海月の箱
「泡になって消えてしまいたい。」
ぽつりと呟いた。
『個』というか『自分』というものを持っていない私は、常に周りの顔色をうかがって、人の意見に左右されながら生きてきた。反感を買わないように、孤立してしまわないように。みんなの中に埋没して目立たないように、静かに、ひっそりと。
クラゲのように流れに身を任せて、人の意見に同調し、迎合し、多数決の多い方に賛成して。
ふうわり ふうわり
ゆらゆら ゆらゆら
流れに任せ、揺蕩うように。
流れて流されて、理想の自分との乖離ばかりが大きくなる。
こんな自分が嫌だった。自分で決めることができなくて、誰かに決めてもらう日々。
クラゲのように少し動いて、潮の流れに身をまかせて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
けれどもだんだん苦しくなるのは、私の中にいるもう一人の『わたし』だった。
「いつまでこんな中途半端な生き方をしてるの。本当は嫌なんじゃないの?!」
『わたし』は目を吊り上げ、キッっと口角を上げ、はっきりと言った。
「同調してばかりの自分は嫌なんでしょ?だったらまず自分が変わりなさいよ。」
そんなことを言われても、変わることって難しいし勇気がいるのだ。
いつも自分の中の自分と押し問答の繰り返し。
理想を追い求める気持ちについていけない弱い心。本当は嫌なのに…
くるしい、息ができない。
頭の中が酸欠になって眼の前が真っ暗になる。
自分の中の『わたし』の声を聞きたくなくて蓋をする。『わたし』を閉じ込める。
海月のように、いつも流れに身を任せる。
ふうわり ふうわり
揺蕩うように
ゆらゆら ゆらゆら
流れて 流されて
息ができなくて
苦しくて
ふうわり ふうわり
ゆらゆら ゆらゆら
揺らめきながら
狭い箱に閉じ込もり
硬い殻に閉じ込もり
ふう わ り…
ふ う わ り…