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本ができるまで~科研研究成果公開促進費(学術図書)を申請するの実録(所属先を通さない場合・汎用版)

 私が『債鬼転生―討債鬼故事に見る中国の親と子―』(知泉書館 2019年)を出版したとき、一番ストレスに感じていたのは、タイムスケジュールが分からないことであった。申請の締め切りが分かっているとはいえ、そこに到る通過ポイントはいくつあって、それを何時までに越えなければならないのか、ほとんど情報がなかった。
 博士論文を出す時には、同じ研究室同じ締め切りで頑張っている仲間がいたので「~っていつごろやっておくの?」「もう~やった?」と気軽に訊いてみることも出来た。しかし特に私のいた研究室では、結局博士論文を出版しない人も多く、出版するとしても博士論文から数年置くのが通例なので、さて出版というころになると勤務先も立場(専任か非常勤か)も違ってしまい、そうなると声をかけて良いタイミングもよく分からなくなってしまっていた。わずかに捕まえた経験者には根掘り葉掘り訊きまくって、なんとか出版にこぎつけた(ありがとうございます)。
 私は自分の後輩にはこういうストレスはかけたくないと思ったので、覚え書きを残して、後輩の皆さんに役立ててもらおうと思った。実際自分が出版を企てていることを公言していると、「初めて出版社に行く時に手土産は要るか」のような、確かに先輩や指導教員に訊くには微妙な質問が寄せられるので、無駄なことではないと思った。出版のドタバタが収まったら、これから博論を出す後輩を集めて質問大会をしよう、などとと考えていた。
しかしこのような時勢となって、後輩を集めることも出来なくなったので、覚え書きをnoteで公開することにした。公開にするに当たって、出身校が違えば訳に立たなそうなことや、公開すると差し障りがありそうなことは全部削除した。質問があったら私の実物を捕まえて質問されたい。

2013年3月 … 博士論文提出。夏に口頭試問、9月に博士号取得。博士論文は母校HPにて全文公開される。
2017年7月 … 論文「『看銭奴買冤家債主』の「冤家債主」の意味」(『中国 社会と文化』32号掲載)校了(本来はここで本の原稿作りをスタートするはずであった)。しかし色々考えて論文「もしも子供から「お前は前世で私を殺した」と言われたら」(『東アジア比較文化研究』17号掲載)に着手。
2018年1月末 … 「もしも」脱稿。本の原稿作り開始。「もしも」掲載誌が単著出版より遅くなる可能性に備えて、「もしも」を単著に収録する許可をとる。
2018年3月 … だいたいの原稿が出来る。博士論文は全部で5章、プラスする論文は約4本。5月末〆切の別の出版助成に申請するために、突貫工事で進めた。とにかく最初から最後まで開通させた。しかしこの出版助成への申請は不発に終わった。
2018年6月下旬 … 指導教員の紹介で出版社決定。(出版社には既に全文公開されていた博士論文を見て頂いたので、3月段階の原稿は出版社に見せていない)。
2018年7月初旬 … 出版社を訪問し、担当編集者と顔合わせ。今後の流れ(何時までに何をする)、申請の仕方(大学を通すか、直接申請するか)確認。鳩サブレー持参。

※科研費研究成果公開促進費(学術図書)の申請には、所属先を通すルートと所属先を通さないルートの二つがある。採択率はどちらでも変わらない(らしいが異論もある)。所属先を通す場合、直接申請の場合よりも早めに申請書を書かなければならない上、所属先の内規もクリアしなければならない(らしい)。しかし大学の職員の担当者に申請書のアドバイスをもらえたり、書類の不備をチェックしてもらえたりする。

2018年9月25日 … 出版社に最新の原稿(完成はしていなくて良い)&目次&使用する図表(後で削れるので多めに)を添付ファイルで送る。これは申請に使う見積を算出するため。
2018年10月10日 … 出版社より見積書が出る。ここでOKを出すと、社判入りのものが郵送される→コンビニのマルチコピー機のスキャナでPDFを作成→申請に使用。
2018年11月8日頃 …先に電子申請を済ませる。それから期間内に原稿送付。題名と章立てはここで確定。今後は動かせない(副題をつけないで申請して、後からつけることが出来るかどうかは、見解が分かれる)。本文(出来たところまで、図表含む・参考文献と謝辞と外国語要旨と索引は無し)を製本して郵送。原稿の一頁あたり字数や縦書き横書きの規定無し(昔は規定があったらしい)。電子申請で送った申請書(原稿以外)は、控えとして出版社にもPDFを送る(後日、担当編集者より衍字を指摘される)。

