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森のサーカス団

野ネズミのリリィの夢は、サーカス団に入ること。
それも一番の花形、空中ブランコのスターになることだった。
でも野ネズミは森の動物達の中でも一番小さい動物だったから、リリィが夢を話しても皆笑って取り合ってはくれなかった。


森のサーカスは、ランタンの灯りの中で行われる。
落ち葉と枯枝を、ゴミとして捨てられたガラス瓶の中に入れて作る、動物たちお手製のランタンだ。
小鳥と虫たちは音楽隊。
空中ブランコは、猿たちの競技だ。
ロープのブランコで、結ばれた木と木の間を飛んでいく。
中でも一番人気の猿は、若いメスのナーオだった。
ナーオは真っ黒な毛並みの長い手足をしていた。
ナーオは炎の灯りに照らされて、きらきら、きらきらと輝きをこぼして走る。
彼女がブランコからブランコへ移った時、観客は一斉に立ち上がり彼女に今日一番の拍手を送った。


サーカスが終わった後の静かな森の中で、リリィはナーオを待っていた。
やがて身支度が終わってナーオが出てくると、リリィは思い切って声をかけた。
「こんばんは。リリィといいます。私も空中ブランコをやりたいんです」
ナーオは足元のその小さな動物に言った。
「あらあら小さいこと。ブランコは大変よ、きっと難しいわ」
そんな台詞は今まで何度も言われてきた。
リリィはめげなかった。
「頑張ります。だから私にブランコを教えてください」
ナーオはリリィの目をじっとみた。
リリィはそらさなかった。
それから10分経ったころ、にひひ、といたずらっぽい笑顔で、歯を見せてナーオが笑った。
「よし、根性みせなさい」
その日から、ナーオは毎日リリィに空中ブランコを教えた。

「違う違う、そうじゃないわ」
「もっと手を伸ばして、勢いをつけて」
ナーオは懇切丁寧に教えた。
リリィも必死に練習した。
それでもなかなか飛べるようにはならなかった。



1ヶ月経って、2ヶ月経って、1年が経った。
リリィはまだ飛べるようにはならなかった。
それなのに、怪我だけはどんどん増えた。
周りの動物たちも心配してリリィに言った。
「もうやめたほうがいいよ」
でもリリィは辞めなかった。
ナーオも辞めなかった。


練習で木から落ちて10000回目。
リリィは空を見上げて考えた。
「このまま練習を続けてもダメだ」
横を見ると、ひょいひょいと身軽に気を飛び移るナーオがみえる。
手足はすっと長くて力強い。
リリィはそうだ!と身体を起こすと、ナーオに駆け寄って耳打ちした。
ナーオは大笑いをしていった。
「最高だわ、次のサーカスでそれをやりましょう」



サーカス当日。
今までで一番観客が集まった。
リリィが空中ブランコをやるということで、皆は興味津々だった。
「本当に飛べるのかな?」
半信半疑でリリィの出番を皆待っていた。

いよいよ空中ブランコの時間になった。
ナーオとともにリリィが木の上に登場する。
ランタンの灯りがリリィを照らす。
リリィは顔が熱くなってくるのを感じる。
「さぁ、行くよ」
2人は顔を見合わせて頷きあった。

ナーオの足にリリィは捕まる。
ナーオはそのままブランコに飛び乗った。
観客はおおっと声を上げる。
「そういうことか!」
リリィの小さな身体は、ナーオの長い足を邪魔することなく揺らしてみせる。
そして次の瞬間、リリィは次のブランコ目指してポーンと飛んだ。
全ての音がリリィの耳からかき消された。
全くの静寂の中、リリィはブランコに捕まって、そのまま腕を思いっきり伸ばして飛んだ。


次に気付いた時には、観客の拍手と歓声が森中に響いていた。
リリィは木の上にしっかり立っていた。
向こう側の木では、ナーオが飛び上がって手を振っている。
森に新しいスターが誕生した。


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