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夢の世界の工場

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この夏に亡くなったさくらももこさんによせて。ご冥福をお祈りします。
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「全く、そんなに寝てばっかりいて。あなたはほんとに"眠り姫"なんだから」
それは昔からの母の口癖だ。
そんなことを言われても仕方がない。
とにかく、私はいつだって眠いのだ。


今日は夏休みの真ん中で、ニュースでは酷暑だと言っていた。
ミンミンゼミとアブラゼミの混ざった鳴き声で外は溢れてかえっている。
私は日陰になった縁側でスイカを食べながら、風鈴の音を聴いていた。
風流だなぁ。
そんな風に思っていたら、眠くなってきて、私は抗うことなく昼寝した。


夢の世界には、大きな工場が1つある。
中にはここでしかみたことのない不思議な生き物たちが動いている。皆働いているかと思いきや、そんなことはない。思い思いに、おしゃべりしたり遊んだり、そして気が向いた時にちょっとだけ働いていた。

私はさっきみていた風景を大きなタライに入れる。
蝉の声や風鈴の音、酷暑の中の日陰の心地よさなんかだ。
タライが風景でいっぱいになると、ぐおんと上にロープで持ち上げられて、次に大きな銀色のドラム缶に入れられてぐるぐると回転した。
その先のベルトコンベアーでは、春に見た桜並木が砂利道と混ざって出来た、お饅頭が運ばれてきていた。
ひょいっと一つとって食べてみると、とても甘くて美味しかった。

「あ、ずるいんだぞー」
声がして振り向くと、太陽のような顔をした少年が私を見上げていた。
私が返事に困っていると、今度はお花のようなライオンのような動物が横にやってきて言う。
「食べたいなら君も食べなよ」
その子はお饅頭をパクッと一口で食べると、美味しーいと世にも幸せそうな顔をした。

工場の外に出ると、空から「おやつよー」と母の呼ぶ声がした。
「あ、おやつ!行かなきゃ」
私は太陽とお花に別れを告げて、空に向かって飛んだ。


「また寝ていたの?」
目を開けると、呆れ顔で母が私をのぞき込んでいた。
おやつは桃だった。薄ピンクのザラザラした皮を剥きながら、母は言う。
「全く、あなたはどうして眠り姫なのかしら」
どうしてかしら。
さっきまでいた工場のことを思いながら私はぼんやり考える。
きっと、そういう風にできているのだ。

母にもいつか、あの工場をみせてあげたいな。


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#あなたに捧ぐ物語


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