見出し画像

企画参加 『パートナーと音楽』

私には、お付き合いしている人がいた。
とても優しくて、私の言うことを何でも聞いてくれて、自分で言うのもなんだが、私にベタ惚れしている人だった。

それを知っても、夫は諦めなかった。

「今度、友達の結婚式の二次会で歌を歌うんだけど、ぜひ聴きに来て欲しい」

友達の結婚式?
私にとっては赤の他人の結婚式。
そこに、私がのこのこ行ってもいいわけ?

気が進まないし、そうまでして夫の歌を聞かなければならない理由もない。
断ろうとしたが、夫は引き下がらなかった。

「10分でいいから来て欲しい」

結婚式を利用されるお友達もいい迷惑ではないのか?

とにかく私は、夫の熱意に押されて、二次会会場に足を運んだ。
思いがけず夫の仲間たちに大歓迎されて、私は言いたいことを言って、のびのびと過ごした。
元々、異性には遠慮しない。ずけずけと辛辣なことを言う、可愛げのない性格だ。

程なくして、夫と夫の仲間たちによる演奏が始まった。
夫は、大学時代、ビッグバンドにいて、サックスを吹くかたわら、先輩に勧められて歌を歌っていたのだ。「上手い」という自信があったのだと思う。

そうして流れてきた一曲。

 Fly Me To The Moon

言うまでもなく、ジャズの名曲だ。
わかりやすいラブソング。

うん、上手。なかなかいいね。

そうは思ったが、その後、私は彼とデートの約束があった。そのことは夫にも伝えていた。

「もう時間だから」

夫の歌が終わると、私は別れを告げて、会場を後にした。

だが、どうだろう。
待ち合わせ場所に向かう道すがら、頭の中で、さっき聞いたばかりの歌が繰り返し繰り返し流れてくる。

in other words
I love you

甘いメロディー。心地よいリズム。

あ、好きかも

そう思った。

それから私は、その時付き合っていた彼とお別れし、夫と付き合うことにした。
「夫」と書いてしまっているので、結論ありきの話になってしまったが、紛れもないFly  Me To  The Moon がきっかけとなり、私は夫と結婚した。
今でも大好きな一曲だ。

芸は身を助く。

夫は歌が上手かった。だから私と結婚できたと言っても過言ではない。
名曲、Fly Me To The Moon のおかげ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?