見出し画像

【投機の流儀 セレクション】それぞれの国民にとって特有な「恐怖感の伝統」がある

【お知らせ】
2021年10月1日(金)〜3日(日)の3日間、インテックス大阪におきまして、『第2回[関西]資産運用EXPO』(主催:リードエクシビジョンJAPAN)が開催されます。
10月3日に特別講演(無料・事前申込必要)を行います。是非、ご参加ください。
〈セミナー申し込み先〉
https://reed-speaker.jp/Seminar/2021/asset/top/

米国では「雇用」である。大恐慌の時代に立派なスーツを着たエリートビジネスマンたちが多数失業して、街頭をうろうろしている写真がよくある。あの大量失業時代以降、米国では失業と雇用が大きなテーマにあった。まして移民で成立している合衆国だから失業と雇用は大きな問題になる。今でも雇用統計が発表される日には、株式市場は「市場予測より多かった、少なかった」といった調子で右往左往する。毎月の行事となっている。
ドイツではインフレである。第1次大戦後に猛烈なハイパーインフレが起こって、パンひと切れが1億マルクという時代があった。筆者は「ベルリンの壁」の直後、東西ドイツの境界線上の東側のホテルにあえて泊まり、東ベルリンの貧しさと西ベルリンの豊かさの大差を目の前で見た。西ベルリンではタクシーが全部ベンツだったこととも目の当たりに見た。
その時に、露店の古物商で1億マルクの紙幣を古物として買ってきた。「ベルリンの壁の破片」とともに自分の記念品として買ったのだから偽物であってもかまわない。その1億マルクは偽物かもしれない(本物であったとしても1円の価値もない)。
そのドイツのハイパーインフレの典型のようなインフレに対して、これを収めるためにナチス党が正当な選挙で生まれ、正当な手続きでヒトラーがナチス党の総裁になり、ナチスドイツの恐怖政治が生まれた。ワイマール憲法(民主的な憲法とされている)の元で正当な選挙で生まれた政権がナチス政権のナチスドイツだった。だから古代ギリシャのプラトンが言ったように、民主主義における選挙というものは最善の方法ではない。
「次善の策」なのだということは、よくそれを表している。その時のハイパーインフレに対してケインズは、第1次大戦後のドイツの終戦処理において、ドイツに課する賠償金の巨大さに懸命に反対し「そんな巨大な賠償金を課したらドイツはハイパーインフレを起こし、それを収めるために恐怖の独裁政治に陥ることがあり得る」と主張し、その後のヒトラーの出現を予言したようなことを言った。
イギリス大蔵省の代表として出たケインズは、時の首相のロイド・ジョージと喧嘩別れとなり、ケンブリッジへ帰って学者となった。ケインズはドイツのハイパーインフレの際に、ドイツマルクを大量に空売りして、一挙に巨富を得た。このドイツマルクのハイパーインフレに賭けた空売りはインサイダー情報ではないかという悪口も聞かれたが、そんなことはインサイダー情報でも何でもない。
ドイツに対する賠償金の過大さは新聞にも報じられ、全員が知っていたことだ。それをハイパーインフレが起こると賭けて果敢に行動したケインズの投機行為であって、インサイダーでも何でもない。
話しは少々飛んだので、本筋に戻す。米国は雇用と失業が固有の恐怖感の元であるが、今はインフレ問題であろう。物価上昇率は5月に年率で5%に達した。これは40年ぶりだそうだ。「そうだ」と書くのは、筆者が自分で調べたことではない。米マサチューセッツ工科大学教授のダロン教授の「政治不信こそ最大の脅威、多少のインフレは気にするな」という週刊東洋経済誌7月31日号への投稿から拾った文言だからだ。ダロン教授の言い分はここから後にある。
「40年ぶりのインフレと言ってもここで経済対策にブレーキをかけるのは間違いだ。インフレ懸念に惑わされて米国が直面する最重要課題への対応がおろそかになることこそがこのインフレに潜む本当の脅威なのだ」「経済の低迷が続き、格差が拡大すると、政治の分断が深まり、政府への信頼が失われる」という言い分である。米大統領が自らの存続のために、あえて国家の分断を煽った共和党の反動的な政治手法は、トランプで一つの極限を迎えた。
そして「米国は帰ってきた」ということをバイデン政権は今、進めつつある。
米国内の格差の拡大は若林栄四氏が「この醜悪な格差はもはや政策では是正できないから、株式市場が天罰を与えるしかない。したがって、株価は6000ドルまで下がる」と2万ドルの頃に講演会で語ったり、自分の著作で書いたりしていた。格差の是正は、市場が与える天罰によって2万ドルは6000ドルになると言った。もっとも、彼の言うのはペンタゴン方式で黄金分割を主力としたチャートによる分析が100%だ(1929年の大暴落を未然に防いだ超富裕者が3人いた。
このことは拙著のどこかで書いた。一人はケネディ大統領の父親であり、初代SEC長官に就任した。一人は聡明なファンド経営者であり、ウォール街の魔術師と呼ばれたラルフ・マーチンであり、もう一人はマイナーな経済学者だったロジャー・バブソンという人だった。ところで、そのロジャー・バブソンという経済学者は1929年の大暴落の寸前、「好景気狂乱株価の中で株価は大暴落が起きて10分の1になる。エリート階級も全員失業する。
世界恐慌が来る」と演説して回り、大いに失笑を買った。聴衆は笑い話しを聞くつもりで参加して聴いたという。ところが、その通りになってしまった。これはもっぱらチャートで先読みしたと言っているが、そのチャートというのは不思議な五角形や三角形がたくさんあり、誰にも簡単には理解できないチャートだったという。それは筆者が想像するに、おそらく若林栄四氏の黄金分割によるペンタゴン方式(五角形の上昇角度・下降角度を基本とする。黄金分割比を正確に表している)ではなかろうかと想像する。
