東方創想話 作品集237 ピックアップレビュー

作品集237の闇概略です。リスペクト。感想をもう一度書きたい作品が多かったのでちまちま書いていたのをまとめました。

「クソ秘封俱楽部」 
著 蟹のふんどし氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1630747346
 私実はメリーの一人称がとても好きなんです。蓮子に並々ならぬ思いを寄せるメリーの暴走気味の感情が滅茶苦茶に描かれていて面白おかしく読めました。二人ともなんやかんやで幸せそうですし、きっとこれからも白昼堂々にイチャイチャし続けるのでしょう。こういう尖った愛情の表し方が魅力的でした。


「AM0:52」
著 電柱。氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1630844935
 それぞれの夜を描く短編集です。夜は恐怖だとか欲望だとか、様々な側面を映し出す時間だと思うのですが、やはり幻想郷の住民たちはいろんなものを抱えていて、必死に生きているんだなと、読み切ってからそんな風に思いました。短編集であり、どの話も語り口が違うので、読み手の好みに合うお話が必ず一つ以上はあるのではないかと。
 個人的にお気に入りは『ぬえの鳴く夜は』と『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』です。前者は短いながら不気味さと喪失感とを強く演出する語り口がとても魅力的です。後者は輝夜と妹紅の仲の良さが描かれていて、なんといいますか尊いと言いますか、夜という情景が切なさと恥じらいを隠すような演出となっていて、非常に悶々としました。タイトルも1と12で微妙なつながり?を感じて憎い演出だと思いました。


「悪党水蜜只今見参」
著 封筒おとした氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1631617319
 氏の作品はどれもこのとりつかれたように力の籠った文体や言葉選びが好みで、読んでいて非常に鬼気迫る感覚があるのですが、今作は村紗が衝動や欲望と向き合うという内容なだけに、絶妙にマッチしているように思えました。火をつける、人を殺めるという人間の感覚では最大級の悪事をどこか興奮気味に想像する半面、その重圧に耐えきれず責任転嫁しているところが自分の中で消化できずに焦燥に駆られているようにも見え、あまりにも救われないと感じます。せめて悪事の際は完全に狂気に飲まれてしまえば……しかし、ラストの一文が複雑な村紗の心情を象徴しているようで、あれだけの大事をやらかしたとしても彼女は救われないし変われないのだと思うと、どうしようもない切なさがあります。きっとこれからもひたすら悪事を繰り返して、埋まるはずのない穴を塞ごうとし続けるのでしょう。そんな村紗の葛藤を描き切った怪作でありました。


「夜をぶっ飛ばせ」
著 かはつるみ氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1631137065
 酔いのまわった彼女たちが繰り広げる乱痴気騒ぎ、それを象徴するようなビール瓶をぶちまける行為が笑いを誘いつつも、退廃的、虚無的でありました。夜に気が昂りはしゃぐという妖怪的な側面は、若者の持つ破滅願望にも似ていて、刹那的な快感を享受し続ける彼女たちには確かな熱気とともに、暗く冷たい部分を感じさせるものでした。フロアで夜をぶっ飛ばすために踊り狂う様は楽しそうな地獄絵図で、傍目から見ている分には滑稽なのですが、同時にもの悲しさが余韻として残る、そんな印象でした。


「幼人形の喜劇 オピオイド風味」
著 チャーシューメン氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1632367662
 メディスンの視点で語られる事件解決までの流れが、かみ合っていないのにとんとん拍子に進むという非常にコメディチックな面白さがありました。語り部が偏っていると実際に描かれるストーリーラインと齟齬が生じるのは一人称視点の面白さだと思うのですが、その利点を存分に生かした作品だと思います。あと最後のほうで人間たちに褒められて照れたような反応するメディスンがかわいらしくて良かったです。


「星は藍色の空に輝く【上巻】【下巻】」
著 朝顔氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1633955770
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1634647366
 藍と星という異色のカップリングものでありながら、470kb越えで語られる丁寧な物語と、共通点が示唆される描写は説得力の塊でした。何気ない出会いから、数々のエピソードを経て少しづつ距離を詰めていき、最後にくっつくという王道の展開を、1から10までじっくり書ききった執念に脱帽です。二人とも立場があって、仕える主があって、だからこそ二人の出会いはその関係性を見つめなおす機会になっていて、葛藤が積み重なっていきます。どこかで引っ掛かりを覚えながら、やり取りをして、初々しくその昂りを楽しんで、やっぱり苦しんで、最後にその棘が取れて成立する様が愛おしいものです。カップリングには適正な距離感というのがあると思うのですが、この作品は塩梅が絶妙で、その焦らされるような感覚と強い説得力が相まって、ラストでは二人を祝福したい気持ちでいっぱいになりました。老成はしているけどどこまでも初々しく、思いを寄せ合う二人が素敵でした。


「風景を見る蝸牛」
著 こだい氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1638798347
 舞の成長譚ともいえるお話だと思いました。情景や風景の執拗な描写が舞の精神状態を示しているようで、前半の街の雰囲気は大人びた成長を拒む子供のそれで、そこからやつのおかげで解放された後の学校での生活は、それなりに楽しく前向きに生きていこうと変化したように思えました。ただ、舞自身は急激な変化を嫌っていて、成長だったり、環境の変化だったりを拒み続けてる印象でした。100万円をため続けていたことだったり、空想を脅かすネコちゃんを殺したいと思ったり、のんびりと風景を眺め続けたり、そんな彼女にでも変わるべきときは否応なしに訪れるし、それを受け入れなければならない。現代で生きていくためにはそれは必要なことで、幻想郷とは別の感覚だと思います。だからこそ読み終わった後の余韻が素晴らしく、彼女の心情の変化を思って浸っていたいと思える作品でありました。


「イロと白黒つける話」
著 neo1964
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1639241929
 俗物な映姫が大変魅力的でありました。この映姫にとって一番大切な矜持は囲碁で強いことであり、それに執着するあまりそのほかの恥や外聞は気にもかけないというふてぶてしさが、彼女の人間っぽい感性を形作っているように思えます。永琳を打ち負かすシーンがかわいらしくてお気に入りです。映姫に限らず、勇儀もそうですがキャラクターたちの価値観の偏りが描かれていると、それが魅力的に感じられます。映姫のイロも台詞はないものの、狂気を持った人間のような強者らしさがあり、映姫の傍が似合っていました。

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