松野さんと河合さん2

うーし今日も働くかー。

左肩に右手を置いて、左腕をぐるぐる回しながら店内事務所を目指し歩く。

店内事務所が近づくにつれ、なんだかいい匂いがしてくる。

こんな柔軟剤の人いたかなー?と、小首を傾げつつパーテーションで区切られただけの店内事務所に入る。

「なんだ、河合さんか」

「第一声がそれってひどくないですか?」

パソコンに顔を向けたまま、視線だけをこちらに向けてきた。

「あ、お疲れさまです」

「はい、お疲れさまです。じゃなくてねぇ」

「柔軟剤変えたんですか?」

「もういいよ。変えましたけど?」

答えてくれつつ、手はキーボードをカタカタ。

「それって商品名なんですか?」

「えーと、カタカナ4文字のやつです」

「それ答える気ないやーつ」

こんな話をしているが、河合さんは相変わらずパソコンを見たまま真面目に仕事をしている。

私も私で河合さんの隣で、今日のシフト内容をいつも持っている手帳に写している。

「答えたら同じやつにするんですか?」

「絶対被らないようにしたいんで」

そう答えると、さすがに河合さんの手が止まった。

うーん、ちょっと言い過ぎたかな。

少しだけ後悔した私は手帳から顔は動かさず、視線だけを河合さんに向けた。

河合さんがこちらを見ている。

視線だけでなく、顔ごとこちらを見ている。

「松野さん」

「…はい」

「被らせたいから絶対に教えません」

「………」

何も言い返すことが出来ないまま、私は店内事務所を出て仕事を始めることにした。

(もうテスターのあるお店でしか買えないじゃん!)

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