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サバンナに

この広大なサバンナには、幾千もの生き物たちが暮らしている。
大きいもの、小さいもの、数が多いもの、少ないもの。
皆が仲良く、時に生きるために争いながら、そうやって決まりのない秩序の中暮らしていた。



「花かんむりの作り方を知ってる?」
野ウサギの彼女は得意げに、自ら作った花冠を頭に載せて、くるんと回った。
わぁっとネズミやアリクイたちが拍手する。
ゾウやキリンは、その大きな体を震わせて、そうっと感嘆を伝えた。
「すごいや。どうやって覚えたの?」
ネズミの子どもが身を乗り出して、彼女に尋ねると
「ふふふ。内緒」
と彼女は鼻をひくひくさせて微笑んだ。
季節は乾季で、乾燥したサバンナには度々土煙が舞っている。
強い陽射しが、動物たちの背中を焼いていた。
でも、興奮した動物たちはそんなこと御構い無しだ。


「ヤシャはいっつも内緒にする」
ネズミの子どもがふくれっ面をする。
ヤシャと呼ばれた野ウサギの彼女は、まぁまぁ、と優しい声でその子をなだめ、頭に花かんむりを載せてやる。
ネズミの子どもはあっという間にご機嫌になった。
「ヤシャ、そろそろ時間だよ」
野ウサギの仲間のホロイに呼ばれ、ヤシャは皆に手を振った。
「今日はここまで。ばいばい」
「ヤシャ、また来てよね!」
サバンナの動物たちは、ヤシャに大きく手を振った。



「ヤシャは、僕たち野ウサギよりも他の動物たちといることが多いよね」
帰り道、ホロイが仏頂面で言う。
「"よりも"って事はないけど」
ヤシャは道の途中にあった珍しい花をちょんと千切ると頭に差しながら答えた。
帰ったら母さんに見せよう、と思った。


するとそこでホロイが立ち止まった。
「だってたまにライオンとかともいるじゃない。怖くないの?」
ホロイは心配そうな顔をしている。
「人間とも一緒にいたことあるって、本当なの?」
ヤシャはゆっくりと彼の真正面に立った。
真っ直ぐな目。
ホロイは思わずたじろいだ。
「怖いと思うなら、自分で確かめてみたらいい。私は自分の目で見たことを信じてる」
ヤシャはそう言うと、ホロイを置いてさっさと寝ぐらに帰って行った。



その夜、サバンナにはスコールが降った。
珍しく朝まで降り続いたその雨は、時折雷が鳴って、稲妻が地上を刺していた。
雨季がやってきたのだ。




翌日、サバンナは騒然としていた。
ゾウやライオンなど、大きな動物たちが何匹も倒れている。
小さな動物たちは、身体を震わせて少し離れたところで様子を見守っていた。
それを見たヤシャは倒れている動物たちの中に飛び込んだ。
「何があったの?」
ライオンは息も絶え絶えこう言った。
「大きな黒い塊が、一斉に俺たちを襲ってきたんだ。気づいたら全身が激しく痛んでいた」
ゾウは鼻をいつも以上にゆっくりと持ち上げて、ヤシャの横を指し示した。
「黒い塊は、西の方向へ去って行った」
ヤシャが飛び出そうとすると、ホロイが叫んだ。
「行ってどうするんだよ。行ったって何が出来るとも限らないじゃないか」
ヤシャも叫んだ。
「何も分からないから、行くんだ」
そうしてヤシャは西の彼方へ行ってしまった。




それからは、黒い塊に動物たちが襲われる日々が続いた。
最初は大きな動物たちばかりだったが、次第に小さな動物も狙われるようになっていった。
皆の不安は高まった。


しかしある日を境に、ぱったりと黒い塊は現れなくなった。
皆は不思議に思っていたが、きっとヤシャのおかげに違いないと考えていた。
するとある日、それに呼応するかのようにヤシャが帰ってきた。
季節はもう、次の乾季を迎えていた。




眩しい太陽の光の中、ぴょんぴょんとヤシャが飛び跳ねる。
皆は盛大に彼女を迎えた。
照りつける陽射しが彼らの肌を焼くが、そんな事は御構い無しだ。


ホロイは群衆の中、おずおずと顔を出して彼女を見ていた。
ヤシャは彼を見つけると駆け寄った。
「心配かけてごめん」
ホロイは、ええっと、とか、あのさ、と言ってしどろもどろになっていたが、やがてえいっとヤシャの頭に何かを載せた。


花かんむりだった。



「おかえり、ヤシャ」






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