畑の中の忘年会
「楽しいよねこうやって直に会って話すのって」
全員で笑い転げながら誰かが言い、私も笑いながら深くうなずいた。
畑で開かれる忘年会はこれが初めてだった。
集まるメンバーはSNSでつながっているけれど、顔を合わせるのはこれが初めての人たちばかり。正直不安がなかったと言えば嘘になる。
だからなおさら、こうやって胸襟を開いて心から笑えることが嬉しいのだろう。
みんなで作っているのは闇鍋だった。材料はそれぞれが持ち寄り。たくさん持ってくる人も、ちょっとしかない人も。
畑からとってきたばかりの白菜や菊芋。
普段お気に入りの日本酒。
一口大に切った鶏肉。
イチオシの手作りユズ味噌。
鍋が煮えるまでの間にと蒸し芋やお煎餅を持参してくれた人。
鍋やコンロ、まな板や包丁持ってきてくれた人。
全員に気を配り、行き先や当日出欠の連絡までまめに連絡してくれた人。
鍋が煮えるまでの間、寒いねーって言いながら、コンロの火に手をかざしておしゃべりをする豊かな時間。そのうちの1人が育てている畑を見に行った。
2メートル平方のちっちゃな仕切りの中に長方形ではなく、渦巻き状の畝が作られている。
「え〜おもしろい。なんで渦巻き?」
「う〜ん。ほら、宇宙は循環で渦巻き状でしょ」
「???(わからん)」
「私、種はまいたんだけど、他は何もしていないの。でも毎週来るたびに雑草がすごいからそれ取ったり大きくなったなぁって眺めたり」
「楽しいね❤️だんだん育ってくの見るってめっちゃ嬉しくない?」
「ふふ、そうなのよね。夏の間は草取りで忙しかったけど、冬に枯れちゃうと何もないじゃない?なんかその辺の放置されてる区画の木を切ってみたりして。向こうは市が所有している敷地だけど、ほぼ放置されたままだしね」
「いいねぇ❤️ 市民農園だと周りからいつの間にか農薬撒かれたりしてなかなか思うようにいかないけど、ここだったら私でも快適に過ごせそう」
過敏症で、息するだけでつらい場所もある彼女には殊に魅力的らしい。
「そうそう。何でも自分でやるしかないけど何でも勝手にやれちゃうからね。楽しいよ」
「電気がなくてもやっていけるのもポイント高い。スイッチ入れなくても自分でやれる安心感」
「そう。震災起きると電気に頼っている所って大変だよね。
タワマンとかオール電化とかマジで生活無理だと思う」
「電気って結局電気代もかかるしね笑笑」
そういえば今日の忘年会もそうだけど、こういうお金使わなくていいですってコンセプトの企画良いよね。「お金でも受け付けるけど、自分で金額を決めてください、ならいいんじゃないかな。なんかそういうペイ・フォワードとか、投げ銭制みたいな企画ってあるじゃない?」
「へーそんなのあるんだ。でもそれでうまくいくのかなあ?採算取れるのか不安」
「うまくいく場合もあるんじゃない?今日の鍋だって美味しくできてるじゃん」
「なんか経済的な自立って言われて頑張って働いてきたけどさぁ、なんだかなぁと思うよね。同期の子がさ、仕事そんなにたくさんやれませんって言ったら根性なしとか人間としてできてないとか上司にものすごくディスられててさ。逆に私、それだけキレちゃう上司の方が怖かった」
あらまぁ。
会社のほうはなかなかその人に合わせてくれないもんね。
そうだよねえ。一生懸命働くのって素敵だけど、それだけになっちゃうと辛いよね。強制されたらなおさらね。
まわりの状況が見えるとか気にかけることができる余裕って人としてめちゃめちゃ大事だと思う。
根性出して無理して頑張って仕事することが正しいのって昭和の価値観かもしれないけど、でもそんなに簡単には手放せない。だってお金の不安があるから、簡単に仕事辞めるわけにもいかない。
「がむしゃらにお金を稼ぐより、健康で畑持って安心して暮らしたいって言う気持ち強いなぁ」
「わかる〜」
「うちさ、そう言っちゃなんだけど旦那ってITバリバリのリーマンだったの。めちゃくちゃ仕事忙しくてお給料良くて。だけど私のほうは農業とか、なんかこういうのんびりした世界が好きでさ。まぁ結局この近くで農業を始めたんだけど、お金がないとか不安だとか思ったことないんだよね、農業やってみて。食べ物にしても生活用品にしても、自分たちでなんとかできるって思えるからかな」
「それいいねぇ。生き物育てるのもすごく楽しいけど、お金が全然なくても不安を感じない生活って良いなぁ」
「街じゃあそうはいかないもんね。まず電気がないと何もできない。でも電気って、天変地異の時には止まるんだよね。電気代かかるし」
「人とつきあうにもお金かかるよ、都会だと。田舎みたいに知らないうちに人が自分ちに入ってくることってないけど」
「いや、都会でそれやったら不審者だから。犯罪だし」
「なんか田舎行くと知らない人めちゃ来るよね。本人がいなくても家にいたりしない?」」
そういえば、都会は人数が多いけどみんな似たり寄ったりの顔つきをしている、田舎はヘンな人ばっかりで面白い、と昔誰かが言ってたなあ。
自立するって、誰にも頼らないで生きていくことなんだろうか?本当なの?
専業主婦は旦那さんからお金をもらって生きているけど、会社員だって会社からお金もらって生きている。自営業だってお客さんや国からお金もらって生きている。
頼るかどうかより、頼る相手ややり方を、自分で決定することができるのが自立すると言う意味なのかもしれない。お金から自由になるには、お金に頼りすぎないことも大事なんだろうなあ。
また会おうね、そう約束して別れた。また会えるといいね。
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