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【投機の流儀 セレクション】はた迷惑なTOPIX見直し新指数

金融庁の金融審査会が東証に対してTOPIXを見直して採用銘柄を絞り込んだ新たな指数をつくるように求めるのだそうだ。日経新聞の11月20日号の第1面に4段抜きの記事で出ている。

投資家にとっては大いに迷惑な話しだと思う。過去からの連続性を失う。
株式市場はルーレットやダイスの勝ち負けのような都度々々独立した確率と違って過去を記憶して動く。それがチャートの意味である。長年続いたTOPIXを今から内容を変えろというのは、そのチャートを途中で断ち切ってしまうことになる。

1960年に旧経済企画庁の俊秀たちが景気動向指数を創設した時、景気先行指標として採用したのがTOPIXだった。当時「東証ダウ」と呼ばれていた今の日経平均ではない。TOPIXだった。今からそれを変えろというのは、国の経済指標たる景気動向指数の構成指標の一つが変わる。1960年以来の連続性を失うことになる。

これと似た例では2000年春にITバブルの大天井の頃だったと思うが、その時、日経平均の225銘柄の採用銘柄のうち30銘柄を入れ替えた。オールドエコノミーの銘柄をはずしてIT中心の銘柄を入れた。そのために日経平均は2,000〜3,000円はかさ上げされたと言われていた。

金融庁が求めるのは、現在第一市場の全銘柄を対象に算出したTOPIXを、「時価総額が大きく売買が活発な銘柄に絞って構成し直せ、投資マネーが有力な銘柄に集まるようにやりやすくせよ」という要求らしい。但し、どの銘柄を採用するのか、どういう銘柄をはずすのかということについては時価総額を基準にするか否かということについては一切示さない方向だという。強制的にTOPIXからはずれる銘柄はないという。第一部の全銘柄を対象としてきたTOPIXが一番実態を表している。

筆者は、日経平均はNYダウほどではないけれども人工的なところがかなりあると思っている。昭和40年不況(1965年)のときにテコ入れした線は日経平均(当時は「東証ダウ」)1,200円という線だった。これは池田内閣が所得倍増計画を始めた時の線だからだ。これを「死守」しようとした。このように、当時から日経平均には人工的なところがあった。今は余計にそうだ。経済大国日本の中央銀行が年に6兆円株式投資信託を買い続けるという。6兆円と言えば今は小さいが「1200円死守」の頃の時価総額に概ね近い。

前場でTOPIXが0.5%下がれば後場でETFを買うという、日経平均にはそういう人工的なところがある。日経平均は全銘柄の時価総額の60〜70%を占めるが、それは時価総額で60〜70%というだけであって、銘柄数で言えばわずか225に過ぎない。もっともNYの30銘柄よりは幅は広いけれども、TOPIXは全銘柄だ。

筆者は自分自身のことを述べれば、日経平均よりもTOPIXをむしろ見てきた。投資経験の古い人で「むしろ単純平均を見る」という人もいる。これが実態だからだ。1960年以降、経企庁がつくった景気動向指数の先行指標に組み入れられているのはTOPIXであって日経平均ではない。

ところが、メディアでもヘッジファンドでも対象とするのは日経平均である。したがって筆者も日経平均を中心にして述べてきたが、本当はTOPIXだと思う。現に本稿がダブルトップと言い続けた昨年の1月と10月の2万4000円台も本当は1月の相場の方がTOPIXで言えば高かった。10月天井の方がそれよりも低かった。TOPIXで言えば完全にダブルトップを示唆していたのだと思う。

そのTOPIXを事実上廃止してしまって、新たな指数を組み合わせよと金融庁が東京証券市場に要求するという。東証も当然それに従うであろう。当然に証券会社は以前からの連続性を保つような指数を私的には用意してかかるだろうが、メディアが扱うのは新型指数として既存のTOPIXと分断された指数を扱うようになる。実に迷惑な話しではなかろうか。


【今週号の目次】
第1部 当面の市況
(1)週末の今年最大の大幅高の見方
(2)週末の大幅高をどう見るか?−−−バイイング・クライマックスの様相
(3)「PERの14倍は高すぎるのか割安か
(4)但し、こういうことは重要だ
(5)本稿の昔からの読者で整然たる論客であられる現役投資家「東京のNさん(嘗て「良薬、劇薬、麻薬」の比喩を述べられた人)」との交信
(6)師走相場の諸現象
・ソニーの新高値・市場の生理を知らない日経新聞記者
・外国人投資家の年初来の売買累計額が11月以降に買い越しに転じた
・英国の4兆円大型ファンド「オービス・インベストメント」は日本株の出遅れバリュー株に買いを入れてきた
(7)トランプの「株価操作」
第2部 中長期の見方
(1)米製造業景況感指数(ISM)
(2)「来年の米景気は意外に堅調」か
(3)米国株PERは歴史的な高水準
(4)中長期の見方:既に業績回復を織り込んだか日本株
(5)「伝説のFRB議長」ポール・ボルカーの遺産
(6)「桜を見る会問題」の本質
第3部 はた迷惑なTOPIX見直し新指数

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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