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【投機の流儀 セレクション】現状の株式相場の三大問題

言わずと知れた、①FRBの利上げと量的引き締め(QT)、②ウクライナ戦線、③コロナ、ということになろう。これについて簡潔にまとめたい。
FRBの利上げと量的引き締め。これについては本稿6月5日号第1部(10)「米利上げと株式相場について考える」で考え方を略述したので本稿では割愛する。
ウクライナ問題について。これは「米国の軍産複合体による創出の面が強い。ウクライナ戦で巨大利益を得ているのは米国である。米国が意図的に誘発した戦争だと言える」これは植草一秀氏の見方である(スリーネイションズリサーチ5月30日号、397号)。何事にも陰謀論が好きな連中はいる。聞いてみると一部はもっともな面もあるし納得する点もあるが全部を信じるわけにはいかない。M資金の話しと同じである。一部は事実であるから信用したがる。
次にコロナ問題である。これについても、何事にも反権威・反政府で一貫している植草一秀氏は「コロナはワクチン利権のために創作された大騒動だった」と断定している(前掲誌)。6月4日に筆者は新宿駅前で「マスクをはずそう」と訴えて街頭演説している一団を見た。20人ぐらいの連中が「マスクをはずそう」と呼びかけてチラシを配っていた。 そして「ワクチンは政府の虚構である」というたすきを掛けていた。そういう演説には筆者は興味本位でチラシをもらって読んではみるが、この場合はそういうことを主張する連中の配るビラであるから菌が付着しているかもしれないと思ってビラはもらわなかった。コロナはワクチン利権のための政府の虚構であるという話しは別としてワクチン騒動は市場はこれを2年半かかって乗り越えてきた。20年3月19日の1万6500円の大底から21年9月の3万700円の大天井まで存分に相場に織り込んだ。したがって、「無い」と同じである。
問題は②のウクライナ侵攻であるが、これは日本に直接の経済的影響を及ぼす。「戦争とは外交以外の手段で行う政治の遂行である」という定義からすれば「経済制裁も当然戦争に参加していることになる」ということになり、経済制裁は制裁を加える側に対しても被害が及ぶ。まさしく日本がその一部を被っている。したがって、ウクライナ問題は経済の実勢として影響は出てくる。

これについては、プーチンに面子を保たせながら、一方で「ユダヤ人の知恵とコサック騎兵隊の武闘の気質を持ったウクライナ国民」が「戦争に勝った経験のないロシア軍」に対する意思をどこまで通すかという問題である。
中国はもちろん仲裁には入らない。トルコのエルドアン大統領の仲裁は効き目はない。
元々日本の5分の1もない経済小国であったロシアは経済制裁でますます痛めつけられる。これに対してプーチンは「参った」とは言わない。なんとか面目を保ちながら撤退する方法があればそれを選ぶ可能性はある。ウクライナ側にもそれはある。しかし、これは今のところ予想できない。 市場は15年続いたベトナム戦争と同様に長く続くとそれを消化してしまう強さを持っている。ウクライナ侵攻についてもそれに伴う経済的な実勢悪についても証券市場は消化しつつあるように思う。

そうなると、この①②③の三つの外部要因がマーケットで消化されるとどういうことになるか。日本株の相対的割安感が目立つことになる。
また、円安から見ればドル換算した日本株は海外から見ると非常に安く見える。元々PBR・PER・利回りから見て割安だった日本株が今の円安によって海外からは余計に割安に見える。
植草一秀氏の前掲誌を引用すると日経平均の推移は「2015年~2016年、2016年~2019年の推移と類似性があると指摘し、「21年~22年の推移も類似している可能性があると判断している」と前掲誌で述べている。筆者の推測では、彼は自分でポジションを組んでいるかどうか判らない。第三者的な立場で評論しているのかもしれない。そういう雰囲気が見える。その立場もまた大いに参考にはするし、市場における一つの現象としては見る。

三大リスクが緩やかに縮小し市場がそれを消化しつつある現在、株式市場は日本株の割安感に拡大鏡が当てられる可能性があり得る。日銀短観の3月調査は日本企業の業況判断が先行して先行き悪化することを示したが、これはコロナ感染拡大があったからであり、この影響は縮小しつつある。日本株は前掲の三つの外部要因がリスクとされているが、市場はこれを徐々に消化しつつあるから、そこで本来のファンダメンタルな面に目を付ければPER・PER・利回りの三点から見て世界先進諸国から見て割安だという理屈になる。

また、1ドル110円から見れば130円台の現在では海外から見れば余計に割安に見える。円安のボトムが認識されれば円資産への海外投資家の資金流入が加速するということも考えられる。
日本銀行が世界の利上げの中で孤立して早急に利上げすれば景気を破壊する恐れがあるとして金融緩和を堅持しているこの苦境によりおそらく日銀内部でも問題は起こっているだろうし、黒田総裁の求心力も喪失しつつあるのかもしれない。アベノミクスの大相場を創出する力があった日銀がこういう状態に陥っていることは日本市場にとってマイナスではある。但し、アメリカのインフレも金融証券市場では段々消化し始めたと思う。そうなるとドルが反転する可能性もないことはない。円ドル相場が「購買力から見れば事実上ニクソンショックと同じレベルで50年前の相場だ」と言われていること自体がそろそろ大底に近いということかもしれない。
大底に近い時や大天井に近いときは極論が出るものだ。そしてそれがもっともらしい理論付けがされて受け入れられることが多い。その時にこそ用心すべきであろう。ファンダメンタルな指標から見て割安の日本株に対して円ドル相場から見て余計に割安になった日本に対し、逆張りの発想で海外資金の流入によってこれが大きく振り子のように極論から極論へと動く可能性もないことはない。この点に前向きな用心をしながら現在の市場に臨みたい。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)週明けは売り先行で安く始まろう
(2)5連騰分の半分を一日で消した週末
(3)年初来高値が157銘柄出た
(4)日経平均25日移動平均からの上方乖離が2ヶ月ぶりの高水準だたったところで調整に入った
(5)QUICKが5月31日~6月2日、機関投資家207人を対象とした調査
(6)現状の株式相場の三大問題
(7)米市場と日本市場の概観
(8)1ドル135円台の時代に入ったのか
(9)短期での売り買いを奨めるわけではないが……
第2部 中長期の見方
(1)「30年間のデフレ時代」を抜けられるか、株価がそれを示すであろう
(2)いよいよ「脱デフレ期待」か?
(3)こういう時の為政者のあり方
(4)インフレと金利据え置きの狭間に立つ日銀の苦境――「英雄の末路哀れむべし」
(5)「所謂MMTに原則賛成だ。財政破綻などない」と書いたり語ってきたが、敢えて微調整を加える
(6)「外交の岸田、面目躍如」
(7)株式市場は不確実性を嫌うが、それが晴れてゆくと却って好材料化する
(8)米インフレはピークアウトした可能性あり
(9)OPECは原油増産拡大で合意
第3部 プーチンの支持率と今後の問題
(1)プーチンがロシア国内で支持率が高い理由と今後の見通し
(2)ウクライナ侵攻に関するH.キッシンジャーとジョージ・ソロス(二人ともウクライナ首相と同じくユダヤ人)

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
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