働く、働かない

お金が無いと生きていけないよ

もうそんな歳にもなって働かないの？
みっともない

学生じゃないんだよ

「たまに、全部を捨てて逃げたくなる」と言った
あの子の目は、

わたしが大学生のときに一目惚れした目と違って
触ったら零れて砕けてしまう気がした

考えても仕方がないことだとは分かっていても
想像してしまった

税金とか保険、年金
生きているだけでいろんなお金がかかって

働かなきゃお金がもらえない

あの子と過ごす1年間のうち
7割は朝から夜まで仕事

月に一緒にゆっくりできるのは
仕事の時間よりも短い

くまのかばん

やりがいがあって
楽しいなら素敵

楽しいことだけじゃ生きていけない
誰も近くにいないのに
いつもそう言われる気がする

親の声、世間の声が
勝手に耳元で再生される

「ここまで頑張った後、
あとで良かったと思えるから」

それより先に心が死んじゃったら？

クレーム対応の毎日
残業代は誤魔化されて労基に訴えられないように
ギリギリにしてたり、減給されたり

「がんばるからね、大丈夫だよ」

うなされているのか
汗と涙を流しながら眠るあの子を見る日が増えた

世間とか 親から
「華々しい世界で活躍できるのは
夢を掴めるのはほんの1部の天才だけ
才能がある子だけ」
という言葉をたくさん聞いて

気付かないうちに
小学生のときに本気で目指してた夢は
大学生を卒業する頃には消えて

憧れる日々だけが続いた

なかにスライスチーズ入ってるオムライス

スイスにいきたいね
のんびり芝生で寝転がって休日過ごしたいね、とか

絵本とか転生ものの漫画を見たり
ホームアローンとかナイトミュージアムを見て
ふたりでたくさん笑った

うれしそうに（◜𖥦◝ ）って笑うあの子が
可愛くて苦しくなった

10分くらい考えて
「全部捨てて逃げようか」と言おうと思ったけど

やっぱり「現実」が
わたしの頭を埋めつくして
声が出なくなった

ドラえもんのもしもボックスがほしい