松野さんと河合さん6

いつものように河合さんの後ろを歩く。

さっきまで河合さんの副流煙をもらっていた。

いつもと同じ匂い。

でもどうして私達は水族館に来ているんだ?

「河合さん、水族館好きなんですか?」

「あんまり来たことないです。でもくらげ見せたくて」

「くらげ?」

私の頭の中に朧気なくらげがぷかぷか。

同じくらいクエスチョンマークもぷかぷか。

「松野さん今日元気なかったですよね?」

だからくらげ?

「すみません。あまり表に出さないようにしてたんですけど」

「大丈夫。他の人達は気付いてなかったと思うから」

河合さんが一つの水槽を指差した。

河合さんが指差した水槽を横並びで見てみる。

そこには小さなくらげが数匹ぷかぷかしていた。

「思ってたよりかわいいですね」

「でしょ?そしてすごく癒してくれます」

「確かに。ずっと見ていられますね」

河合さんを見上げれば、満足そうな顔をしてこちらを見ていた。

その表情で、今なら言えるかも。と思ったと同時に口から言葉が出ていた。

「…言われたんです。塚本さんに」

「塚本さんって新しく入ってきた塚本さん?」

あなたの知り合いの他の塚本さんなんて、私が知るわけないだろ。

「はい。河合さんが本気で好きなので、松野さん河合さんのこと弄ばないで下さいって」

なんだか告げ口をしてしまっているようで、話ながら視線が段々下がってしまうのは仕方がないと思う。

「…ふはっ。弄ぶって…ははっ」

「…弄んでません」

「うん、そうだね」

そう言いつつもまだ笑ってやがる。

ちゃんと顔を見なくても、視線の先にあるお腹が動いてるのわかってんだぞ。

「ほら、せっかくだからくらげ見ましょう」

促されて渋々くらげを見る。

あー。ぷかぷかふよふよ癒される。

「癒されてます?」

「とっても」

「松野さん」

「なんですか?」

呼ばれてもくらげに癒されている最中だから、河合さんの方は見ない。

「松野さんが塚本さんにもう何も言われないように、今度は自分が松野さんを沢山弄んであげますね」

「…全然嬉しくないです」



(くらげよりあなたを癒せる自分になりたい)

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