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隣の家は騒々しい

あぁ、人生ってなんて残酷なんだ。


まだ片付かない部屋を眺めて
ふと、そう思う。


三年も付き合っていた女に振られ

多分、俺が死ぬとしたら
今なんだろうなって思う。


引っ越してきたばかりの部屋で
そんなことを考えていた。


ため息をついて

冷蔵庫からビールを出す。


それくらいしか思い付かない。

そんな俺も嫌だ。


『私、あなたの愚痴聞くために
付き合ってる訳じゃない!!』


彼女はそう怒って
出て行ってしまった。


『もう出ていく』
と、言われたあの日は
いつもの狂言だと思ったが

どうやら違ったらしい。


あの、膝から力が抜ける感覚は
今でも鮮明だ。


気分転換に引っ越しでも、と
会社の同僚に薦められ
引っ越したは良いものの

特にコレと言って
変化は見られない。


あれから二週間も経ったのに
俺の時間は止まっている。


そんなことを考えて
二本目のビールを取った時。


ガンッ!!ドンッ!!とゆう
大きな音が外から聞こえてきた。


ビックリしたが、
酔っ払いでも帰ったのだろう、と

リビングに戻りかけた直後。


「うわぁー!!」


とゆう、男の叫び声。


さすがに何かあったのでは、と

鼓動高鳴る胸を抑え
再びリビングに戻りかける。


しかし。


「助けてー!!」


その叫びを聞いた瞬間。


反射的に
扉を開けてしまった。


廊下には金髪の少年に

背の高めの
茶髪がかった短髪の少年が跨がり

それを止めようとする
色の白い青年。

その隣にはその様子を
楽しそうに見ている
黒髪の整った顔立ちの青年と

呆れた表情の、タンクトップの青年。


計五人の若者が

俺の家の前にいた。


「泰睦、やめろっ!!」

「もう男でも良い。
フミくんなら抱ける。」

「ふざけんな!!助けてっ!!

俺、泰睦に襲われる!!」

「大丈夫だ、フミ。
泰睦なら優しくしてくれる。」

「?!流星のバカッ!!

伊達、早く!!」

「泰睦、やめとけ。」

「うるさい、とも兄。
俺はもう限界なんだ」

「フミ、騒ぎすぎんな。外だぞ。」

「なんで野上はそんなに冷静なんだよ?!

俺が可哀相じゃねーのかよっ!!」


「…あの、」


俺が口を開いた直後

五人の視線が俺に集中する。 


その後、色白の青年は
慌てるように茶髪の少年を叩いた。


「あ、うるさくして、ごめんなさい。」


金髪の少年も立ち上がり
申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、それは良いんだけど…。

…大丈夫ですか…??」


俺の言葉に五人は激しく頷く。


「ご心配おかけして
本当、すみません。」


茶髪の少年は
先程までの勢いを失い
かなり丁重に頭を下げてきた。

「フミくんも、
ちゃんと謝りな。」

「ごめんなさい…、って!!

俺は怒って当然だろーがっ!!」


しかし、そう言った少年の頭を
黒髪の青年が軽く叩くと
黙って再び頭を下げる。


「いや、全然良いですよ、本当。
何もなくて良かったです。」


俺は無心でそう答えると
五人は本気で頭を下げ

「申し訳ありませんでした!!」

と、タンクトップの青年が
これまた大きな声で言う。


そしてぞろぞろと
部屋に戻って行った。


俺も扉を閉めかけたその時。

「あ、」

と、タンクトップの青年が言う。


「そういえば、初めまして!!

隣の302の、野上です!!

これからよろしくお願いします!!」

なぜだかはよく分からないが。


「…301に越してきた、井上です。」


なんだか空の月が
少し明るくなった気がした。



隣の家は騒々しい







**

「…なぁ、野上。」

「なんだよ??」

「俺は伊達なんだけど。」

「あぁ、だな。

今度改めて、
挨拶ついでに謝罪に行くか。」






2011.06.09
【hakusei】サマ
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「そういえば、はじめまして」 

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