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『ユンヒへ』感想

深々と降り積もる悔恨の雪が、ほんの少しだけ融けた気がする。

『ユンヒへ』は、過去の想いに囚われていたユンヒが、かつての恋人・ジュンと再会することで、20年もの間止まっていた時をようやく動かすことができた…そんなお話でした。

どの登場人物にも、無かったことにできない想いや、それを支えたいという優しさがあり、小樽の静かな雪景色と相まってじわじわと染みてくる作品。

※以下、『ユンヒへ』のネタバレ含みます。

・ユンヒ
タイトルにも名を冠している女性。シングルマザーで、大学進学を控えた娘・セボンと韓国で二人暮らし。元夫いわく「人を寂しくさせる人」。本人は押し殺したつもりでいた、かつての恋人・ジュンへの想いが、ずっとくすぶり続けていた。

めったに笑わない、タバコの似合う女性。(キム・ヒエのタバコを吸う様が本当にかっこよすぎる……)

・ジュン
韓国人の母と日本人の父を持ち、現在は北海道・小樽に伯母とともに暮らしている。家には猫もいて、街の動物病院で働いている。おそらく十代のころ、両親が離婚する前は韓国で暮らしており、その頃にユンヒと恋人になっていた。

長らくユンヒへの手紙を書いては送らずに、毎回はじめての気持ちで書くということを繰り返していた。

「親が韓国人であること」を長らく隠してきた彼女には、もう一つ誰にも言っていないことがあった。

・マサコ
ジュンと暮らしている伯母。町の喫茶店を一人で切り盛りし、店を閉めてからは趣味のSF小説を読むのが日課。こうなりたい老後ナンバーワン。ユンヒへの手紙が韓国に届くきっかけをつくった人。

多くは語らないがジュンのことを理解していて、優しく寄り添い、ほんの少しだけ背中を押してくれる存在。

・セボム
ユンヒの一人娘。成績は優秀なようで、ソウルの大学へ進学する予定。ユンヒが使わなくなったフィルムカメラで写真を撮るのが趣味だが、「美しいものしか撮らない」と言い、人物は撮っていない。

ジュンからの手紙をユンヒよりも先に見て、母親の知らなかった一面と、根底にあった悔恨を知り、どうにか二人を再会させようと奮闘する。素直な優しさと聡明さを感じるキム・ソヘの演技が印象的。こっそりタバコを吸っていたりする。

・ギョンス
セボムの恋人。同級生で同じく大学進学のタイミングだか、「なんとかなる」と言っている。一回留年してるらしい。最近の趣味は物のリメイクらしく、拾った手袋を縫い直したりしている。

楽天的でセボムと比べると考え足らずだが、素直で優しく、小樽で二人を再会させる手伝いのために、一人で先入りしてくれるぐらいに良いやつ。マジで良いやつ過ぎて騙されないか心配。タバコは吸ってなかった。

・インホ
ユンヒの元夫でセボムの父。ユンヒの兄からの紹介で結婚した。彼女のことを、理解はしきれなかったが、最終的に幸せであることを願っていた。

・リョウコ
ジュンの動物病院に来ていた女性。月が綺麗ですね。


ジュンが「そんなことで腹をたててるじゃない」「隠してきたことは隠したままの方がいい」と言うように、パーソナルな部分…彼女たちがレズビアンであること、に踏み込んで言及するシーンは驚くほどに少ない。マサコもセボムも、彼女たちが愛し合っていたことを、ただ姪を、母の気持ちを救いたいという気持ちで動いています。

自分達とは異なるものに名前を付けて、一定値の理解を共有できるのは人間の能力ですが、その名前の中には、それぞれの一つしかない想いがある。

自分と違うことが当たり前で、目の前にいる人が何を想っているのかを考える、それが普通であってほしい…と、感じました。自分はね!

雪深い小樽の静謐な風景と、ミニマムな劇版が今の季節にピッタリ。たまにはタバコ吸いたくなる。


雪はいつ止むのかしら……

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