レースゲーム
あと54秒。
僕は手元の時計を確認する。
食うか食われるか、一分一秒を争う疾走感。
口元が思わず緩む。
「たまんねぇ」
僕は思い切りアクセルを踏んでやる。
ここは都会のど真ん中に作られた、巨大なゲームセンターだ。
中では日夜問わず、様々なゲームが繰り広げられている。
僕はその中でも一位二位を争う利用者数を誇るレースゲームに、今、人生最大級にハマっている。
比喩でなく、寝食忘れて没頭しているのだ。
寝たり食べたりしてるいる時間があったらレースがしたい。
それだけだ。
「調子、また上がってるみたいじゃん」
レースに勝って一息ついていると、どんっと音を立てて横に壁が出来る。
同期の祐也だ。
「まだまだ、上げるよ」
僕が言うと祐也は、言うねー、と嬉しそうに僕の肩をバシバシ叩く。
祐也は気のいい奴だ。
いや、このゲームに熱狂している奴らに悪い奴なんかいない。
そんな気持ちでいる暇なんて、無い。
「でも不思議だよなぁ」
次のレースを待つ間、頬杖をつきながら祐也がぼんやりと独りごちる。
「一昔前はさ、このゲームを"仕事"と称して金を払って強制的にやらせてたって言うんだから」
このレースゲームは、世界中のあらゆるシステムの新機能を作る時間を競うものだ。
祐也の言葉に、僕は昔を想像する。
プログラミングでシステムを作ることが単なる仕事だった時代。
時には精神を病むほどに、その仕事は過酷であったと言う。
それが100年経って、バグ修正は仕事でもあるが娯楽にもなった。
今や仕事と娯楽に境目は無い。
「金を貰ってやってた連中の中に、俺たちみたいに、楽しくなっちゃった奴らがいたんだろ」
僕が言うと、祐也が聞く。
「俺たちみたいに?」
そこで、ポーンと次のレースが始まる合図が響いた。
僕は飲みかけのジュースを祐也にほいっと渡すと言った。
「俺たちみたいな、変態ってことだよ」
祐也が、パチンと指を鳴らす。
「それいいね」
僕はひらひらと手を振って、レースに向かう。
コックピットに入ると、部屋中の画面にはプログラムの英数字が羅列されている。
僕は血管がざわめいて、心臓がばくばくするのを感じていた。
脳のアクセルが今か今かと蒸されるのを待っている。
「やっぱこれは普通じゃないな」
口元を擦りながら呟く。
さぁ、行くか。
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