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君を知る人こそ、君を語らない


流星の過去を書かれた記事を読んで

思わず手が震えて

スマホを投げようとした俺の手を
美波が優しく握って止めた。


「優二。らしくない」


俺は小さく頷いて無理やり笑って、

だけど、気持ちが落ち着かなかった。


四谷流星は遊び人で

女を抱いては捨ててた外道で

態度の悪いゴミ人間で

彼女を放って、女遊びする。


そんな流星を俺は知らない。


たしかに流星は昔、やんちゃしてたよな。
それで俺たち、喧嘩したこともあった。

お前の過去のせいで
傷ついた子も、見たことあったよ。

人見知りで自分勝手なお前のせいを
叱ったこともなん度もあったよな。

淳士やフミや泰睦みたいな
女好きとばっかりつるむから
好きでもないキャバクラに行ったりしてさ。


それってたしかに間違ってたけど

流星のことなにも知らないくせに。


「…みなみ、」

「…ん?」


「ここに書いてある流星と、

俺の知ってる流星、


どっちがほんとでも良いけど

俺はどっちの流星も好きだ」


なくな、俺。
流星がむかし、言っただろ。


野上は何も考えなくていい、って。

おれ、だからさ、


何も考えないよ。


「…なにも考えないから聞く。
この記事書いたやつ誰だ」

「いや、優二…。
それはなにか考えてる人の発言だからね」


笑ってる美波の手も震えている。
怒ってるんだよな、分かるよ。


俺も初めて、流星の過去を知った時、怒ったし。
…いや、俺は怒ってないな。

でも、傷ついた人がいるのは、しったよ。

それを後悔してる流星も見たよ。


そうか。

俺の知らない流星に傷つけられてた人が
この世には、まだまだいたのか。

じゃあこれは、真っ当な罰か?
流星に与えられた、ばつなのか。

それは許せないな。


でも許せないのは

俺が流星を知ってるからなのか。


「…優二、電話。」

「だれ?」

「…知らない番号。」


出たら、真っ先に
明るい声で聞かれた。


「もしもし、四谷流星さんの
高校時代のお知り合いですよね?

今回の報道の内容に関しては知ってましたか?」


知ってたのかな、俺は。


流星の過去、挫折、苦悩。

しってるのかな。


「しってました。」

「知った時、どう思われました?」


殴ったよ。ふざけんなって思ったよ。
最低だと思ったし、むかついたよ。

それって

他人に言うことか?


「…すみません、お聞きしても良いですか?」

「え?」


「流星のなにを知ってますか?」


流星の両親?流星の抱いた女の子?
流星の過去?

俺は知らないよ、知ろうとしなかったよ。
知った時はいつも怒ってたよ。


でも俺の知ってる流星は

いつもそれを

悔やんでたよ。


「四谷流星は最低ですよー。
抱いた女の子の人数も、噂も、
仕事中の態度も。

みんないってます。」


「みんなって誰ですか」


俺は違うぞ、流星。


「…いや、みんなです」

「少なくとも俺は流星を大好きですが。

みんな、ではないってことですよね。」


お前がたとえ最低でも

俺はお前の隣で
お前の後ろで、お前の前で、

ずっと笑ってるって覚えていてくれ。


君を知る人こそ、君を語らない




**

切ったスマホを投げた俺を見て
美波は安心したように笑った。

「どうした?」

美波な黙って首だけ振った後、
俺を抱きしめて

声を出して泣いた。



2021.12.15

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