■ハッピーリタイア支援法(通称ナリタ自決法)

 これまでは80歳をすぎても年金はふつうにもらえていた。
 けれど、高齢者になれば生活も縮小するし、食も細るだろう、たいして金も使わないだろう、というので年金受給から除外されることになった。かわりに国が生活を管理する。必要な支出はお世話係が一人ひとりの高齢者の実情に合わせて支出する。いわば国が成人後見人になって面倒を見てくれるわけだ。もっとも支出には上限があり、歳が増すにつれて天井が低くなる。
 また75歳以上の高齢者は先住民として居留地に移住することになる。居留地の多くが原発廃棄物埋蔵地に重なっている点はやや不安だが、自然ゆたかなガーデンシティを標榜している。
 ただし特例が制定された。ハッピーリタイア制度だ。
「80歳の誕生日から三年間、最高の老後をお約束します」
 ハッピーリタイア申請をすれば、80歳からの三年間は最高の待遇が受けられる。ハッピー・リタイア・ボーナスが支給される。「気分はセレブ」がキャッチフレーズで、支給は現役就業者の平均賃金なみだ。ハッピーリタイア・コンシェルジュが一人ひとりのすてきな毎日をお世話してくれる。コンシェルジュといってもその実、介護サービスのケースワーカーが兼務だが、スマイルの含有量は多い。
 海外旅行もできる。豪華客船でのクルージングも可能だ。専用のハッピーリタイア・クルーズ船の利用がおすすめだ。ダイアモンド・パトリアーク号やサンセット・カーニバル号などの専用船であれば、オーバーエイティのための最高度のホスピタリティが期待できる。
「世界中の名勝をめぐって感動の落日を体験できる」サンセット・クルージングでは、クルーズの最終日とハーピーリタイアの最終日をぴたりと合わせてもらえる。キャプテンを始めとするクルーズが整列し、弔砲とともに水葬に付してもらうことも可能だ。最近では墓に入っても後々お参りも期待できないので、クルーズで一気に始末をつけてもらおうと考える人も多くなった。ハッピーリタイア・クルーズの専用船にはいずれもクロージングルームが設けられている。とくにサンセット・カーニバル号のクロージングルームは、フェアリーテイル・エンディング・サービスと銘打っておとぎ話をテーマにした演出で有名だ。参考までにディズニー・キャラのエンディング『眠れる森の美女』はかなりお高いがオススメだ。王子さまのキスを受けながらエンディングを迎えられる。
「そして、いつまでもいつまでもつづくしあわせに向けて旅立ちました」
 ハリウッド由来・ヴァイオレント仕様のエンディングも評判がよい。
 機関銃を乱射しながら、全身に銃弾を浴びてこの世に別れをつけることができる『ワイルドバンチ』。おたがいに殺し合ってエンディングを迎える『ハンガー・ゲームズ』など。
 クルーズ船からは遺族にむけて、故人からの別れの挨拶状や船長からのお見送りレポート(感動的!)にそえて遺族の一人ひとりに向けてのプレゼントが贈られる。
 
 最近の老人はしあわせだ。だれでも、こういうハッピーリタイアを迎えることができる。80歳の誕生日までにハッピーリタイア申請を役所にだせばよい。マイナンバーカードがあれば申請手続きは簡単だ。サインひとつで済む。ほとんどの市役所に専用窓口が設けられている。問い合わせにも気軽に親切に対応してくれるので安心だ。

 2028年に日本の老人安楽死制度にかかわる法律(いわゆる成田法)は世界中でも注目されている。韓国や中国、イタリアなどでも同様の法の施行が検討されているという。


 以上は、成田悠輔先生がお励ましになっている高齢者集団自決論に触発された愚論です。たしかに成田先生がご心配の通り、今後高齢化率はどんどん上昇し、同氏が高齢者となられる30年後、2055年以降は、30パーセント台後半、40パーセントに迫ることが予想されています。なんと言っても少子化の影響がおおきい。ですから2060年くらいを目標に高齢者自決制度の確立をお考えになっておられるのではないか、と思います。そうすれば、みずから率先垂範されて無責任のそしりも免れるという高邁なお志とおみうけします。今以上にはるかにきびしい未来を予測して不安におびえておられる若い世代のみなさまの心情を想うと同情にたえません。
 ただ「歳をとったら自決するんだ」などと力むよりは、たくさん子供を作って安心な人口ピラミッドを形成する施策に取り組まれるほうが建設的な気がします。以上老婆心よりひとこと。

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