ところで、日本は何であろうか。筆者は、一つは「アメリカ病」であり、一つは「政治不信」ではなかろうかと思う。アメリカ病とは、第2次大戦終了後独立するまで7年間駐留したマッカーサーに対する畏敬と恐怖感が遺伝子となった。マッカーサーは軍人であるが、米国に帰国して大統領選挙に出れば必ず大統領になると言われていた男で、トルーマン大統領はそれを恐れた。
そこで朝鮮戦争のやり過ぎに対してマッカーサー司令官長官を解任した。政治家としてのライバルをクビにして始末したのだ。マッカーサーはその辞令が出てから僅か4日後に日本を去った。その時に10万人の日本国民が小さな星条旗を持って厚木空港へ行列で送りに行ったという。歴史上、世界に未だかつて被占領国の国民が占領国の旗を持って、占領国の最高司令官を空港へ見送りに行った例はどこの国にもないという(「マッカーサー伝説」工藤美代子著、恒文社、2001年刊)。
そのアメリカ病はNY市場と為替市場が「全くの写真相場」と揶揄されるほどアメリカと連動している。
もう一つ日本固有のDNAは政治不信であろう。第2次大戦後、総理大臣としてひと仕事して形に残る実績を残したのは、全部が官僚出身の総理大臣だった。吉田茂・岸信介・池田勇人・中曽根康弘・福田赳夫・宮澤喜一、全部官僚出身の総理大臣だった。宮澤喜一は92年春のメガバンク暴落の時に公的資金を一挙にぶち込んで、今なら8兆円ぐらいで済むと言い出したが、大蔵官僚に止められて実行できなかった。
しかし、彼には全てが判っていた。ただ実行力がなく、中曽根氏の自伝によれば「私と違って蛮勇がなく」実行できなかった。
官僚出身以外でひと仕事したのは、小泉内閣と安倍内閣ぐらいであろう。安倍内閣には色々な問題があり、スキャンダルもあり、副作用もあったけれども、リーマンショックとその後3年続いた民主党の政治不作為時代に経済大国から滑り落ちた日本を再び経済大国の座に戻し、時価総額を3倍近くにして、大いに副作用はあったが金融政策では成功し、金融市場で努力する者は報われた。
官僚出身ではない戦後の名総理と言えば、石橋湛山であろう。湛山は、人道的見地からではなく経済的見地から見て、帝国主義を止めて小日本としてグローバルな通商国家として進むべきだと帝国主義時代に主張した。この言説だけは今でも残っている。但し、病気のために極めて短時間で引退したから、実績は残っていない。せめて石橋湛山賞というものは権威ある賞として残っている程度である。
余談になって恐縮であったが、日本にあるものとすればアメリカ病(その挙句の果てが株も為替もアメリカの写真相場)、それと政治不信であろう。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)当面の市況
(2)決算発表後に急騰した銘柄は概ねが景気敏感株、決算も概ね好調だが、買い手控えの週末
(3)マザーズ市場の不調
(4)先週週初は500円高があり、週末兼月末の500円安を一挙に埋めたが、売買代金が2.4兆円しかなく、もちろん本格的な上昇相場に転じたわけではない
(5)最近の公開株銘柄から資金が流出
(6)高値膠着状態だが、200日線が上値抵抗線化
(7)日経商品指数42種(景気動向指数を構成する景気先行指標の一つ)が1980年以来の最高値
(8)先々週の日経平均、大発会の「里帰り現象」
(9)日経平均7月は1500円幅の大幅安で、1年4ヶ月ぶりの下げ幅となった
(10)上場企業が業績の先行きに自信を持ち始めた
(11)日本国債利回りが0.00%になった
(12)個人のドル買いが5月ぶりの高水準に拡大した
第2部 中長期の見方
(1)エネルギー基本方針
(2)脱炭素ブーム
(3)エネルギー問題
(4)米金利と円ドル為替相場は連動しなくなった
(5)中古マンション価格、2002年の調査開始以来の最高値を2ヶ月連続で更新
(6)続出する大企業の品質検査不正について(異論はおありだろうが、一読願えれば幸いである)
(7)それぞれの国民にとって特有な「恐怖感の伝統」がある
(8)戦後26年間続いた「1ドル365円の固定相場制」が突如変動相場になり、一瞬にして360円が300円になった所謂ニクソンショック、8月15日であれから満50年を迎える
(9)株価の景気先行性が「2/32の例外」を生じた原因についての一考察
(10)嶌信彦通信:2021年8月2日 vol.282
(11)保守と懐古趣味との違いを明確にする


【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
https://amzn.to/2AebYBH
『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
https://amzn.to/2vd0oB4
『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
https://amzn.to/2AeQ7tP
『会社員から大学教授に転身する方法』(電子書籍)
https://amzn.to/2vbXpZm
その他、著書多数。以下よりご覧ください。
https://amzn.to/2va3A0d

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?