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1人読み用

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朗読用、1人読み用の短編、詩、セリフなど。
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2023年9月の記事一覧

最愛のあなたへ

早朝午前3時 ふと目を覚まして 寝ぼけ眼(まなこ)で腕の中にいる貴女の寝顔を見る シパシパとまばたきをして ぐっすりと夢の世界にいる貴女の寝顔を眺める この時間がとても好きだ   サイドボードのロックグラス 溶けてなくなった氷と 年代物のBOWMORE(ボウモア)の スモーキーで甘いシェリーの香り サラミソーセージのスパイシーな香り 仄かなボディーソープの香りの中に ひときわ輝く貴女の芳(かぐわ)しい香り 首筋に顔を埋めて思い切り息を吸い込む   情事の残り香が混じった 脳

落葉(らくよう)

秋が足早に駆けてゆく なにをそんなに急ぐのだろう 高い峰々が薄く雪化粧して 薄氷(はくひょう)がパリパリと音を奏でる 唐松の紅葉が落ち水面を黄色く染め 真っ白な霜は足跡の形に溶け 地面を盛り上げて伸びた霜柱は しゃりしゃりと泣く かじかんでジンジンとする指先 チリチリと寒さで痛む頬を 白い吐息が撫でていく そう これは寒さと澄み切った青空のせい 泣いてなんかいない モミジも、カラマツも、ナナカマドも 色づいた葉が はらはらと落ちていく あなたのことが好きだと言った