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ワインが投資になるって聞いたんですが・・・③

前回記事②はこちら・・・

ケイ:あるフランス人のワイン卸の業者に聞いたら「あるワイン投資家が1ダース12本を買うと、10本は投資に回し、2本はギフトとして配る。その後、毎年1本づつ飲んでいくイメージです」とのこと。世界の富裕層に向けた調査では、富裕層の3割弱がワイン投資を行なっているとされていますが、その内の7割が「お金のためだけにワイン投資を行なっていない」と答えています。つまり、自分で楽しんだり、知人にプレゼントするために、ワイン投資を通じた貯蔵をしています。これは「人生の情熱のために投資をする」ということで、ワイン投資は”Investment to passion”(情熱への投資)などと言われています。いずれにせよ、過去に生産されたファインワインのストックは着実に減っていき、それが過去の高い価格上昇につながっているという訳です。

アキラ:へー。面白いですねー。例えば現代アートや高級時計なども、長期で保有すれば価格が上がるという傾向が見られるようですが、ワインのように消費されて世の中から存在が無くなってしまう訳ではないですいよね。資産としてのワインは、とてもユニークなんですね

ケイ:そう思います。なお、2010年以前はファインワインといえばボルドー産のワインでしたので、上記の過去30年程の指数はボルドー産ワイン投資の成果となっています。

また、ボルドーやブルゴーニュといった有名なワイン生産地は、新たにブドウ畑を開発できる土地が全くといいほど残っていません。シャンパーニュ地方もそうですが、その土地で作られているというブランド、供給における希少性が極めて高いのです。ブルゴーニュはボルドーと比べてブドウ畑の作付け面積が半分以下であることもあり、ここ10年程、ブルゴーニュ産のファインワインの価格は特に大きな上昇を見せています。

アキラ:なるほど。ところで、過去の価格推移を見ると基本的には右肩上がりなんですが、2010〜2013年頃に価格が高騰して、その後、急落しているように見えます。当時、何かあったんですか?

ケイ:はい。これには2つの要因があります。まず、2008年に当時は100年に1度の不況と騒がれたリーマンショックを受け、フランスのワイナリーが2009年~2011年にかけて生産量を10%程度減らしたこと。また、こちらの方が要因としては大きいと思いますが、中国での高級贈答品ブームが起き、その取り締まりが当局により行われたことです。リーマンショック以降、中国政府は景気対策のために巨額の公共投資を行なったのですが、同時に汚職や贈賄などが中国中で横行してしまいました。公共工事の受注を受けるため、高額な酒類や革製品などを賄賂として送るなどの行為が当たり前になってしまったのです。そして、この時期はファインワインだけでなく、世界の様々な高級品が暴騰しました。その後、中国政府はこれを社会問題として厳しく取り締まったため、ファインワイン価格は元のあるべき水準に戻る過程で下落した訳です。

アキラ:なるほど。一国の汚職が世界の高級ワイン価格を動かしたとは。。。

ケイ:はい。ただ、上記は特殊要因と考えられますし、今後、中国政府は国内で同じ事態を起こす事はないでしょう。高級品の贈答禁止の法律も2012年に制定されています。また、急騰急落の前後の価格水準は、数年かけて切り上がっているので、この特殊要因を除いたファインワインの真の価格は着実に上昇していたと考えることもできるでしょう。また、ワイナリーや優良なワイン商も、このような乱高下する状況は由々しき事態として捉え、今後、同じような事が起きないように取引する卸の選別や、トレーサビリティーなどの管理を厳格化させました。雨降って地固まるではないですが、このような問題はファインワイン業界全体のエコシステムをさらに強化することになったと思います。

アキラ:何かの事件があると、それを取り締まる決まりができて、段々と健全な市場の仕組みが整っていく訳ですか。

ケイ:そうですね。ワインに関わらずですが、自由経済や自由市場には本作用と副作用があります。自由市場の本作用とは、モノやサービスの社会的な価値が価格に正しく反映され、社会の資源が適切に配分されていくことです。その道の専門家が「これは幾らです」と決めるより、自由な市場における売買で値段を決めていった方が、結果として、より正しい価格が付くことは様々な研究で明らかになっています。そして副作用は、まさに上で見たような特別な要因で、価格が一時的に歪められること、本来の価値から価格が大きく乖離してしまうことですね。このような状態は「バブル」と呼ばれますが、一時的に、まるで泡のように価格が膨らんでしまい、その後に本来の価値まで下落が起こる現象を指します。そして、下がる時は大きく下ります。

アキラ:大きく下落ですか。なんだか怖いですね。。。

ケイ:いえいえ、それほど心配をすることはないと思いますよ。市場価格を長期により強く動かしているのは、明らかに本作用の方ですから。つまり社会的な価値が価格を決める。ファインワインの場合は、副作用が働いた急上昇と急下落の前後において、価格水準は切り上がっていることが、より大切ですね。副作用の下落で大損をするような人は、バブルで価格が急上昇しはじめてから「短期的に儲けてやろう!」という強欲で、取引に参加してきた人が殆どです。賢人であれば、保有している資産の価格が急上昇したら「何だか意味もなく上がってるなぁ。どうせ後で下がるだろうけど、それは短期の話。良い資産は長期で持つだけ」と考えます。

アキラ:なるほど。短期視点の人と長期視点の人で、値動きに対する考え方が全然違いそうですね。僕は、、、できれば長期視点でいきたいです。

ケイ:そう思いますよ。そもそもワイン投資は、ジワジワと需給がしまって価格が上がる仕組みに基づいているので、それに従って長期の投資を取り組みましょうね。さて、次に「ワイン投資で分散投資」という話をしましょうか。ワイン投資は「分散投資として優れている」という事が良く言われるんです。これを考えてみましょう。

アキラ:分散投資ですか??あの「1つのカゴに全ての卵を入れるな」みたいな格言ですよね。

ケイ:はい。通常、皆さんが持っている資産は、預貯金、株式、国債、不動産などが多いと思うのですが、ファインワインの価格の短期の値動きは、それらの資産と、過去、かなり異なっていることが数学・統計的に証明されています。特に不況などで株価などが下がったときに、「一部の資産をファインワインなどへ分散投資していると、資産全体のダメージを減らしてくれますよ」という文脈でワイン投資が推奨されたりします。

アキラ:ふむ。ピンチの時にダメージを減らしてくれるですか。良いことのようにも聞こえますし、でもピンチありきの話なので、悪いことのような。よく分からないですね。

ケイ:はい。その感覚で正しいですよ。個人の投資において、一番大事なのは「長期で価格が上がっていく優良な資産であるのか否か」です。「不況時にクッション(保険)になる」というのは、あくまで二次的な話ですからね。

④に続く・・・

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