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その男、長男につき

営業の外回りの休憩だかなんだか知らないが、
泰睦は俺達の家に来て
買ってきたプリンを食べる。

「てゆうかさあ。
俺は一体、何人の甥っ子と姪っ子を持てばいいわけ。」


来月一歳になる和奏(わかな)を見て、そう呟いた。

「やすちか、プリンくださーい」

長女の楓香(ふうか)は笑いながら泰睦の隣に座り
ニコニコ笑って泰睦のネクタイを引っ張ると
泰睦は自分の食べていたプリンを渡した。

「桜さんは?」

「今日は会社行ったけど」

「え?!なんで?!
育休中だし、どうせすぐ産休に入るじゃん!」

「その届けとかを出しに行ってるんだってよ。
メールか電話でも良いんだけど、気が済まないって」

「ひぇー。
相変わらず律儀だねー。」


そんな話をしていると、インターホンが鳴った。
カメラを見ると流香が俺に手を振っている。

そして玄関を開き、泰睦の靴を見ると
「うーわ、やすちかいるじゃん!」と
嬉しいんだか嫌なんだか、分からない声を出した。


「なんだよ。居たら悪い?」

「別に悪くないけど。
あれ、さーちゃんは?」

「会社行ってるんだって」

「えー?!なんで?あ、産休また取らなきゃいけないから?
わざわざ律儀だねー。
そういえば泰睦、今年も会社で賞取ったらしいね。
流星に聞いたよ、おめでとー。」

「えー。俺、先輩に言ったっけ?」

「インスタ見たんだってさ。
私も見せてもらったけど、めっちゃイケメンに撮れてたねー。
泰睦の肩組んでた隣に立ってる女の人は性格悪そうで無理だったけど」


流香はペラペラと喋りながら
泰睦の食べ終わったプリンを片付ける。
泰睦もそれを手伝いながら、流香に携帯を見せて
「この人?」と聞くと
「それそれ!この写真の泰睦、ともくんに似ててサイコー」と言いながら
俺が昼食べた食事の皿もついでに片付けてくれた。


「流香、ありがとな。」

「ともくんの為なら、るかはいつだって駆けつけるよ」

さらっとそう言った流香の頭を撫でると
流香はニコリと笑いながら俺のシャツをただした。
そして、俺に抱きつく。

「次のオンライン会議って、毎週やってるやつでしょ?
がんばってね、ともくん」


そう言って、俺が前日買っておいたレッドブルを俺の隣に置いた。


「…何度見ても、とも兄が浮気してる様にしか見えない」

「俺もお前と流香が16も離れてる様には見えない」


流香はニコニコしながら俺たちの顔を見比べた。


「つーか、流香はなんで俺が来るたびにいるの?」

「それは山本家の皆んなが大好きだからだよ。
ともくんは仕事在宅にしてるけど、すぐ部屋が散らかったり物がなくなるし
さーちゃんは子育て大変で、3人目のツワリもそろそろ重くなってくるし。

子どもとさーちゃんのために、在宅にしてたり
女姉妹のさーちゃんの家族のために自分が苗字を変えたともくんが
心の底から大好きだから、会いたくなっちゃうんだよ。」


ねー、と言いながら俺の腕を組む。
「るかちゃん、あそぼー」と言った楓香に頷き
俺たちに手を振る。


「流香って本当にとも兄一筋だよねぇ。」

「あいつだけだよ、俺にずっと優しいのは」


俺は、山本朝長になった。


俺の家族は全員男だったし
「伊達」という苗字にこだわりもなかった。

山本には別に何も言われなかったし、どっちでも良さそうだったけど
どっちでも良いなら、俺が苗字を変えよう、と。


俺が苗字を変えるって話をした時に、
誰よりも喜んだのは流香だった。


「ともくん、超最先端!!!
そういうところがほんっとに好き!!!」


流香は当然のように、山本にも懐いてるため
週に3回くらい、俺の家に来る。
まあ、俺たちの家が流香の小学校のすぐ側っていうのも理由の一つだ。


和奏がてちてち、と俺の方に来る。
俺は抱きかかえる。
泰睦がそんな俺を見て、感心したように息をついた。


「俺は家にいて、子供の面倒見るのは無理だわ。
仕事しながらなんて、絶対無理。」

「和奏も楓香も、良い子だからだよ。
流香はよく泣いたし、寝ないし、体も弱くて
手のかかる子だった。」


「そういうことじゃないんだけどな」


泰睦はハイブランドのスーツのジャケットを着直す。


「まあ、甥っ子と姪っ子多い方が俺も稼ぎがいあるしなあ。」


鞄の中から綺麗に包装された箱を取り出して
和奏を抱えて楓香のいる部屋に向かう泰睦も
俺からしたら、今でも可愛い。


その男、長男につき


**

「ひゃー!!!!
やすちか、ありがとう!!!!」

「あがとー」

楓香と和奏が俺のプレゼントを嬉しそうに開ける。

「どーせいると思ったから、流香にも。」

意外そうに顔をあげる流香。
そして、めちゃくちゃ喜ぶ。
その笑顔が正直本当に可愛い。

同期がキャバ嬢に貢ぐのと同じくらい
俺は姪っ子(と流香)に貢いでいる気がする。


「あ、そろそろ15:30だ。いくよ、楓香!」

楓香の腕を掴む流香を俺が不思議そうに見つめると
流香は結んでいた髪の毛を解きながら俺に説明する。


「15:00からの会議の中に、ともくんを虐める嫌な上司がいるんだよ。
でも、その人子供が好きだから、何も知らないふりして横切ると
ともくんを虐めるのを一回やめるの。」

「…お前は絶対、とも兄には勿体無いよ」



2021.06.02

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