※申請書を読んでチェックしてもらう人を確保する。科研費学術図書出版経験者が含まれていることが望ましい。間際は学術振興会の他の申請と重なり、皆修羅場となるので、何事も早め早めを心がける。合格者の申請書を読ませて貰うのは有益。しかし申請書で訊かれることは毎年微妙に変わるので、あまり昔の人の申請書は参考にならない。また、他人の科研費申請書を読むのも参考になるので、申請の数年前から頼まれたらやっておくと良い。

申請後… 外国語要旨作り。中国語要旨は自分で書いて、友達に添削してもらう。英語は結局自力で書くことを諦める。
2019年3月 …英文要旨をエディテージに翻訳に出す。スタンダード学術翻訳を選択。約7万円が飛ぶ。4月5日に納品される。再校正一回でできあがり。
2019年4月1日・2日 …1日、学振ホームページに「内定者決定」と告知されるも、申請に使用した頁には変化がない(結局インターネットを用いた告知はなかった)。内定通知は翌日レターパックにて到着。すぐ出版社に知らせる。同月26日までに所定の書類を郵便で返送。直接申請の人は銀行口座の番号と通帳のコピーを送る。
2019年4月12日 …出版社と再度打ち合わせ。入稿時期決定。5月連休明けから7月初めまでに入稿する。年末までに出版。(出版を急ぐ場合は、内定とともに一斉入稿できる。その場合は夏に出版となる。なお間に合えば秋の学会シーズン前に出版出来ると、レスポンスが得やすいとのこと。)
2019年5月12日 …五月雨入稿第一回。入稿から1週間ほどで、初校が来る。
2019年6月22日 …交付決定通知、レターパックで来る。申請内容の変更が無い限り、ここで送り返す書類は無い。出版社に決定をお知らせして、契約書を作ってもらう(契約書は博士論文全文公開差し止めの為にも必要)。
2019年7月29日 …母校へ行き、博士論文全文公開差し止めに必要な書類を提出するも、先方が私に間違った書類フォームをわたしていたことが判明。指導教員署名が必要な書類であったため、その書類だけ後日出し直しとなる。
2019年7月31日 …この日に主要部分の初校がそろう。
2019年8月7日 …再度母校へ、博論公開差し止めに関する全ての書類を提出する。「全文公開をいつ止めたいか」訊かれるので、年内には止めてほしいと回答。
2019年8月上旬と中旬 …初校のかたわら、索引の項目(人名、書名、作品名)ピックアップ。
2019年8月22日〜28日 …中国へ。この時撮った写真を使用することが出来た。
2019年9月4日夕刻 …初校を黒猫にて返送。
2019年9月5日 …奥書依頼。
2019年9月9日 …奥書送る。
2019年9月10日 …謝辞送る。
2019年9月11日 …博士論文公開が停止されていることを確認(こちらには連絡なし)。
2019年9月13日 …目次と本文再校(PDF)届く。
2019年9月23日 …再校送る。

※ここから責了まで、実質的三校の校正と索引の校正で乱戦状態。著者は再校までのはずであったが、索引を作っていると面白いほど誤字脱字フォントミスが見つかるので、そのつど連絡。なお同学や後輩を動員しての校正はしなかったが、これはするべきであった。

2019年10月3日 …責了。
2019年10月21日 …本が出来たと連絡あり。献本先へ直接発送。
2019年10月22日 …現物が著者宅へ到着。
2019年11月12日 …出版社より「費用計算書」「出荷先一覧表」到着。なお刊行物の頁数が申請時より大幅に増えたため、理由書を添付(出版社が作成)。

※申請時の見積では、頁数は250頁であった。ちなみに申請時の提出原稿はワードで約18万8千字(参考文献や謝辞は入らず)。入稿時の文字数は約21万2千字(参考文献等含む)。完成した書籍は368頁となった。

2019年11月20日までに …「実績報告書」「費用計算書」「事業計画変更届け」「出荷先一覧表(と出荷先請求明細書)」「理由書」「刊行物(指定の場所に付箋)」を郵送。一回で済まない場合があるので、早めに出すこと。
2019年11月30日 …学術振興会より「事業計画変更承認書」到着。
2019年12月13日 …学術振興会より「額の確定通知」来る。これより約2週間後に振込とのこと。
2019年12月27日 …振り込みあり。
2020年1月9日 …出版社の口座へ振り込み。出版に関わる手続き終了。

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