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【投機の流儀 セレクション】資本市場に疎い岸田さんは、現象面を見て勉強せよ

日本の個人資産が海外株に「殺到している」。このカギカッコの言葉は日本経済新聞6月6日号の一般記事で用いられている文言である。投資信託を経由して、海外へ日本の個人資金が日本株への投資資金の300倍にのぼる8.3兆円になったという。資本効率で優れている海外資金を選択するためだ。岸田さんはそういうことを判っているのだろうか。世界経済は成長が続いているから長期的に積み立てるつもりだという、地味で真剣な個人投資家がたくさんいるということだ。
「貯蓄から投資へ」と口先だけで叫んでみても、そこに魂が入って、そこに具体策が出てこなければ「ただの標語」に過ぎない。安倍元首相はウォール街へ行って、大袈裟な手振りで“Buy my Abenomics!”と叫んでいたし、小泉首相の「貯蓄から投資へ」は筆者がアラビア半島を旅行している時にアラビアのペルシャ湾側のドバイだったかバハレーンであったか忘れたが、小泉首相がテレビに映っていて「日本は法律も整っているし、治安もいい。投資条件は絶好です。だから日本株に投資しましょう」と日本語でアラビア人に向って説いていた。オイルダラーを呼び込むためだろう。字幕でアラビア語が出てきて、もちろん筆者は一字も読めないが、小泉さんは日本語で言っていたのでよく判った。安倍さんも小泉さんもこれぐらい熱心だった。岸田さんのように理念だけで説いても駄目だ。
今、日本の個人マネーは海外に向かっている。それはROE(自己資本比率)が日本よりずっと高いからだ。海外の方がずっと高いからだ。ROEは過去20年間のTOPIX平均は5%~10%の間だったが、米国のSP500は10%台で推移してきた。自分が出資したカネに対していくら報いられるかということを示すROEは、投資家にとって重大な問題だ。岸田さんはこういうことに気が付かなければいけない。個人資金も企業資金もトクする方に動く。これがカネの流れである。
日本企業は新陳代謝が遅れている。これも重大な問題だ。米国のGAFAMを始めとするIT企業の大手は、全て平成になってから生まれたものだ。日本にはそういう企業はほとんどない。あっても将来の夢を追うのみの小型ベンチャー企業であって、大型企業でGAFAMのようなものが平成になって育ったことは日本電産とファストリぐらいだろう。いや、まだ他にもあると言われるかもしれないが、筆者が知らないだけかもしれない。
とにかく、5月31日に政府は「新しい資本主義」という経済政策の実行計画案を発表した。しかし、これも抽象論に過ぎない。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

本稿の基本原則――本格的に「自分のお金に働いてもらう」時期は、今ではない
(1)先週末の市況
(2)世界的な利上げの波が一段と広がった
(3)当面の市況
(4)個人投資家、先々週15億円の売り越し(東証16日発表)
(5)間違いなくFRBは手遅れだが、一応は霧が晴れた感じ
(6)インフレを完全に読み違えたFRB
(7)明らかにFRBは後手に回った。したがって、ソフトランディングは難しい
第2部 中長期の見方
(1)今年の円相場の下落幅は約20円幅に達したが、円下落が理論値よりも大幅安
(2)卑近な見方だが、円安で魅力増すコロナ後の有望業種は……
(3)ウクライナ侵攻について、欧米の違いを簡単にまとめる
(4)日米株価の格差が縮む
第3部 日本財政破綻論とMMT
第4部 ふたたび「悪い円安」論
第5部 岸田首相の「新しい資本主義」

(1)岸田首相の新しい資本主義について――徐々に「転向」したが、ミエミエだ
(2)「全く新しくない岸田首相の新しい資本主義」
(3)「新しい資本主義」の「資産所得倍増計画」は、論理的に破綻している
(4)企業の内部留保に課税するという考え方について
(5)資本市場に疎い岸田さんは、現象面を見て勉強せよ
(6)「言葉遊びより改革断行を」
第6部 読者との交信蘭

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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