることができてるようだった。
サントソさんも、ルジャールじいさんの家によく出入りしている、そのような何でも屋さんの一人。ちょっとした内装工事や水道工事や屋根の修繕の他、遠出する時にはどこからか車を調達して来てくれてドライバーもやってくれるなど、本当に器用に何でもやってくれる。顔がジャワの人にしてはあっさりしているせいか、見た目が日本にもいそうな、自治会の集まりとかに行けばいそうなおじさんという感じで、私は心の中で密かにサントソさんのことを「ハラダさん」と呼んでいた。
その当時、ハラダさんじゃなくてサントソさんは、ルジャールじいさんの姪のラストゥリさんの家の浴室のリフォームのために毎日マタラム通りの家に通ってきていた。ルジャールじいさんの家も含め二軒並んだ長屋の住人たちのトイレは少し離れたところにある共同トイレだったけど、ラストゥリさんの家にだけはトイレと水浴び用の水を貯めておく水槽が一緒になった専用の浴室が家の中にあって、ラストゥリさんの突然の思い付きで浴室のタイルの張替えと、外光が入るように天井部分の改装が行われることになったのだ。タイルなどの資材もサントソさんが自分でどこから仕入れてきてひとりで1日数時間ずつ作業して、数日後には浴室がとても明るく清潔な感じに生まれ変わった。
サントソさんは浴室のリフォームが終わった次の日もマタラム通りの家にいた。ラストゥリさんが、アイロンがけなどの家事をするスペースが欲しいと思い付き、今度は台所の横に80㎝四方くらいのスペースを増築するとのこと。こちらは既存の壁を壊す作業から始まって、新たな壁をレンガを積んで作り、さらに扉を新たに取り付けたりもするので、なかなか大がかりな工事になった。それでも10日間くらいで外壁の塗装まできれいに行われ、無事にラストゥリさんのアイロンがけスペースが完成した。もともととても狭い住居だが、ほんの少しだけ横に拡張された。
ラストゥリさんの家の小さな増築工事が終わった数日後も、サントソさんはまたマタラム通りの家にやって来た。今度はルジャールじいさんが家の改築を思いついたのだ。この数週間夜になっても暑い日が続いていて、ルジャールじいさんの作業机が置いてある部屋には窓が無いため、ルジャールじいさんは暑さにとうとう我慢できなくなったらしい。作業机の前の壁に窓を作って風が通るようにするのだと言っている。そんなことどうやってやるんだろうと思っていたら、サントソさんはレンガを積んで作られている家の壁に豪快に大きな穴を開けた。この作業はあっという間に終わり、その日のうちにルジャールじいさんの作業机の前には鉄格子がはめただけの簡単な窓が開いた。ルジャールじいさんもこれで涼しくなったと満足気だった。
先日(2023年11月)にこのマタラム通りの家を久しぶりに訪れたら、ルジャールじいさんの家は間取りがすっかり変わっていた。この時の窓はまだそのままあったけど、家の中の間取りがだいぶ変わっていて、既に成人したラストゥリさんの二人の息子のそれぞれの個室ができていた。このリフォームにもサントソさんが呼ばれたようだった。
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