かくしてバリュー投資は死せり 【10月2日付投資日報巻頭記事完全版】
一連のハイテク株総崩れで、秋以降はバリュー株などに物色が変わるのではないか? という意見を耳にする。少なくとも買われ過ぎた銘柄はしばらく調整するとの声が多い。
だが、果たしてそうだろうか?
割安な銘柄に投資する「バリュー投資家」は、例えば、直近のバフェット氏による日本の商社の大量保有などを材料視する。
だが、事態はそう簡単ではない。
そもそもバフェット氏が何故日本株を買ったのだろうか?
一つは、米国では業績が堅調で、しかも過小評価されている銘柄を物色すると選択肢は限られる―という答えが導き出せる。低金利を背景に買収・合併(M&A)が隆盛となり、上場企業の数は減ってしまった。残っている企業は借り入れが嵩み、しかも新規上場企業の殆どは赤字である。これではバフェット氏のお眼鏡に叶う筈もない。
米国の上場企業数は1990年代半ば以降、減少し続けている。モルガン・スタンレーの調べによると現在は約3600社と、1996年の約半数である。
この期間に10年物米国債の利回りは5%強から1%弱に下がった。金利が低下すると、投資家はプライベートエクイティ(PE)等、より高いリターンの金融商品を探す。こうした流れに、借り入れコストの低下が重なり、レバレッジド・バイアウト(LBO)が盛んになり、その結果上場企業数が減った。買収専門会社が所有する米企業の数は昨年、株式投資家が所有する企業の2倍に上った、というのがモルガン・スタンレーの分析結果である。
日本でも同様だが、低金利は2つの経路で企業間の合併を促した。第一に、資本コストの劇的な低下。指標利回りは企業が資金を調達する資本コストに影響を及ぼし、利回りが下がるほど買い手は支払い余力が増し、案件が成立する可能性が高まる。
第二に、買収を考える企業や投資家、ファンドにとって、借り入れコストは重要だが、LBOに見られる通り、買収資金の借り入れコストは劇的に低下した。借り入れが、低コストで簡単だとすれば、LBOへのインセンティブは非常に高くなる。
その一方で上場企業の負債は増えている。投資適格級企業の昨年の負債残高は10兆ドル余りと、2001年以降で5倍以上に膨らみ、対国内総生産(GDP)比は09年以降で最高の水準に達している。つまり「合従連衡」は、買収する側や統合する側の負債を劇的に増やした、と言える。吸収する側はそのコストを払ってきた―と言うロジックになる。
だが、企業が目論見通りの収益を統合で上げられなくなると、これほどの負債を抱える事自体が困難になる。恐らく株価も下がるだろう。実際、新型コロナウィルスの世界的流行で、これまでの見通しはかなり楽観的と言わざるを得ず、もっと言えば、ある意味無意味になった、と言う表現も出来るかも知れない。にもかかわらずS&P総合500種構成企業の将来の業績予想に基づく株価収益率(PER)は、少なくとも過去10年間の最高水準に近い。つまり非常に割高―と言う訳だ。それでも、この株価が許容されているのはひとえにFRBによる劇的な金融緩和が進んでいるからだ、とも言える。
それでも、米国には株式公開ラッシュによる新規企業の増大がある筈ではないか? そして、それは投資家にとって希望ではないのか?
そう簡単な流れには到達しない。何故なら、新規上場企業はアマゾンやテスラ等の成功例を模倣する。つまり、膨大な赤字を抱えても、市場シェアや核心的技術を囲い込む。ある臨界点に達すると利益は劇的に増加する―というビジネス・モデルを採用するケースが殆どなのだ。実際、米国においては今年に入って新規株式公開(IPO)を実施した事業会社のうち5分の4は利益がまったく上がっていなかった。これでは新規企業のバリューなど存在しない。というよりも、既にバリュー投資という投資手法自体が古臭い投資手法と見做されても仕方無いだろう。
米連邦準備理事会(FRB)は、当面は実質ゼロ金利政策を維持する方針を明確にした。当面利回りの高いリスク性投資や、黒字化していないハイテクベンチャー企業のIPOなどの投機へと、多くの投資家を駆り立て続けるだろう。
そう、バリュー投資は手法そのものがもう死んだのだ。
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