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【投機の流儀 セレクション】高度成長期の終末から終了直後の「一億総中流」という「みんな一緒幻想」が流行った。アメリカはその成功に図に乗って、多くの誤りを地球上で犯してきた。

世間では、これを揶揄して批判的に使っていた。しかし、筆者は当時から「我も彼も皆平等だ」という思いはたとえ幻想にしても、戦後民主主義下で発展した日本経済の成長の輝かしい成果であると思っていた。

ところが、「一億」と付くと概ね良い意味では使われてこなかった歴史が日本にはある。戦時中の「一億火の玉」「一億玉砕」、敗戦の日の玉音放送に対してNHKのアナウンサーが「一億等しく感涙致しました」と言ったりしたことなどである。
筆者は当時小学校2年で「一億等しく感涙〜」という言葉が判らなかったので、母親に訊いたことがある。玉音放送の意味も理解できていなかったから、当然である。

その後は「一億総懺悔」と来た。その後テレビが普及し、大宅壮一が「一億総白痴化」と言い出した(事実として、ある意味では的中している)。
そしてその後が「一億総中流」である。筆者は「一億総中流」は民主主義下で高度成長した日本経済の輝かしい成果であると当時から主張していたし、今でもそう思っているが、これは戦後のGHQが戦前のシステムとの連続性を遮断したからできたことだ。つまり、財閥解体、株式資本は創業者資本による企業支配ではなく、銀行による間接資本で生産させる。そして、日本の高度成長が遂げられた。

もし、創業者の株式資本で生産されていたならば「経営者=企業の所有者=資産家」となり、企業を支配し、経済成長によった株式価値は創業経営者のものになり「一億総中流」にはならなかったと思う。それこそ貧富の差が極端に拡大したと筈だった。戦前と戦後の株式会社のあり方が創業者の資金で調達されるのではなく、銀行によって間接金融で調達されるという戦前と戦後の非連続をGHQがとらせたから「一億総中流」を生んだのだ。
GHQのやり方は何でも批判するのが流行りであるが、この点はGHQ賢明であったと思う。

戦前と戦後の「断絶」(★註)を図った結果である。現在の日本の株式市場は一時的にせよ世界一になり、今でも世界で21位である。何も1位でなくてもいい。それで良いと思う。これは戦前からの非連続をGHQがとらせたからだ。

アメリカがこの成功で図に乗って、朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争・イラク侵攻などとあらゆるところに手を出して、全てに失敗した。筆者がよく言うように「投資家は市場での失敗から学ぶ。成功は毒になることさえある」と言ってきたように、アメリカはまさしくそれである。

日本の民主化と経済大国化に成功したアメリカは調子に乗ってあらゆるところに手を出し、軍産複合体はそこで栄えて、アメリカ経済は潤った。イラクに核兵器と細菌兵器があると断定し、イラクを破壊して国際機関がそれを調べたが、核兵器も細菌兵器もなかった。それでもアメリカの破壊行為が黙認されているのは、アメリカはロシアと違って、朝鮮にもベトナムにもイラクにも湾岸にも領土的野心がないからという一点に尽きる。

フセインの下で収まっていた連中がアメリカで破壊されて、ならず者と化して、テロを誘発させた。テロは「国権の発動(日本国憲法の第9条の言葉)としての戦争」ではないから「犯罪」である。犯罪を取り締まるのは本来FBIの務めであるが、アメリカがこれに対して軍事力をふんだんに使って、軍産複合体を潤したアメリカほど悪い国はない。

ところが、アメリカの世紀は少なくても半世紀やその辺は必ず続くであろう。大国の衰亡は主として経済要因から来る。このことは古代ローマ以来、例外がない。アメリカにはそれがないからだ。そしてヒラリー・クリントンが使ったところの「ソフトパワー」を持って、それでリードしているからだ。したがって、アメリカの世紀は続くと見た方が良い。アンチ米国という見方からは、株式市場での利益は得られないだろう。

(★註)高度成長期の中頃「断絶の時代」というP.F.ドラッカーの著書が大流行した。これの原題は「The age of discontinuity」であり、つまり「非連続性の時代」であったが、訳者が「断絶の時代」と訳したことによって強烈なイメージを与えたために、大いに流行ったという結果である。内容はたいした話しではない。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)市況コメント
(2)日・欧・米が揃って、29日(火)〜30日(水)に25日移動平均線を抜いた。
(3)「冴えない8月」「夏枯れの8月」「甲子園野球が始まったら株はあかん」─正確な満月の夜を以て、8月の終わり
(4)小型株指数が算出開始以来の最高値を8月29日(火)に付けた。
(5)小幅なボックス相場は近日中に調整に入ろうが、長期的に見ればバイ&ホールドの場面
(6)再び、決算相場が来るか?
(7)「ぶりぶり高値」の銘柄が相次ぐ。
(8)米FRBは利上げを継続する構えを見せ、欧州ECBは利上げを止める。
(9)実効為替レートたる「円の実力」が53年ぶりの低水準
(10)「使う力」と「値上げする力」

第2部;中長期の見方
(1)「岸田首相に迫る『野党転落』の現実味」
(2)米経済のソフトランディングは有り得るのか?
(3)適度なインフレとそれを上回る賃上げの継続、これが市場経済の成長の姿だ。
(4)ジャクソンホール会議で、パウエル議長はインフレ抑制への金融引き締めを続ける考えを強調
(5)本格的な金融政策修正はいつになるのか? 
(6)ESGを揶揄したが・・・
(7)高度成長期の終末から終了直後の「一億総中流」という「みんな一緒幻想」が流行った。アメリカはその成功に図に乗って、多くの誤りを地球上で犯してきた。
(8)日銀の人事に異変
(9)色々なところに火が点くという、日本の未来は大変明るい。
(10)今年3月、上場企業への東証の要請は効いた。
(11)進取の精神も、巨大なGPIFの一部にあって良いと思う。
(12)小池百合子東京都知事が17年に策定した「国際金融都市・東京」は構想倒れ

第3部;半導体企業の今日までの経緯
(1)半導体の歴史の主な出来事
(2)半導体大国を築いた日本の当時の経緯と最近の台湾
(3)日本半導体産業の復権とは何か?TSMCが世界的な企業として躍進する契機
(4)半導体業者の主役交代

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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