見出し画像

今思えば別れの写真だった


正月が明けて、少し経って

予備校の階段を降りると

冴島が耳あてと手袋をし、
俺の自転車の荷台に
白いコートを着て座っている。


前には知らない男。


「おい。」


俺が声をかけると

悪気もなく手を振る冴島。


「いずみー。」


前にいた男は少し驚く。


「何してんだよ。」

「彼氏待ってて、暇だったから
話しかけてきた男と話してた。」

「そーゆうの世間では
ナンパって言うんだよ。」


南堵高校の制服を着たそいつは
少し気まずそうに俺を見る。


「ほら、行くぞ。」

「はーい。
じゃーね、南堵の坊ちゃん。」


ポカンとしてるその男を尻目に
俺はペダルをこぐ。


「あのさー、いずみー。」

「なに??」


信号で止まると
俺の腰に腕を回す。


「プリクラ撮ろ。」


冴島の甘い声は

それなりに可愛い。


「プリクラぁー??」

「嫌なら良いけど。」

「まぁ、べつに良いけどよ。」


ハンドルを、我ながら器用に回し
ゲーセンに向かう。


「プリクラとか撮る??」

「いや、滅多に。」


ふーん、と興味なさ気に言って
俺の自転車から降りる。


「ありがと。」


珍しく真面目にお礼言われて
なんか、気味悪い。


「お前にありがとう、とか言われると
なんか、吐きそう。」

「ひどっ!!」


ハハ、と笑って

狭い機械の中に入って
お金を入れる。


「あ、俺、金ない。」

「えー、サイテー。貢がせる気ー??」


ブツブツ言いながらも
四百円出した冴島。


「美白にしたい??」

「どーでも良い。」


真ん中のオススメを押して

画面はフレーム選択に移る。


「和泉も選んで!!」


そのフレーム選択は

正直、楽しい。


『仲良く、くっついちゃおう!!』


プリクラの機械がなんか、
ポーズの取り方を紹介してくれた。


「だって、和泉。」

「いや、べつにこれ
言うこと聞かなくっても…、」


冴島は俺の手を握り

笑顔でピースする。


『二人でハートを作っちゃおう!!』

「だってさ!!」


逆らうのも面倒で

言われた通り行動する。


そして、三枚目になった時。


「ねぇ、いずみ、」

「あ??」


振り向くと、

唇を重ねられて。


フラッシュがたかれる。


「なに…?!何してんのっ?!」

「チュープリ。」


淡々とそう言って

もう一度唇を重ねる。


あ、俺からだったかも。


深くキスするとまた、

フラッシュがたかれて。


「…ここでシちゃう??」

「それはダメだろ。」


残りの3つのフラッシュは
正直、意識してなかった。


「度胸ナシ。」

「度胸関係ねーから。」


落書きは全部冴島に任せ

俺はゲームで遊んでた。


「とれたよー。」


プリクラの半分を

俺にハイ、と渡して来る。


「プリ画、送るね。」

「えっ?!
これを持ち歩くのかよ?!」

「じゃあ、最初の
まともなのだけにしとく??」


少し悩んでから

携帯を赤外線モードにする。


「全部送って。」


その二日後にあいつは
アメリカに帰ってしまった。



今思えば
別れの写真だった







**


だから、下心とかじゃなくて

あのプリクラは全部貰っといて
ホント、良かったな。


帰ってきてからもまぁ、

どーせ、撮るけどな。






2011.04.05

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?