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【投機の流儀 セレクション】首相の愚策──英国政権の愚策を学んでいなかった? 標榜する政策を力強く説明できてない

国の一般会計の税収が昨年度の71兆円を超えて、過去最高を更新した。これを背景に、この税収増を「国民に還元する」という言い分で所得税減税を掲げた。そして、その本意は「デフレからの完全脱却を成し遂げるため」と謳った。この謳い方はなかなかいい。
ところが、やったこと自体は人をバカにした愚策であり、もうちょっと褒めた言い方で言えば歴史に学んでいなかった。経済対策ではなく、選挙対策だと見透かされるがオチだ。このぐらいのイロハのイが分からなかったのだろうか?

現にイギリスのトラス政権は、財政の裏付けのないまま歳出拡大や減税を拡張→財政赤字への懸念→金利急騰→ポンド急落→市場混乱→慌てて政策変更→事態は収まらず、トラス首相は辞任に追い込まれた。この事実は最近の話しだ。歴史に学ぶというほどの大袈裟な問題ではない。目の前で英国がやって見せた失敗策だ。これを岸田首相は無視した。

岸田首相の言い分は「確実に可処分所得を伸ばして、消費拡大につなげて、好循環を実現する。そして完全なデフレ脱却を図る」と言う。この言い分は全く正しい。
しかし、だからと言って財源のない一時的なわずかな減税をすることで国民は喜ぶと思っていたのだろうか?これが選挙対策になると思っていたのだろうか?もう少々マシなことを考えると思っていたが、相次ぐ不祥事で精神の安定性を欠いていたのであろう。だからと言って、同情を受ける立場ではない。筆者がここで文句を言ってみたところで始まらない。それはメディアの大騒ぎに悪乗りするようなものである。

何故、このようなバカげたことをやったのかということが筆者は気になる。岸田首相は相次ぐ不祥事で一時的な精神攪乱をしたのであろうとしか思えない。早く精神衛生を回復させて、本来の「新しい資本主義」「成長と分配の好循環」と標榜したことを進めるべきだ。それは一見チマチマとした話しであるが、大いに「新しい資本主義」に向かっている。

1.新NISAがそうだ。

2.東証の上場企業への財務改善の提言もそうだ。

3.連合と打ち合わせて、来春の「春闘」も「『今春の30年ぶりの賃上げ』を続けたい」という意向も目的に沿ってはいる(来春の「春闘」は期待に値しないことになる恐れがある。「連合」には下から突き上げる昔の「総評」のような力が全くないのがその一つの原因)。

4.「貯蓄から投資へ」という岸田政権の言い分は「賃上げするためには生産性向上が必要だ。そのためには労働者1人当たりの資本準備率の充実が必要だ。設備投資が必要だし、研究投資も必要だ。だから、そのために『貯蓄から投資へ』が必要だ。NISAはそのために生かそう」という一連の思考経路の全くの正しさを説明来ていないし、力も弱い。

選挙目当てに発作的に変なことをやるのは、誠に幼稚でさえある。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)市況コメント
(2)東京市場の7割を占める海外勢の動き
(3)植田総裁の「チャレンジング・ショック」
(4)市場に金は蠢いていて、買い気は強い。
(5)市場模様の一部を写した東電株
(6)米利上げが終結し、欧州中銀も据え置き
(7)円ドル為替相場と日本株市況
(8)円急騰が日本株を直撃した。
(9)投資家の不安心理は改善するも、海外投資家にとっては相対的な政治の安定さが日本株の
買い材料の一つであったが・・・
(10)FRBの利下げが強まり、日米の利幅が縮小するだろうということでドルが売られて、円が買われた。
(11)首相の愚策──英国政権の愚策を学んでいなかった? 標榜する政策を力強く説明できてない
(12)外需株と内需株の動向

第2部;中長期の見方
(1)円高方向へ転換か?
(2)「程良いインフレ」と「それを上回る賃金上昇」、この両方がなければ「成長と分配の好循環」は成り立たない。したがって、岸田政権が標榜する「新しい資本主義」は成り立たない。
(3)「メガトレンドの変化」は具体的にどう表れるか?
(4)米、大幅利下げに動くとの観測はひとまず後退
(5)ウォール街の株式予想(12月12日 森崇氏)
(6)岸田政権の支持率低下が止まらない。
(7)10年間、力投した黒田日銀が遂に「2%インフレ目標」を果たせなかった。これを退任
後、黒田元総裁は「デフレマインドという『ノルム』にあった」と言った。
(8)日銀、マイナス金利解除の準備開始
(9)「長期では強気」の根拠と本稿が述べてきたその根拠

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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