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リップライダー

人気美容研究家のレナ教授が、新しい口紅『リップライダー』を開発しました。
これは唇に塗ると妖精が現れて、あなたの会話を手助けしてくれるという口紅です。

リップライダーを塗って人と話すと、上手く言えない言葉も妖精が上手に誘導してサポートしてくれます。
リップライダーは大ヒット商品となりました。
中でも特に、若い女性達に人気でした。
女性達は、男性とのデートの際に塗って出かけて、ご飯をご馳走になったりプレゼントを貰ったり、上手におねだりすることに活用しました。

しかしそのうち、男女問わず皆が自分のリップライダーを持ち、塗って出掛けるようになると、諍いが起こるようになりました。
皆それぞれ自分の主張ばかりを伝え始め、妖精を巻き込んで喧嘩をしたり、妖精同士が喧嘩をしたり、飽きてしまった妖精が勝手に話し始めたりすることもありました。
世の中は大混乱に陥りました。

「こうなったのも、レナ教授の責任だ」
政府もマスコミも騒ぎ始め、世間はレナ教授に謝罪を求めました。
そうして遂に、レナ教授は記者会見を開くことになりました。

記者会見には、多くのマスコミが集まりました。
皆、唇には自分のリップライダーを塗って臨戦態勢です。
レナ教授が登場すると、一斉にフラッシュがたかれ、会場にはヤジが飛びました。

会場の人々の顔を見たレナ教授は、深い溜息をつきました。
それから、皆にこう言いました。
「まず、リップライダーを塗っている方は落としてください」
記者達は文句を言いましたが、それっきりレナ教授が黙ってしまったので、渋々リップライダーを落としました。
「ありがとうございます。それでは、ここに1本のリップライダーがあります。これを皆で塗りましょう」
そして会場中の記者が1本のリップライダーを塗り、最後にレナ教授も塗りました。
妖精はたった1人、ふわっと現れてひらひらと飛びました。
レナ教授はにっこり笑って言いました。
「会話は1人でするものではありません。これは皆で使うものです」
レナ教授の言葉は、妖精が会場中の記者達に均等に伝えたので、皆にしっかりと行き届きました。

1人の記者が手を叩き、やがて会場には大きな拍手の渦が湧き起こりました。
いつのまにか皆のリップライダーから出てきた妖精達も、嬉しそうに会場中を飛び回りました。



次の日の新聞の一面には、こんなタイトルが載りました。
『会話は誰かとするもの。使い方を誤るな』



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