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【投機の流儀 セレクション】日本は「豊か」か?

平成になって30年、実質GDPは16%増えているにも拘わらず、国民の可処分所得は下がり続けている。ではGDPの成長分はどこへ行ったのか?
70歳以上が総人口比22%になるという。70歳以上も働く場を拡大推進しようという意見は実際には「食っていけないから」である。世界の中で時給が下がってきたのは先進国では日本だけだ。バブルのお裾分けが少々残っていたから「豊か」に見えるが、実際にはそうではないと思う。ジム・ロジャース著「日本への警告」によれば、日本がジリ貧となる主因は少子高齢化であるとしている。

日本人の実質的可処分所得(物価変動の影響を除く)は1997年に大天井を打った。そう、日本の金融危機の年であった。そして2015年までに5%下落している。日本で問題になっているのは米国の格差問題とは違う。米国では上位0.1%の超富裕層の所得が増え続けている。

日本にはそういうことはなく、問題は、国民全体の所得が下がり続けているということだ。実質可処分所得は97年に天井を打って、2015年までに5%下降したその間、下位20%の低所得層の所得は10%近く落ち込んだ。そして上位20%富裕層の所得も6%落ち込んだ。アメリカのように格差が激しくなっているわけではなく、全体が落ち込んでいる。

日本の上位20%と下位20%の所得ギャップは20年前と現在とではほとんど変わっていない。上位20%と下位20%の所得格差は4.5倍前後である。20年前も今も4.5倍前後である。日本の貧困層がさらに貧しくなっているのは、平均的日本人全体が貧しくなっているからである。格差を縮ませることが良いので決してはない。全体的に収入が落ち込まないことが良いことなのだ。サッチャーが言った通り「金持ちを貧乏にしたからといって貧乏人が金持ちになるわけではない」の通りである。

平成になって30年、現在の株価は平成初年の最高値の60%にも満たない。しかし、妙なことに実質GDPは16%増えている。それなりに国民の可処分所得は下がり続けている。これは政策の問題である。GDPの成長分はどこへ行ったかと言えば、大半が企業の内部留保になっているのであろう。

日本企業は賃金アップや配当アップや設備投資に資金を使わず、内部留保をせっせと積み上げてきて、今は時価総額の70%以上に相当する400数十兆円が内部留保となっている。法人が持っている金融資産は1997年の金融危機の時にはGDPの130%だったが、現在では215%にまで増えている。内部留保としての利益剰余金は、一昨年、昨年は40兆円ずつ増えた。

そこで一部の経済学者や「モノ言う株主」が提唱しているのは内部留保に課税することだ。韓国は既に内部留保課税を導入した。これを研究すべきではないだろうか。
The Oriental Economist Reportのリチャード・カッツ氏も「韓国の内部留保課税の導入の効果は未知数だが日本でも経済の歪みを正すのに役立つかもしれないから財務省は研究すべきだ」と言っている(週刊東洋経済誌11月2日号)。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)昔から言われてきた「両建て両裂き」
(2)中小型株の短期売買でトル方法が一部に流行った
(3)「年末ラリー」が始まっても資産バブルを旨く売り抜けることが短期投資の前提となろう
(4)「流動性相場の延長戦」「待ち受けるハードルは低くない」
(5)財政出動で短期的な株高を期待する向きが出てきている
(6)「緩和期待」に対する日銀の苦慮
(7)「ぶり、ぶり」が続く相場の顔
(8)目先の円ドル相場
(9)先々週から先週火曜までの上昇は売り方の買い戻しを主力とする指数先行型であったが、底流には日米の企業業績の底入れがある
第2部 中長期の見方
(1)来年3月末までに2万4000円説が半分
(2)ふたたびNT倍率について
(3)「5月には売れ、9月中に市場に戻れ」
(4)トランプ大統領弾劾調査を正式に開始
(5)財政出動、「バラマキ」、「国土強靭化政策」
(6)量的緩和と財政出動
(7)「トランプ再選なければ景気後退で不況になる」(出所:ダウ・ジョーンズ、2019年10月26日)
(8)日本はかつての大英帝国のように投資立国に変化している?
(9)製造業と非製造業との乖離、及び景気実態と株価との乖離
(10)マイナス金利という異常状態
(11)安倍首相のイラン仲裁外交は残念ながら失敗に終わるだろう
(12)鬼面人を驚かして本を売るというビジネスモデル
(13)日韓関係は最悪の状態である
第3部 日韓関係について嶌信彦氏の意見、及び米政局についてダウ・ジョーンズ紙の意見
(1)ジャーナリスト嶌信彦通信:2019年10月25日vol.178
(2)米金融界が案じるウォーレン氏躍進、無力感も(出所:ダウ・ジョーンズ、2019年10月25日)
第4部 日本は「豊か」か?
第5部 中長期の課題─日本で最大の成長産業である農業(酪農を含む)について
(1)日本で最大の成長産業である農業(酪農を含む)について再び述べる
(2)世界に通用する日本の農産物ブランド
(3)日米貿易協定における農業の見方


【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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